第2話 衝突と未来
「今回は幸い怪我しなかった、よかったね……でいいの? 今後どうするのか、どうしたら同じミスをしないのかを考えるべきでしょ? まあ、頭まで筋肉でできているヨウスケにはわからないか」
「んだと? お前はなんでもかんでも、考えすぎなんだよ。この石頭!」
「はあ? 考えないより、あれこれ考えた方がいいでしょ。何も考えないで行動するとか、サル以下だね」
「んだと、こらあ! 馬鹿にしてるんじゃねえよ! お前はいつもそうやって……」
大会が近いから、互いに苛立っていたのかもしれない。言っていることがどんどんと逸れていく。いつしかぶつかった一年生から、ヨウスケへと怒りの矛先が向けられる。
性格も考え方も違う二人は、今までにこんな言い合いをすることは、日常茶飯事でもあった。でも、今回は言い争いがさらに発展し、今にも殴り合いになりそうな、そんな雰囲気が出ている。
「ほら、そこっ! いつまでサボってる! とっとと練習に戻れ!」
繰り返し短く笛を鳴らしながら、監督が争う現場へやってくる。
集まっていた部員たちは、小さく「はい」と返事をし、各々練習へと戻っていった。
「お前らなあ……さっきまであんなに仲がよかったのに、なんで急に喧嘩すんだか……今日はお前ら、頭を冷やせ。残りの時間、二人ともランニングだ」
大きなため息をつきながら、監督はそう言った。
「……うっす」
「はい……」
監督の指示に逆らうことはできない。
まだ怒りを完全にはなくすことができないまま、ランニングを始めた。
☆
部活が終わるころには太陽が沈み、空には月と星が瞬いていた。
ヨウスケの住む地域には、高い建物も、遅くまで明かりがともるような建物もないので、輝く星を邪魔するものはない。何メートルごとかにぽつぽつと建てられた街灯と一緒に、夜道を優しく照らしてくれている。
優しい光に照らされた人気のない道をヨウスケは一人、教科書や着替えが入った重いエナメルのバッグを肩にかけて歩いていた。
街の中心部からも外れたこの場所は元々人が少ない地域である。日中は主婦や老人が歩いているが、夜になるとぐんと人が減る。それでもいつもは誰かが歩いているのだが、今日はなぜか誰ともすれ違わない。
もしかしたら、いつもより部活が終わった時間が遅いからかもしれない。普段であれば、疲れた顔で家に帰ろうとするサラリーマンがいるはず。なのに、たまたま誰もいなかったことから、そう推測した。
「はあ……」
誰もいなければいいや、と急に背中を丸くし、ヨウスケは大きくため息をつく。人がいないから、大きく深いため息でも、独り言を言っても気にかける人はいない。何をしても、人目を気にしなくていいことに安心していた。
ため息の理由は、先ほどの部活の件だ。
他の学校との練習試合で結果を残し始めたサッカー部。それもあって、今年は大きく期待されていた。目指すは県大会優勝。そして全国大会出場。上級生がいる中での最後の大会の目標はとても高い。
だから練習が大切である。なのに、ハヤトと醜い喧嘩をしてしまった。
喧嘩をしてしまった後は、一切会話をすることなく部活は終わった。何か言おうと、ちらりとハヤトを見た。だけど、ハヤトは一切ヨウスケと目を合わせることなく、そそくさと帰って行ってしまっている。
ヨウスケはランニング中に怒りが静まり、頭を冷やして冷静になることができた。
だからちゃんと謝ろうと考え、その言い方に頭を悩ませているうちに、解散となってしまったのだ。
「くっそー……ハヤトのやつめ。帰るの早すぎなんだよなあ。どんだけ俺を避けてるんだよ。滅入るなあ。嫌われてたらヤダなあ。うーん、どうすっかなぁ……」
幼いころからずっと一緒にサッカーをしてきたハヤトとは、レギュラー同士。
互いに切磋琢磨する、よきライバルであり、よきチームメイト。そして何でも言い合える親友としての関係。だから、互いに譲らない言い争いになることがたびたびあった。
何事も直感で動くヨウスケに対し、理論的に考えるハヤト。
一見相容れないような正反対の性格。でも正反対だからこそ、互いのないものを満たすことでうまくやってきた。
たとえ喧嘩をしても、次の日からは謝ることもなく、自然と元通りの関係になる。そして一緒にサッカーをやるのだ。まるで何事もなかったかのように。それがヨウスケにとって当たり前であった。
「はあ……明日、一応謝るか。ハヤト、意外とネチネチしてるもんな。後輩も一緒に謝った方がいいよな。てか、謝るしかねえよなあ。じゃあなんて言うか……素直にごめん? すまなかった? 悪かった? いや、でもなあ。どれもピンとこないし」
同じクラスではあるけれど、教室で謝ることができるだろうか。教室だと他のクラスメイト達からの視線が気になってしまうだろう。それなら、他の場所の方がいい。
だったら、部活で顔を合わせることになる。朝の練習と放課後の練習、チャンスはいっぱいある。どこかできっと、謝ることができるだろうと、ヨウスケは前を向いた。
明日になったらハヤトも頭を冷やして冷静になるだろう。
ちゃんと謝って、それで仲直りしてまた元通り、一緒に大好きなサッカーができる。
当たり前にくる明日へ向け、星が輝く空の下で、あれこれ考えながら家へと向かった。
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