始まり、そして終わり③

 ー病院の一室ー


 「おはよう、春香。今日もいい天気だな」


 俺は君のいる病室に今日も通う。

 あの事故の後から俺は大学を辞めて、就職することにした。

 君は望んで無いかもしれないけど、君との時間を長く過ごしたいから。

 開いた窓から外を眺めるような姿勢をとる君に陽が差して、今日の君はいつも以上に生気に満ちているように感じる。


 「今でもあの桜並木が目に入ると、あの光景を思い出すよ」


 「楽しかったあの日々を……」


 「俺の怪我が完治した時、春香の両親に会いに行ったよ」


 俺は君の両親に事故の話をした。

 話して、謝って、君がいないことに気付いて悲しくなって、涙が溢れて、君のお母さんが俺にハンカチを差し出してくれた。

 君のお父さんには、「男が泣くな」と一喝されたけど、その言葉は俺と同じで震えていた。きっと、俺以上の悲しみを抱えていたんだと思う。


 「もう、この話は何度もしたよな。でも俺は、春香がいつか反応してくれると信じて毎日話すから、お互い頑張ろうな」


 俺はそう言った後、君に本当に伝えたかったことを話す。


 「今日は、春香に言いたいことがあるんだ、いや伝えたいことかな」


 「今日であの事故から3年目。あの時約束したことは覚えてる?」


 「今日は、それを伝えたくて仕事も休んで朝から来たんだ」


 「春香のお父さんからは、同情はいらないなんて言われたけど、あの日から俺の気持ちは変わらないって話したら、認めてくれたよ」


 「……じゃあ、また明日!」


 その一言の後に流した君の涙が頬を濡らして、まるでそれは眠りから覚めたお姫様のようだった。

 けど、君はまだ目覚めていなくて、俺は君しかいない病室を後にした。



 君に俺の名前が書かれた婚約証明書を抱き抱えさせて……。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

甘くて、辛い 玉響翔 @TAMAYURA_SHOU

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