The Throne
夜雨 蓬
The Throne
夜の帷。月が隠れる。カンテラの火をつける。
どうにも眠れない。寝返りをうつたびに目を開いてしまう。風が強いわけでも、梟たちが騒がしいわけでもないのに。何度めかの寝返りの末、諦めて体を起こす。
仕方ないので散歩しよう。体を動かせば自然と眠くなるだろうし。
コートに腕を通しマフラーを巻く。下は寝巻きだけど多分大丈夫。
カンテラを持って扉のノブを回す。廊下には誰もいなかった。灯りも消され、よく冷えた空気に満たされている。
「どこに行こう」
散歩でも目的地は必要だ。気の赴くままに歩くのも良いけど、今夜は飽きてしまいそうだから決めてしまおう。
「広間に行って休憩してから帰ってこよう」
カンテラが揺れる。闇の輪郭が歪む。届けられた手紙を思い出す。添えられた写真には一回り以上も年下の少年が豪勢な服に着られていた。表情は固く戸惑っているようにも見える。彼は第七王子で妾の子。城下では良くない噂が立っていると聞く。手紙には彼の性格や周りの評価、街の噂など事細かに書かれている。良い内容のものは少なくて、私の国がどう見られているのかも読み取ることのできるものであるから不安が募って仕方ない。
ため息が落ちる頃広間に着く。闇はここにも満ちていて、玉座が見えてくるまで空気が私の肌を刺激していた。
木製で緻密な彫刻と幾つもの名が刻まれた毛皮で装飾されているが、他国のものほど豪華とは言えない玉座。
近々梟が彼を連れて来る。
彼はこの森の寒さに耐えられるだろうか。彼はこの夜を超えられるだろうか。彼は獣に怯えるだろうか。彼は梟の王になれるだろうか。彼はこの森の王になれるだろうか。彼は私をどう思うだろうか。
王座に身を委ねて、カンテラの火を消す。
梟が鳴いて、葉が揺れて、息を吐く。
見えない?
私は夫を迎える。
The Throne 夜雨 蓬 @YosameYomogi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます