見上げても、そこにあるのは白い天井だけ

長谷川昏

1.三回忌

 人には理性があるから、いつも発情している訳じゃない。

 十五才の僕でも、それは理解している。

 ほとんど接点のなかった母方の曾祖母の三回忌。

 関係ないと思えば思うほど、してはいけないことばかり考えてしまう。

 礼服を着た人達が正座して並ぶその一番後ろ。僕の斜め前には叔父の窪田くぼた信二しんじがいる。日頃から折り合いが悪い僕の母に読経が始まる前に、また小言を言われていた。姉である母とは仲が悪いが、僕は叔父のことが好きだ。慕っているという意味ではなく、好意を抱いている。もっと直接的に言えば、欲望の対象だ。

 できればいつかセックスしたい。お坊さんが読み上げるよく分からない経を聞いていると、よりそう思う。この後も退屈な食事会が続くと思えば、その閉塞感が性欲に変換される。

 僕より十七才年上の叔父は子供の僕から見てもだらしない。長年定職に就かず、母が言うには食べさせてくれる女性の所を渡り歩いているらしい。

 顔が特別いい訳じゃない。でも女性の方が放っておかない。「甘やかさなきゃいいのに」と母は言うが、彼女も数年前まで叔父の面倒を見ていた。

 僕にも叔父に惹かれる女性達の気持ちが分かる。叔父には何かを諦めてしまった退廃的な気配が漂っている。それがそういったものを欲する人の心の隙間に入り込んで、いとも簡単に絡め取られる。

 表には決して出せない湿った欲望を抱いて叔父の横顔を眺めていたら、彼があくびをした。その無防備な様子に僕は勃起しそうになる。

 気を逸らそうと別のことを考えようとして、余計いやらしいことを考えてしまう悪循環。前にいるおばさんの首の皺やおじさんの汚い靴下に目を向けて、最後にお坊さんの頭を見たら急激に萎えた。

 その現金さに笑いが零れたら振り返った叔父と目が合って、結局勃起した。

 

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