第14話 国王様に会う

 次の日、起きたらまおちゃんとがぶがぶさんを抱っこして食堂へ向かう。まおちゃんとがぶがぶさんのお口にも入れてあげながら、癒されながらご飯を食べる。

 今日も嬉しそうにもぐもぐ食べる二人がかわいいです。もぐもぐするときに、身体全体が揺れるのがかわいくて仕方ない。


 朝ごはんを食べ終わって宿を出たら、冒険者ギルドに向かう。

 封印術師と知られても追放されないって安心したけど、やっぱりちょっとドキドキする。冒険者ギルドのドアをそっと開けて中を覗いてみる。


「朝で人が多いから、今のうちに行っちゃった方が紛れられて良いかな?」

(ユアはなんでコソコソしているのだ?)

(昨日封印術師と伝えたから、でしょうか?)

(なるほどな)


 そっとギルドの中に入ると、昨日いた受付のお姉さんがいた。でも他の冒険者達の話を聞いていて忙しそうだ。


「ユアちゃん、ちょっと待っててね」

「わわっ、ありがとうございます」


 私に気が付いた受付のお姉さんは、そう私に言うと他の職員さんに声を掛けてくれた。周りの視線が気になるけれど、すぐにギルド職員さんが来てくれたので、ささっとギルマスの部屋へ向かう。

 やっぱり目立つのはかなり緊張してしまう。追放された時の事があるからか、身体が硬くなっちゃうんだよね。


 ギルマスの部屋に着いてやっと少し緊張が取れた。ここからは、また別の緊張感があるけどね。


「ギルマス、おはようございます」

「ユア、わざわざすまんな。それでちょっと問題があってな」


 そう言われて、思わず身体がびくっと揺れてしまった。まおちゃんとがぶがぶさんが、心配そうに私を見上げている。二人をむぎゅっと抱きしめてから、なでなでして緊張を和らげる。


「一応事情を話して城に行くのを怖がっているとも伝えたのだが、どうしても会いたいと仰ってな。それで今から時間あるか?」

「……えっ? もしかして、今からですか!?」

「ああ。本当に申し訳ないんだが、俺も同席して良いと許可は頂いた」

「それはとても心強いです、お願いします」

「本当は会わなくて済むようにしてやりたかったんだが、誰も使えない封印術を使えるのは、それだけ重要だってことだ」

「そうですよね。今の封印術師は追放されるくらいですものね」

「普通はそこまでしないと思うんだがな……」


 ギルマスはかなり頑張って交渉してくれたことは良く分かるので、私も頑張るしかない。

 それからは大忙しだった。すぐに馬車が来て、ギルマスと一緒に馬車にぽーんと放り込まれた。逃げるつもりはないけど、逃げる隙は1ミリもなかった。


「物凄くスムーズに馬車に乗せられましたね」

「それだけショコラの街の件、困っていたってことだ。まあ、悪いようにはならないから安心しておくと良い」

「分かりました」


 ギルマスがここまで言ってくれるから、きっと大丈夫なのだろう。まおちゃんとがぶがぶさんを膝の上に置いてなでなでして癒される。

 辺境伯の娘ではあったけれど、国王様にはお会いしたことがまだないのだよね。デビュタントはまだまだだったし、遠いからお茶会に呼ばれることもなかったからね。

 少しすると王城へ着いた。扉を開けてくれるまで待って、先にギルマスが降りてエスコートをしてくれた。ガタイの良いギルマスがそんなことをしてくれると思わなくて、ちょっとびっくりしたし笑いそうになってしまった。


「ありがとうございます」

「よし、行くぞ」

「はい」


 案内して貰った先は謁見の間ではなく、中央に机とソファの置いてある部屋だった。少し待っていると、ドアが開いて国王様と宰相が入ってきた。国王様はやっぱりオーラが違う感じがするね。


 一応貴族の娘だったから、カーテシーも挨拶もちゃんと出来るんですよ。無事に挨拶を済ませたら、ソファーに座ってお話開始です。


「まずは、ショコラの街を救って頂いて礼を言う。それで、あの暴れていたサメを封印したというのは誠か?」

「はい。このサメのぬいぐるみの中に封印しました」

「そのような可愛いサメの中に、あの凶暴なサメが……」


 国王様は胡散臭そうな顔をしてがぶがぶさんを見つめている。

 嘘だとか言われたらどうしよう。本当かどうか聞かれても、実は私も良く分かってないんだよね。


(何か文句がありそうですね)

(ユアの言う事を信じないという事か?)

「すまんな。あまりにもかわいらしいぬいぐるみだったものでな」


 私の膝の上でなんだかピリピリとした感じを出しているまおちゃんとがぶがぶさん。一体どうしたんだろうか。声を掛けたかったけど、国王様の前でまおちゃん達に声を掛けて良いか迷ったので、なでなでしておく。

 私が二人から目を離して国王様を見ると、なんだか顔色が悪くなっている気がする。ちょっと顔色の悪くなった国王様の代わりに宰相様が話を始めた。


「もしかして、封印されても魔法は使えるのですか?」

「はい。魔法も使えますし、可愛いのにとても強いです!」


 ついうちの子可愛い、みたいな感じに力が入ってしまってちょっと恥ずかしい。でも、二人ともとっても可愛くて強くてもっふもふで素敵なのです!


「海底ダンジョンもその二人が倒したとか?」

「はい。海底ダンジョンはこの子に乗せて貰って、二人が魔物を倒してアイテムも回収してました」

「なるほど」


 まおちゃんとがぶがぶさんはちょっとどやってしてる気がする。あまりの可愛さに思わずなでなでしちゃう。


「ふむ。しかし、そっちの丸いのは何を封印したのだ?」

「多分スライムだと思います」

「多分?」

「それが、怖くて目を瞑っている間に封印したみたいで……」

「なるほどな。しかしスライムなのに強いとは驚きだな」

「陛下。この見たことないドロップ品は国で買い取りで宜しいですか?」

「もちろんだ。何に使えるのか調べなくてはならんからな。ユアもそれで良いか?」

「はい、よろしくお願い致します」


 ギルマスが言っていたように、ドロップ品は全部国が買い取ってくれる事になりました。ただ、初めてのドロップ品だから相場がないのが問題らしい。

 さすがに国が買い取りをしてくれるとなると、そんなに安い事はないだろう。私としては、まおちゃん達と楽しく生活出来たらいくらでも良いんだよね。欲張っても良い事は何もないのです。


「何か希望はあるか?」


 そう聞かれても、本音をぶちまけて良いのかちょっと困る。思わずギルマスに視線を送り助けを求める。


「ユア、希望だけ伝えたら良い。出来るかどうかは判断してくれる」

「はい。えっと、私としてはこの子達と楽しく暮らせたらそれで良いです」

「ふむ……ユアは貴族の子であろう。貴族に戻らなくて良いのか?」

「それは望みません。私が封印術師である事には変わりはありませんし、今更戻る気はありません」


 そういうと、国王様も宰相様も痛々しい顔をした。私としては、追放されて良かったとしか思わないんだけどね。日本での記憶があるのに貴族の娘だから、政略結婚しろとか言われても絶対にお断りだ。そんな事よりも、まおちゃん達と楽しく暮らしていたい。


 一応ギルマスが大まかな事は伝えてくれていたけれど、本当の名前を言わされた。国王様と宰相様の圧が凄くて勝てませんでした。何も起きませんように!


「良く分かった。本当だったら爵位でもと思ったのだが、それよりも安心して住める場所の方が良かろう。宰相よ、どこかに良さそうな土地と家、それと金も準備頼むぞ」


 国王様のその言葉を聞いて驚いた。家だけじゃなくお金も貰えるらしい。でもきっと国王様の言う家って、家じゃなくて屋敷になりそう。


「ど、どちらかだけで十分すぎます」

「大きな屋敷にはしないでおくから、全部受け取ってはくれぬか? そなたは凄い事をしたのだから、胸を張って受け取ると良い。儂をケチな国王にしないでくれぬか?」

「そう、ですよね。出過ぎた事を言って申し訳ありません。謹んでお受け致します」


 とりあえず大きなお屋敷ではないみたいでほっとしたよ。ただ、国王様の言う大きくしないって、私と基準が違いそうでドキドキするよ。

 でも、封印術師でも追放もされないし、安心して住める場所も手に入るなんてとても嬉しい。これで二人に美味しい物を沢山作ってあげられるね!


 なんとか話し合いは終わってホッとした。国王様はオーラはすごいけど、話しやすい感じだったかな。

 国に買い取って貰うドロップ品は、帰る前に倉庫にすべて出してからお城を後にする。

 ギルマスと一緒に馬車に乗ると、二人ともため息をついてしまった。本当に緊張したよ。


「ギルマス。今日はお付き合い頂いて、ありがとうございました。おかげで心強かったです」

「いや、あまり役に立てなくて申し訳なかったな」

「そんな事ないです。居てくれるだけで安心出来ました」

「それなら良かった。だが、安心して暮らせる場所が出来そうで良かったな」

「はい。この子達と楽しく暮らせる場所が出来そうで嬉しいです」

「明日は午前中に一度顔を出してくれるか?」

「はい、分かりました」


 冒険者ギルドで馬車を降りたら、今日はそのまま宿に帰ろう。精神的に疲れていたみたいで、宿でご飯を食べたらすぐに寝てしまった。気が付いたら次の日で物凄く驚いた。

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