栄光と強欲、呪いと祝福。

さんまぐ

第1話 祝福されなかった少年。

少年は廃墟に居た。

少年の姿はボロボロで身なりも悪い。

全身上から下まで安物のボロボロを見に纏っていた。


武器代わりなのか、手に持っていた壁材はボロボロと崩れ去る。

「ちっ…もうか…、15個目だったのに…」そう言う少年の足元には金の装飾が映える真っ黒な鎧の騎士が居た。

兜は壁材で殴られて割れていて、中身は人と思えない異形の顔。

その顔が苦悶の表情で絶命していた。



少年は城に居た。

城は人のものではないのか池の水は紫色で、悪臭漂うガスを発生させていて烏がガスで池に落ちると溶けていた。

木々なんかはなく代わりにあるのは木の杭に貫かれた人間の死体。



ここは魔王城。


先日廃墟で倒したのは暴虐のゴシロトヒ。

殺した人間の怨念を喰らって生きる魔族と呼ばれる種族だった。


この世界には人間や動物の他に魔物や魔族が生きている。

没交渉の不可侵で生きれば良いものを魔物は動物を、魔族は人間を忌み嫌い襲いかかってきていた。


別に魔物の住む世界は狭くない。世界の半分は魔物と魔族の世界で人間と動物の世界は残りの半分。

それなのに魔物や魔族は人間と動物の世界に足を踏み入れてきて気の向くままに蹂躙を繰り返す。


杭に貫かれた人間はただただ侵略され捕まった人間達だった。


少年は人間の死体を見ても心は動かない。

何も無い、無の気持ちで城の奥を目指す。

魔王城の奥に居ると言われている魔王バースオブデスを倒してくればそれでいい。

それを命じられ、今ここに居る。

拒むことも勿論出来たがそれは少年も少年の後見人も望んでいなかった。



少年には唯一の目的があった。

その目的の為にはバースオブデスを倒す必要があった。


城に入ると骨の魔物が上等な剣を持って襲いかかってきた。

少年は足元に落ちていた剣で受け止めると剣はいとも簡単に折れた。


「だろうな!」

忌々しそうにそう言って骨の魔物を殴り倒すと上等な剣を手に取る。

そして次々と襲いかかってくる骨の魔物と戦う。

だが上等で先程少年の剣をいとも簡単に折った剣は一撃で折れ飛んだ。


「またかよ!」

少年は倒した骨の魔物の大腿骨を手にして殴り付けていく。

三度は無理でも二度の攻撃が出来ていた。


暫く戦うと骨の魔物は全て倒されていた。

肩で息をする少年は息を整えると更に奥に進んでいく。

地下深くに置かれた大きな扉を開けるとそこには金糸をあしらった黒と赤の服を着た人に近い姿をした男がいる。


「バースオブデスか?」

「そうだ、フラインググリード」


少年はフラインググリードと呼ばれた名に憎々しそうな顔で反応をすると「ちっ…」と言った。その表情に満足をしたバースオブデスは少年に質問をした。


「本名はなんと言う?」

「ノーグ」


「歳は?」

「12」


「そうか。忌子がなぜ魔王討伐など?断れば良かっただろう?」

「…言われたから、後はジョカーにも言われた、俺もやる事の為にお前を倒す」


「…そうか。お前さえ良ければここに住んでもいいぞ?」

「そうはいかない」


「そうか、お前のやる事とはなんだ?」

「神に会う為だ!」

この言葉で始まる死闘に続く死闘。

何度も魔王の攻撃がノーグを捕らえるがノーグは激痛にのたうち回りながらも立ち上がり最後には魔王を倒した。


「…やってやったぞ、ジョカー」

ノーグはそう言いながら何でこうなったかを振り返っていた。



フラインググリード

それがノーグの忌名。

この世界は神に作られ神の祝福を得て存在している。

祝福は人だけではない。

動物も魔物も魔族も等しく受ける。


祝福は3つある。

神から授かる祝福。

父から受ける祝福。

母から受ける祝福。


それらが人を形成する。

神から生まれた人間。

人は両親から生まれる。


だから3つの祝福。


フラインググリード

不正出発をした強欲。

この不名誉な二つ名はノーグの母が問題だった。


子供は日付が変わってすぐに産むといい。

それはこの世界の神が一日に2000人の子供に祝福を与えていて、生まれるとその子供を産んだ親に何番目の子だと伝える。

臨月、それも近日中に子が生まれる親はその声が聞こえる。

よその子が生まれるたびに聞こえてくる番号を告げる声に合わせて子供に「まだ生まれないでね」「もう生まれて」と話しかけたりしていた。

そして神の力で親の声は子供に届き、子供は待てと言われたら待った。


中には失敗する子供も居て2000を超えて生まれる子もいた。

だが両親の祝福で補完され、他の子達と何の遜色もない人生を歩める。


ノーグもそうなるはずだった。


強欲な母は己の立場に見合った子供をと願い、0時ちょうどに生み落とし1番の栄光を子供に与えたかった。


ノーグの親は恵まれた立場の人間だった。

世話をされ世継ぎを求められる立場。


世継ぎには立派になって貰わなければと願った両親。

夫の希望を一身に受けた妻は、母としてノーグを最高の状態で産み落とそうとした。



そして0時ちょうどの一番を願い失敗をした。



初産だった事、産婆の言葉を信じて子供が生まれるのは母親の声を聞いて大体5分だと言われて鵜呑みにして「そろそろ産まれて」と声をかけてしまった事。


これによりノーグは0時前に生まれてしまった。


これだけならまだ仕方ない話だが、父はその日に亡くなっていた。

ノーグを見ていない為に父の祝福はなかった。

0時に産まれたと思っていたが、日付を跨ぐ前だった事、主人を亡くした事で母は心身ともに病み、本来はグローリーから取られたグローと名づけられる予定の子供はノーグとなった。


それがノーグローリーのノーグなのかノーグリードのノーグなのかは定かではなかった。


心の壊れた母は遂にノーグを自身の子供と認識しなかった。使用人達に言われて無理矢理授乳をしただけで母ではなかった。

その為にノーグには母の祝福もなかった。

産まれた時は母が持っていた祝福の余韻があったがノーグが生まれて3ヶ月、母が死ぬ頃には祝福は無くなった、

すると恐ろしい事が起きた。


何故か人々はノーグを疎み蔑むようになる。

耐えがたい渇きに襲われ腹が裂けるまで水を飲むように抑えが効かずにノーグを疎んだ。



本来なら大切に扱われる立場の子供なので使用人達はノーグを育てなければならないが、乳母になった人間は直前まで授乳する気だったのにノーグを見るとその気が失せて済ませていないのに終わったと言ったし、周りの者も知っていても問題にしなかった。


衰弱したノーグは死ぬ事が幸せに思えた。

父と母の待つ天の国に誘われれば、そこでは幸せになれるのではないか。

だが立場ある家の嫡男を殺すわけにはいかないとなり、聖女や天女と呼ばれる修道女や医者が遣わされたが、聖女や天女ですらノーグを軽んじた。

最低限の施しのみしかしない。

だがそれでもノーグからすれば手厚い扱いだった。



冬になりノーグは死にかけた。

誰も冬の服を着せなかったし用意をしなかったからだ。


その中で突然屋敷に現れた過分な願いの魔女と呼ばれるジョカーが蔑む事なくノーグを手厚い看病で救い出すと「ふはっ」と笑いながらこう言った。


「ふはっ、酷いものだ。祝福されない子供。なら私が一つの祝福をしてやろう。お前達、この子が十になった時、私の元に来るように言うんだ。私は南の森に住んでいる」


そう言ったジョカーはノーグに施した祝福の話をした。

使用人達は耳を疑いたくなる内容だったが確かめようもない。

使用人達はその日から恐怖に囚われるようになった。


ジョカーの施した祝福により人為的な死の危険から逃れられたノーグだったが、この世界は祝福のない人間が生きるのには過酷な世界だった。


何故か、倒木がノーグの方を目指して倒れ潰し。

何故か、ノーグの食べたものだけ腐っていて食中毒になる。

何故か、木こりの斧が手からすり抜けてノーグに直撃をした。


それは故意ではない。

本当に「何故か」それは起きた。

ノーグの食事に塩を入れ忘れるくらいは当然で馬車の脱輪や馬の暴走、橋の崩落、崖崩れは日常的だった。



ノーグに斧が直撃した日、ノーグは確かに死んだ。

だがノーグは死ななかった。


死ねなかった。


魔女ジョカーの言った言葉は本当だった。


「ふはっ、私の祝福はね、この子を殺した者がこの子の代わりに死ぬ。この子が偶然死んだ時はこの子の代わりに距離の近い人間から死ぬ」


死ぬと言われては確かめようが無く、とにかく華よ蝶よと本能に抗って甲斐甲斐しく尽くすしかなかったがすぐに確かめる日が来た。来てしまった。


木こりの絶望した表情。

ノーグに斧が当たったのを見て青ざめたまま死んだ木こりの絶望した表情。


これによりノーグは死ねなくなった。

一度、本能と死の恐怖に耐えきれなくなった使用人が幼いノーグを無人の荒野に捨てた事があったが、どれだけ遠く離れた地であってもノーグから1番近い人間は死んだ。


人々がノーグを救出するまで何人も死んだ。


助けられてもノーグの不幸は止まらない。

服を買えば穴空き、ほつれ、針が残っていたなんてのは当たり前すぎてなんとも思わない。酷い場合には毒サソリが中にいて刺されて悶死するなんてザラだった。


食事にしても、味付け忘れや割れた食器が混入するのは普通で同じ食材、同じ鍋でも何故かノーグの食べたものだけは毒を有していて食中毒になる。

ノーグだけ不味い食べ物に当たるなんていうのは当たり前だった。

りんごなんかは百発百中で虫入りを引き当てた。

虫が毒虫で死ぬ事もある。



自身が普通でない事はすぐに自覚した。

そして世の中に絶望をした。

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