第6話 素晴らしき出産
美波と会った時に、いつも出産について熱く語る彼女。特に前回会ったときの話がとても印象に残っていた。
「でもね……今までの事はどれも私が自然分娩にこだわる理由としてはそんなに大きい事じゃないの」
「もっと大きい事があるの?」
すると、美波は目をキラキラさせながら言った。
「出産はね、女が最もキレイになれる、最も魅力的になれる時なんだよ」
そんな美波を見て、私はこう思った。
(美波さんの言ってた話、すごく気になる。どんな意味なんだろう?)
「カトミナ、この前言ってた『出産でキレイになる』っていう話、もっと詳しく聞かせて欲しいんだけど」早紀は美波に言った。
「ちょっと違うんだな。『出産は女が最もキレイになれる、最も魅力的になれる時』だよ」
そして、美波はニコッと笑って今度はこう言った。
「私があれこれ言うよりも、百聞は一見にしかず。実際に見た方が早いよ。これから私の家に出産のDVDを観に来ない?」
「ぜひ観たい」私ももちろん興味深々である。
私は助産師志望で看護学校でこの手のDVDは沢山観ていた。そうでなくても実家の母が助産院を経営しているから、実家でも色々見て来たのだ。でも、美波はそのことを伝えてもなおぜひ観に来るようにと誘って来た。
美波の家は鷺沼医院のすぐ近くにあった。
「出産DVDは後で母親学級でも見るけれど、もっとずっとあなた達に見せたいのがあるんだ」
「へーどんなの?」
「アクティブバース。自宅出産だよ」
美波が見せてくれた出産のDVDは、家族全員の前で産んでいた。
「今は修行のために病院勤務だけど、いずれは助産院に転職してアクティブバースを極めようと思ってるんだ。将来的には自分で助産院を開きたい」
「カトミナすごいね。その夢叶うといいね」早紀は羨望のまなざしで美波に言った。
「絶対叶えるよ」
「美波さん、私の母は静岡の島田市で助産院を経営しています。私いずれそこをつぐ事になると思います」私も次いで伝える。
「そうなんだ。羨ましいね。私みたいにゼロからだとかなりまとまったお金が必要だからいつ夢がかなうかわからないから」
私は、美波の話を聞いて自分がいかに恵まれた環境にあるのかを再確認した。
産婦は、まだあまり痛そうには見えない。
「もう始まってるの?」
「今は10分間隔くらいかな」
少し経つと、かなり痛そうな表情に変わってきた。うめき声もすごい。間隔もだんだん短くなっていった。
「うわー不謹慎過ぎるけどちょっと変な気分になってきちゃった。だって表情と声がなんかエッチしてる時みたいだから。それに私、女の人がお腹を押さえてるの見るとドキッとする」早紀は、顔を真っ赤にしながら言った。
「いやだーもう。でも私も同じ」
美波も同意していた。
「でも本当にエッチしてる時みたいな声だね。たまに出産で感じちゃう人がいるって聞くけど」私も色々なDVDを持っているし、出産にはかなり詳しい。
「このDVDがそうだよ」美波は答えた。
「へーそうなんだ。なかなか映像では見られないけど」
「今の時期が一番辛い時期なの。いきみ逃ししなきゃだから。ちょっと汚い例えだけど、ひどい下痢でトイレに行きたいのを我慢しなきゃいけない所を想像してみて。それも普通の下痢の100倍痛いのを我慢するんだよ」
この時期にいきんでもまだ赤ちゃんが子宮内にいるから出産が進まない。それで疲れてしまい肝心な時に力が入らなくなって難産になる。子宮口が開いて膣内に降りてくるまでは我慢しないといけないのだ。
「アクティブバースはね、自分が一番産みやすい姿勢をとるの。病院出産であお向けだと『産み落とす』じゃなくて『産み上げる』みたいな状態になって産みにくいから」
産婦は四つん這いでやや横を向いた姿勢をとっていた。早紀はこれにもびっくりした様子だ。
早紀は美波や楓の解説を聞きながら、出産動画に見入っていた。
「このDVDだと見えにくいけど、だいたいこのぐらいの時期に破水するの。そうなるとすぐ赤ちゃんの頭が見え始めるよ」
もちろん下着は付けていない。無修正だからアソコも動くたびチラチラ見える。
「う~ん」
さらに、苦痛の表情で一生懸命いきむ産婦の顔は、変な話であるがとても美しい。
早紀にとって出産シーンはかなり刺激が強かったようである。
でも美波は、いつも女の股の間で仕事をしている
私も看護学校の実習等で見慣れているから全く平気である。
良く見るとアソコの奥に赤ちゃんの髪の毛らしいものが見えていた。もうすぐ出てくるのだろう。
産婦がいきむ声を上げるたびに、少しづつ赤ちゃんの頭が見えて、だんだん大きくなる。
「ここ、ここに力を入れて。なるべく長ーくいきんで。はい上手よ、その調子」
助産師は産婦のおしもを押さえながら声掛けしている。そして陣痛の合間になると今度はいきむのをやめるように指示した。
「今痛くないでしょ……痛くない時は深呼吸を繰り返して。いきまないでハーハーして」
陣痛の合間にはまた元の頭が見えない状態に引っ込む。少しずつ出てくる感じだ。
「なんか出そうでなかなか出てこないね。かなり頭が見えてきても陣痛の合間には元に戻ってる」早紀も美波の話に合わせていた。
「この時期が排臨。でもこの後頭が引っ込まなくなる。発露って言うの。それから少し経つと頭が完全に出てくる。頭が出た後は早いよ」
美波は続けた。
「この時期が一番陣痛が強くて間隔も短いけど、いきめるからつらさは前半よりましかな」
母体外にわずかに見えていた赤ちゃんの頭が、かなり大きく見えてきた。さすがにこれは苦しそうだ。
そして、ついに陣痛の合間にも頭が引っ込まなくなった。
「うわーこんなに広がるの? ちょっとびっくり」
「これが発露だよ」
「この時期に会陰切開するんじゃなかったっけ?」
早紀は、美波に聞いた。
「アクティブバースでは会陰切開はしないの。だから赤ちゃんの頭が出てくる時にアソコが裂けないように、私達はしっかり会陰保護をするの」
ついに、あかちゃんの頭が完全に外に出ると共に、すごい量の羊水が飛び出てきた。
出産は病気ではなく生理現象なのだ。陣痛はいわば大宇宙が子宮に与えた巨大パワー。その果てしないエネルギーに突き動かされ、体内の赤ちゃんを必死で産みだそうとするその姿は本当に美しい。こんなに女が魅力的な姿をさらす事は他にはない。
「本当にすごい。感動するねー」
「でしょ。ここからがすごいから」
「そうなんだ」
頭が出たら後はすごく早かった。あっという間に肩、胴体、足とスムーズに全身が出てきた。頭が見え始めてから完全に出るまで、かなり時間がかかっていたのが嘘みたいである。
「赤ちゃんが出る瞬間は、急に痛みが引いてすごくスッキリするの。快感だよ」
「それはびっくりだなあ」早紀は驚いていた。
「そう。私も一人目産んだ時にね、すごくスッキリしたよ」美波はあっけらかんとして言った。
「本当?」私もびっくりした。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第7話は、美波と楓があやしい雰囲気に。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます