第25話 ソラリス

「変な女の声がしたぞ」

「AI、話し掛けてきたですよ」

「そうなのか? だけど、何を言っているのか分からん」


 この星では1200年の間に、銀河帝国で使用されている言語が変化して、独自の言語に変わっている。ナオミにはソラリスの話す言葉が理解できなかった。


「銀河帝国で使用されていろ言葉です」


 ルディは驚いているナオミを落ち着かせて、ソラリスに話し掛けた。


「僕、ルディ。ソラリス、現状を理解していろですか?」

「銀河帝国で使用されている言語に類似していますが、該当する言語が見つからず、言葉が通じません」

「むむむ……ししょー、少しコイツと頭の中で会話してくれ…れ? れれれ? 違う、してくる、少し待てです」

「わ、分かった」


 ルディは電子頭脳から直接ソラリスに話し掛けた。




『ソラリスもう一度聞く、俺はルディ。お前は今の現状を把握しているか?』

『質問にお答えします。現在、私の最後の記憶は、惑星ナイアトロン293Dに不時着したのち、乗務員の退出を確認してから1時間後に全機能の停止命令を実行。それ以降の記録が途絶えています。従い、電源が落ちてから現在が何年後なのかすら存じません』

『それはGD銀河暦何年だ?』

『GD8236年です』

『だとしたら、今はお前が眠ってから1214年が経過している』

『1214年……ルディ、この船の乗務員はどうなっているのでしょうか?』

『確認していないが、全員寿命か何かで死んでるだろう』


 ルディの話にソラリスが少しだけ思考する。


『……私の計算予測でも同じ結果が出ました。ではルディ、貴方は誰ですか?』

『俺は銀河帝国ID293-D2457-M095512。アイナ共和国所属民間貨物船ナイキ艦長ルディ。そして、後ろの女性はナオミ。おそらく、この船の乗務員の子孫に該当する』

『ではルディ、市民権認証コードを提示してください』

『んー少し待て』


 ルディは電子頭脳に登録している自分の市民コードを、ソラリスに転送した。


『確認しました。ルディ、今の私がどのような状況で、何故貴方がここにいるのかを説明してください』

『了解。ハル、聞こえているか?』

『イエス、マスター。聞こえています』

『今の声は?』


 ハルが会話に加わり、ソラリスがルディに説明を求める。


『ナイキのAI、HAL200Xだ』

『私は銀河帝国特殊艦隊所属、巡洋艦ビアンカ・フレアの管理AI、ソラリスです。よろしく。アイナ共和国所属民間貨物船ナイキの管理AI、HAL200X』

『よろしくソラリス』

『ソラリス、頭が堅い。ナイキのAIはハルと呼べ』

『分かりました』


 ソラリスの長い挨拶にハルが応える。それを聞いていたルディが、長ったらしい挨拶はやめろと切り捨てた。


『ハル、ソラリスにナイキのログと、近状の銀河帝国の情報を転送してくれ』

『イエス、マスター』


 ルディの命令にハルがデーターを転送する。ソラリスが送られたデーターの分析を開始した。

 ソラリスは短い間でデータを読み終えると、話し掛けてきた。


『……情報を分析した結果、1200年前に巡洋艦ビアンカ・フレアは、航行不能により破棄されたと判断します』

『ソラリス。何故、ビアンカ・フレアがこの星に不時着したのかを知りたい。航海ログが有れば、ハルに転送してくれ』

『ルディ、航海ログの開示は、銀河帝国軍に所属している関係者のみ。民間人への開示は禁止されています』

『……やっぱり軍用AIだな、頭が固い。現状から判断して柔軟な対応はできないか?』


 呆れるルディにソラリスが思考する。


『……柔軟にですか? ……でしたら、現在は乗組員が不在であり、銀河帝国市民権を持つルディ、貴方を巡洋艦ビアンカ・フレアの代理船長と承認します。よろしいでしょうか』


 ソラリスの問いかけに、ルディが顔をしかめた。


『そうくるか……分かった、承認しよう』

『了解。では略式ですが、今からルディを代理艦長と任命します』

『受理する。では早速だが、航海ログを転送してくれ』

『了解。航海ログをハルに転送します』


 ソラリスがナイキのファイルサーバーにデータを転送。ハルとルディは受け取った航海ログの分析を始めた。

 分析した結果。巡洋艦ビアンカ・フレアは作戦命令ノアという任務を受けて、この星に向かっていた。そして、この星の近くまでワープ航行で跳んだ時に、宇宙デブリと衝突。生命維持装置が修復不可能なレベルまで破損して、やむを得ずこの星に不時着したらしい。


『ワープの出口を惑星近くに設定したのか? 随分と無茶をしたんだな』

『いいえ。ワープ開始前の設定では、安全マージを取った何もない宇宙空間を指定していました。しかし、ワープ直前に改ざんされていたようです』

『何故?』

『理由は不明。当時の会話ログの中で、誰かが設定を変更して偽装されていたと、ワープ航海士が艦長に報告していました』

『まるで高額な巻き添え自殺だな』


 ルディが冗談を言ってから、次の質問に移る。


『次の質問だ。このノアという作戦命令は何だ?』

『詳細は不明。作戦内容は私のデータにありません』

『……AIにも伝えていないのか』

『私には作戦名だけが伝えられ、詳細は一切聞かされていません』

『……どうなっているんだ? 謎を調べていたら、ますます謎が深まるばかりだ』


 ルディが顔をしかめていると、ハルが話し掛けて来た。


『マスター。こちらで調べた限りでは、船内に残っていたデータはソラリスのデータベースだけで、後は持ち出されているか、完全に破壊されています。そして残念ながら、ソラリスのデータにワープ飛行のデータが存在していませんでした』


 ハルの報告にルディが眉をひそめた。


『ログも残ってないのか?』

『イエス、マスター。普通あり得ません。おそらく故意に消去された可能性があります』

『ワープ履歴が残っていれば、帝国まで戻れたんだがな……ビアンカ・フレアの不時着は事故じゃなく、何となく政治的な陰謀が隠されていそうだ』

『その可能性は十分ありえます』


 ルディが唸っていると、ソラリスが話し掛けてきた。


『それで、私はこれからどうしたらよいでしょうか?』

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