第2話 初めての封印
次の日の早朝、宿で朝ごはんを食べたら手続きをして外に出る。周りをきょろきょろと見回してみても騎士達は見えない。
「よし、今のうちに街を出よう!」
ピンクのクッションをむぎゅっと抱きしめて、急いで東門へ向かう。まずは隣のシロップの街へ急ごう。シロップの街からは北に進んで行けばこの国の王都だ。南に行くと街がもう一つあって、その先に隣国へ渡るための関所がある。
この国にいるよりも、隣の国に行くのも良いかもしれない。あの父に見つかったらどうなるか分からないよね、考えただけで恐ろしい。
東門に着くと、そこには見覚えのある騎士達が何人も居た。
「アレクシア様。大変申し訳ありませんが、二度とこの街に入る事を禁じさせて頂きます」
「そうですか、分かりました。それでは皆様、ごきげんよう」
そうニコリと笑顔で別れの挨拶をすると、騎士達はみんな驚いた顔をしていた。もう話すことはないし、気にせずにそのまま騎士達の門を通り抜けて街の外に出る。
8歳の子供を捨てるだけじゃなく、街から追放までやるとか何を考えているんだろうか。同じ人間とは思えない所業だよね。まあもう関係ない人達だから、気にしないようにしよう。
「さっ、気を取り直してシロップの街へ行こう」
これ以上追ってくる事は無さそうだけど、早くシロップの街は通過したいかな。シロップの街へは朝出発したら夕方には着くくらいの距離らしい。
朝が早すぎて屋台もやっていないし、追ってがいるかもしれなかったからお昼ごはんは買ってこられなかった。斜め掛けしたバッグには、干し肉とお水が入っている。昨日準備しておいて本当に良かった。
今はまだ平原を歩いているけれど、少し先には林が見える。道が続いているから、あそこを通らなきゃいけないみたいだ。
「う~、林とか森とか入るのちょっと怖いよね。魔物がいるんだよね……」
怖いからと言って通らないわけにもいかない。でも道が整備されているということは、それなりに安全なのかもしれない。緊張から、クッションをもつ手にぎゅっと力が入る。
「もふもふには癒しパワーがあるよね。うん、だいぶ落ち着いた気がする」
ピンクのクッションをもふもふしながら歩いていると、林に差し掛かった。ここまででもう日がだいぶ高くなっている。
「うーん、本当に夕方までに着くのかなぁ」
ちょっと不安になったけれど、少し休憩してから行こう。さすがにお腹も少し空いてきた。バッグから干し肉とお水を取り出して食べる。
「かたっ!」
干し肉は結構乾燥していて食べるのが結構大変だ。お水を飲んでふやかしながら食べる。お腹が満足する前に顎が痛くてこれ以上食べられない。
「うぅ、早く街まで行きたいよぅ」
少し休憩してまた歩き出す。こんな食事でシロップの街まで辿り着けるのか不安になる。だけど、今日は早く出発しないとだったから、屋台も開いていなかったんだよね。
今度別の街に移動するときには、ちゃんとお昼ごはんとか買ってから出発しよう。
「職業は黙っておかないとかな。封印術師だと知られたら、また街から追い出されてしまうかもしれないもんね」
これからは職業は冒険者って名乗っておけば問題ないかな。冒険者ギルドのギルドカードも作ったことだし、それが安全な気がする。
休憩しながら歩いているけれど、全然林を抜ける気配がない。
「あっ! もしかして、私の身体が8歳だから!?」
すっかり自分の年齢を忘れていた。大人が夕方までに着く所が、8歳のこの身体で歩いてたどり着けるわけがなかった。
「うわぁ、どうしよう。もしかしてこんなところで夜を明かさなきゃなの!?」
まだ感覚的には2時くらいだから、もう少し頑張って歩いてみよう。出来たら街まで着きたい。
歩いていると、なんだか前方が騒がしい。一体どうしたんだろうか?
「うわぁ、逃げろっ!!」
「お前、冒険者なんだからどうにかしろよっ!」
「あんな巨大なの無理に決まってるだろっ!!」
「きゃっ!」
何か敵がいるみたいだ。前から逃げてくる人に弾き飛ばされて道の外に出てしまった。だけど、前から馬車も人も沢山来るから、これはこれで轢かれなくて良かったのかもしれない。
「どうしよう……」
とりあえずきょろきょろと辺りを見回しても隠れる所が見当たらない。道から見えないように木の陰に隠れてみる。見つかったら殺されてしまうかもしれないと思うと、とても怖くて身体を丸めてクッションをむぎゅっと抱きしめて、息を殺してじっとしている。
どれくらい時間が経ったのか分からないけれど、突然上の方から声が聞こえた。
「なんだ、子供か」
「えっ、誰?」
声が聞こえたことで反射的に顔を上げて、とても後悔した。そこには木と同じくらいの高さで丸くてピンクのぽよんとしたスライムみたいなのがいた。
「っ!!!」
あまりにもびっくりしすぎて、声も出せずにクッションで顔を隠した。
(こわいこわいこわいこわいっ!)
「我は世界の覇者。我が名はまお……なんだっ、引っ張られる!?」
クッションで顔を隠してもどうしようもないのに、それしか出来なかった。
あまりにも巨大で恐ろしくて……だけど一向に攻撃されたり、食べられたりしない。
そっと顔を上げると、目の間に居たスライムみたいなのが居なくなっている。
「……助かったの? こ、こわかったぁぁぁぁ」
ホッとしたのも束の間、クッションがふるふるっと動いた気がした。
「えっ、クッションが動いた!?」
クッションを手に持ってジーっと見ていると、やっぱりとぽよぽよと動いている。これは一体なんだろうか?
(なんだ、これは!? なぜ魔王である我がこのような中に閉じ込められているのだ!?)
「なんかぽよぽよして可愛い。もしかして、さっきのスライム? を封印しちゃった……とか?」
(封印だとっ!?)
「あっ、ぽよってしたからそうなのかな?」
(お前は封印術師なのか!? 今の人間界では使える者は居ないのではなかったのかっ!?)
「そういえば、さっきまおって言っていたからまおちゃんなのかな?」
(我をまおちゃんだとっ!?)
私のクッションに入り込んだってことは、私と一緒に来てくれるってことなのかなぁ。お話が出来ないから分からないけれど、どうなのかなぁ。
「ねぇ、まおちゃん。私と一緒に行ってくれるの?」
(何っ!? 魔王である我を従えるだとっ!?)
「あっ、ぽよんってしたから一緒に行ってくれるのかな。ありがとうね」
(我が行く訳……何っ!? 封印されているから逆らえないだとっ!?)
「えへへ、まおちゃん。私はユアだよ、よろしくね」
(……う、うむ。仕方ない、一緒に行ってやろう)
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