第3話 シロップの街へ

 まおちゃんと話しが終わったので、まおちゃんを抱っこして道に出て歩いて行く。少し進んでいくと、木々が倒されて道もかなり壊されている。


「うわぁ、酷いことになってるね」

(……それは、もしかして……さっき我がやったやつか)


 とりあえず、倒れている木とか穴とかを避けながら先に進んでいく。ちょっと怖くてまおちゃんをむぎゅっと抱きしめてしまう。


(そういえば、こやつは小さいのになぜ一人なのだ?)

(少し記憶を覗いてみるか……ふむ、なるほど。やはり封印術師であったか)

(封印された事だしな。それに……こやつは弱そうだし、少し一緒に居てやるとするか)


 怖くて思わずまおちゃんをむぎゅむぎゅもふもふしてしまう。両親が貴族だった事もあって、このまおちゃんの生地はとてもふわっふわのもふっもふなのだ。ぬいぐるみを作ったら可愛かったかもしれない。

 さすがに記憶を思い出す前は、手芸が好きでもぬいぐるみまでは作れなかったもんね。今なら余裕で作れちゃうけど。


「そうだ。今度まおちゃんに目をつけてあげないとだね」

(見えにくいと思ったら、目がなかったのか!)

「シロップの街に着いたら、手芸屋さんでボタンを買おうかなぁ。クッションだったのに、動いてくれるなんて嬉しいなぁ」

(クッションだとっ!?)


 まおちゃんを抱っこして歩いていると、日が傾いてきた。結局、林を抜ける事は出来なかった。さすがにここで夜を明かすのはちょっと怖い。


「夜になりそうだね」

(そうだな)

「まおちゃん。どこなら安全に朝まで過ごせるかなぁ?」

(ふむ。そういえば、人間は夜は寝るんだったな)


 ぴょんと私の腕の中から飛び出したまおちゃんは、ぽよぽよと跳ねて辺りを探している。目が付いていないけど、見えるんだろうか?

 しかも、クッションがぽよんぽよん跳ねて移動してるのって、とっても不思議な感じ。少しすると、まおちゃんが止まった。振り返って(多分)ぽよぽよしているから、きっとそこなんだろう。


「まおちゃん、ここで良いの?」

(うむ)


 まおちゃんの所へ行くと、木のうろがあった。確かに今の私の身体なら入れそうだ。まおちゃんを抱っこして入ってみる。すっぽりと入れる感じで落ち着くね。

 抱っこしたまおちゃんを見ると、少し汚れてしまっている。タオルを出して拭いていると、まおちゃんの周りがほわんと暖かくなった気がした。何が起きたのか分からず、思わずきょろきょろしてしまう。


「えっ、まおちゃんの汚れはどうしたの!?」

(我が魔法で綺麗にしただけだぞ)

「うーん、まおちゃん。もしかして、魔法が使えるの?」

(我だからな!)


 そう聞くとぽよん! と動いた。


「そんな便利な魔法が使えるなんて、まおちゃんはすごいんだね~」


 そう言うと、私と私のタオルも一瞬で綺麗になった。なんて素敵な魔法なんでしょう。私もそんな魔法使ってみたかったなぁ。


「ふふっ、ありがとう。おかげでさっぱり出来たよ~」


 綺麗になった所で、硬くて食べにくいけどバッグから干し肉を取り出して食べようかな。まおちゃんは食べられるんだろうか?



「まおちゃん。もともとクッションなんだけど、食べ物って食べられるの?」

(もちろんだ!)


 そう聞くと、クッションだったはずなのに、あーんとお口が空いた。干し肉をぽいっと入れてあげると、まおちゃんは身体全体をぽよぽよと動かして食べている。うん、かわいい。

 私も食べるけど、やっぱり硬くて顎が痛くなってきた。ついお水をたくさん飲んでしまう。


「あっ、お水が無くなってきちゃった。明日街に着くまでもつかなぁ」

(ふむ、その水筒に入れればいいか。ほら、これでどうだ)

「えっ、重くなった!?」


 不思議に思い水筒を傾けてみると、ほとんどなくなっていたお水が沢山入っていた。まおちゃんがまた魔法で出してくれたみたいだ。


「まおちゃんはすごいね~。ありがとう!」

(なんだか、礼を言われると照れるな……)


