アボカド魔人からの条件

ゆりえる

第1話 見た目からムリ!

『森のバター』などとそそられそうな異名を持つわりに、全く結び付かないグロテスクな外観……


 まず、熟れてない時の緑のブツブツなのが、どう贔屓ひいき目に見ようとしても、怪獣の皮膚を連想させられる!


 しかも、熟れた時の皮は、黒光りするなどという豹変ぶり。


 それでありながら、予想を裏切られる事になるのは、外皮を剥いた時のあの鮮やかな若草色。


 そして、半分に切りたい時には、どの向きから切ろうとしても邪魔でしかない、あの悩ましい大きな種。


 ホントに、まず外観からしてムリなのだが、あの中身とのギャップも、どうも受け入れ難い。


 国産の野菜の成長過程とあまりに違い過ぎ、外国からはるばる来たのだなと実感せずにいられないその食べ物に、生粋の日本人である俺、佐野さのまなぶが敬遠するのも、もっともだろう。


 にも関わらず、何故かあのアボカドという物体は、女達には、妙に人気が有る!


 女達に好かれる要因は、多分、栄養価が高いせいだろう。


 ビタミン、ミネラル、カリウム、葉酸などが豊富に含まれていて、特に、女達に喜ばれる、免疫力アップや美容に良いというビタミンEやビタミンKが多いらしい。

 それに、食物繊維も摂れるから、便秘予防にもなる。

 

 女達というのは、便秘がちだし、美容の為なら、無理してでも食べる人種だから、あんな外観をしている物でも、平気で食べる事が出来るのかも知れないが……

 美容などには、てんで興味の無い俺からしてみると、アレを美容の為に食べているという女達が、非常に気の毒でしかない。


「見て見て~! 今日、アボカド弁当にしちゃった~!」


 隣のデスクの後輩女性、三屋みつや佳子よしこが、スライスされたアボカドが、ご飯の上に均一に並んでいる弁当を向かいに座っている同期の女性社員、外井そとい信美のぶみに見せていた。


「うわっ、ヘルシーで美味しそう!」


 外井が本気っぽく言っている。

 芸術作品のように並べられているが、俺の目からは、青虫を潰したようにしか見えない。

 よくもまあそんなものを、ご飯の上に並べる事が出来たもんだ。


「それ、どういう気持ちで食べるの?」


 俺が思わず呟くと、三屋と外井が反感丸出しの目線を向けて来た。


「あれ~っ、もしかして、佐野さん、食わず嫌いですか?」


「男の人って、アボカド嫌いな人が多いですよね~! こんなに美味しいのにもったいない!」


 2人してアボカドを弁護する立場に回り、俺を非難してくる。


「いや、全く美味しそうに見えない! 栄養価高いって事で洗脳されて、ムリして食べてんじゃねーの?」


 俺は、思った通りの事を口にすると、2人の反撃はいっそう増して来た。


「そんなわけないじゃないですか~! 味も栄養価も値段も、全てにおいてパーフェクトだから、私達は食べているんです!」


「そうですよ~! 佐野さんも、大人なんだから、そんな食わず嫌い卒業して、食べてみたらどうですか?」


「いや、ムリだ! それは、俺には、人間の食べ物として全く認識出来ない!」


 強く否定すると、女性社員達は、さすがに閉口した。

 俺の一言が余計だったのか分からないが、辺りが静まり返った状態で、各自、弁当を食べ出す事になった。

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