 まおちゃんをむぎゅっとしてお礼を言った。まおちゃんのおかげでお水の心配がなくなって、とても助かった。

 今日はこのまま、まおちゃんをむぎゅっと抱っこして休むことにしよう。明日はシロップの街にたどり着けるといいなぁ。

 今日一日歩いた疲れか、こんな外でもすぐに眠くなってしまった。


「まおちゃん、おやすみなさい」

(うむ、ユアは寝てると良いぞ)



 朝起きると、まおちゃんは私の足元に居た。寝るときに抱っこしていたのに、いつの間に手放したんだろう。

 外が明るくなっているから、無事に朝になったみたいだ。外でこんなに熟睡して良かったんだろうかと心配になる。とりあえず、身体を伸ばしたいから外に出よう。


「えっ、これなに!?」

(夜の間に来た魔物だな)


 木のうろを出ると、目の前には綺麗な石とか毛皮とかお肉とか色々落ちている。これはもしかしてドロップ品ってやつかな?

 冒険者ギルドで説明を受けた時に、魔物を倒すとドロップ品が出ると聞いて、ゲームみたいって思ったんだよね。ドロップ品が出る世界で本当に良かった。これが魔物の死体の山だったらと思うと、怖すぎる。


「えっと、もしかして……何かに襲われた、の?」

(うむ。木の周りをうろうろしていたからな。我が倒しておいたから問題ないぞ)

「そうなんだ。まおちゃん、守ってくれてありがとう!」


 思わずむぎゅっと抱きしめてお礼を言った。まおちゃんが倒してくれなければ、私は今ここにいなかっただろう。そう思うと、身体が震えるほど怖くなる。

 私が震えているのに気が付いたまおちゃんは、すりすりしてくれる。本当にまおちゃんが一緒にいてくれてよかった。


(我がいるから大丈夫だ。どんな魔物からも守ってやるぞ!)


 なんだかまおちゃんにすりすりして貰ったら、落ち着いたのか身体の震えが止まった。もふもふパワーなのか、まおちゃんパワーなのか分からないけど、とっても癒された。


「この沢山あるアイテムはどうしたら良いかな?」

(ユアが持っていくと良いぞ。街で売れるようだからな)

「全部持っていくの難しいんだけど、どれを持っていったら良いかな?」

(む、なぜだ? ああ、収納がないのだな)


 まおちゃんはぽよんっと一つ飛び跳ねると、アイテムをぱくんと飲み込んだ。


「えっ、まおちゃん!? お腹壊しちゃうよ! ぺっして!」

(我はお腹など壊さんが、アイテムを食べたわけではないぞ!)


 まおちゃんが口を開けると、さっきのアイテムが地面の上にどさっと散らばった。


「えっ、まおちゃん。もしかして、荷物が仕舞えるの!?」

(我は魔王だからなっ!)

「ありがとう。じゃあ、お願いしても良いかな?」

(任せておけ)


 この大量の荷物を持って歩かなくて良くなってとても助かった。さすがにこの山のような毛皮とかお肉とか絶対持てなかったよ。

 というか、お肉があるんだけど……食べられるのかなぁ?


「まおちゃん。お肉があったけど、食べられるの?」

(ああ、問題ないぞ。まあ、こやつらの肉はそんなに旨くはないがな)


 まおちゃんがぽよんと1つ跳ねたから、食べられるみたいだ。だけど、今はお塩も何も持っていない。せっかくなら美味しく食べたいよね。仕方ない……お腹空いたけど我慢しよう。

 まおちゃんと干し肉を分けっこして食べたら、街へ向かって歩き始める。今日こそシロップの街に辿り着きたい。


 お昼前頃、林を抜けて平原に出た。平原の先の方にやっと街が見えた。


「やっと街が見えたね!」

(うむ)


 街が見えてくると足取りも軽くなるよね。まおちゃんをもふもふして癒されながら歩いて行くけど、1時間くらい歩いても着かなかった。8歳の身体だって忘れてたよ。

 少し休憩して更に1時間くらい歩いてやっとシロップの街に辿り着いた。


「見えてからが意外と長かったね……」

(ユアは小さいからな)


 門で手続きをして貰い、無事に街の中に入れた。冒険者ギルドのギルドカードがあれば、色々な街に入れると聞いてはいたけど、ちょっと心配だったんだよね。

 街の中に入ると、ファッジの街よりも大きい感じがする。石畳の道にちょっと明るめのレンガ作りのお家がとても可愛くて素敵な街並みだ。

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