第12話 少し暗めのベージュ色の髪の元従業員
現在俺はお店にいつものように1人――ではない。少し前に何故かまたやって来た香良洲と椅子に座り話しているところだ。
「——そういえば今思い出すと香良洲が出て行った時に気配が消えた感じ――なかったんだよな。疲れで完全に見落としていた」
「私もいつ消えるんだろう。そもそもどうなるんだろう?と思っていたのですが――歩いても歩いてもそのままで」
「ってか。何で戻って来たんだ?歩いて行けるなら――大通りの方に出れたんじゃないのか?」
「それが――まっすぐ歩いていたのに、気が付いたらここのお店の前だったんです」
「……何故?」
この店をスタートしてまっすぐ歩けば、もちろん大通りの方に出るはずだ。まあ最近の俺は出かけてないからわからないが――それに結構離れているからな。ここ路地裏のホント裏。ずっと裏だからな。
だから、香良洲が言うようなことが本当に起こったとなると――。
「実は香良洲。光の速さくらいで行動できるとか?」
「そんなことあるわけないじゃないですか。まさか私が地球1周してきたと?」
「それしか考えられなかったんだが――」
「私は普通に歩いていただけです。でも何故か何も起こらなくて――今に至ります」
「謎だ」
「つまり――まだここを離れちゃダメという事では?」
「元従業員。何故か戻って来るだな」
ちなみに香良洲が出て行った後、俺は普通に休憩をしていたため。香良洲が置いていったエプロンはまだ店内に置かれている。香良洲が畳んで置いたままである。
「にしても何がどうなってる?ここで食事をして――出て行ったら……じゃなかったのか?」
俺は香良洲や、エプロン。ドアの方を見ながらつぶやく。
「わかりません。お店を出たんですが――本当にここに気が付いたら戻って来ちゃいました」
「ホント何が起こったのか」
「——ここで働けなんですかね?」
「こんなブラックなところで働きたいのか?」
「……なあ行くところがないなら、何かしてないと暇と言いますか――寂しいと言いますか」
そんなことを言いながら香良洲は立ち上がり。少し前に自分が畳んだエプロンを確保した。
「おいおい。なんで普通に再度こんなところで働こうとしているんだ?」
エプロンを持った香良洲に俺が聞く。いや、ここのブラックな姿見ただろ?休憩なし。どんどん客来る。給料なしだからな?
「真菅さんはこんなところと言ってますが――でも改めて思い出すと。いろいろな人が美味しい。ありがとう。って言って帰って行くじゃないですか。優しい顔して。だからいいお店だと思いますよ?」
「—―誰かさんは戻ってきたがな。料理がダメだったのか――」
「いやいやそんなことは――真菅さんの料理美味しかったですよ?」
「うーん。謎」
「真菅さん実は料理以外に何かあるとか?」
香良洲がそんなことを聞いてくるが――俺にわかるわけはなく。だって俺料理の注文が入ったら作る。見てる。見送るってことだけだからな。それに「もう来るなよ」とかの言葉が何か――だったら香良洲にもそれは言ったはずだ。だからそれではないと考えられるが――。
「わからん。香良洲にはちゃんと塩むすび作ったんだが――ってやっぱりあの時香良洲が何か違うみたいな感じだったからか?」
まあ俺が覚えていることと言えば――それくらいだった。
あの時香良洲は他のお客が言わないことをつぶやいていた。何か違う。でもそれが何なのかは、俺も――香良洲もわかっていない。
「いやでも、本当にとっても美味しい塩むすびでしたよ。ふわっとしていて、出来立ての美味しいお米で――」
「うーん。香良洲みたいなお客は初めてだからな。普通は――戻って来ることはない店なんだが……」
俺は香良洲を見つつ考える――考える。そして思いついたのは――。
「香良洲」
「はい?」
「一緒に外出てみるか」
「はい!?」
「いや、実験」
「いやいや、もし真菅さんだけ――その。消えちゃったら?」
「その場合は香良洲にこのお店は引き継がれる」
「無理、無理ですから。私そんな何も作れないですよ」
「まあまあ何とかなるさ。ほら起立。今なら誰も居ないし」
「いやいや、真菅さん」
「大丈夫だろう。この店は消えていいんだから」
「……」
複雑そうな表情をしている香良洲。だが俺は立ち上がり。外に出てみる。
「真菅さん」
「ほら。香良洲も」
お店の外にはもちろん俺はちょくちょく出ている。今日もいつも通りも路地裏。なんか治安が悪そうというか。日当たりがないというか。そういえば外は――晴れだったんだな。ずっと室内にいたから天気忘れていたよ。
「——大丈夫ですかね?真菅さんだけ消えません?」
「消えたら消えた」
「いや――でも――」
まあそんなことを言いつつも俺と香良洲は大通りの方向へと歩いてみることにした。
そうそうちゃんとお店はclause。準備中として、出発した。
「——なんかこっち向いて歩くの久しぶりだな」
周りのなんか――暗い感じの道。路地裏の雰囲気は俺が知っているものだった。
「——さっきもここは歩きました」
「そうなのか?」
「はい。もう少し歩いて――確か同じような道が続いているな――と思ったら。お店の横でした」
「何そのちっちゃな地球みたいなの」
「ちっちゃな地球というのかは――ですが。ホントなんですよ」
「うーん。でも今のところ何もおかしなことはないんだよな」
「——ですね」
俺と香良洲は並んで歩いている。どちらかが消えるということはない。あと周りの景色もちゃんと進んでいる。同じところを歩いている感じもないし。俺はなんとなく覚えているというか――まあ知っている光景が続いており――。
「あれ?」
「——出たな。久しぶりだわ」
俺と香良洲は路地裏を抜けて、大通りへとやって来た。
こちらは俺の店の前とは比べ物にならないほど人が多い。ちょうど夕方夕食時だったらしく――ってマジでお店のところに居ると時間の感覚がおかしくなるあんだよな。うん。ってか――そんな時間だったか?まあいいか。多分夕食時で居酒屋関係が賑わっている時間と見た。
「えっ――ここ――どこですか?」
「……あれ?」
すると俺の横に居た香良洲がキョロキョロ周りを見ながら聞いて来た。なので俺は――自分の記憶を頼り。まあ結構そこそこ過ごした土地だからな。今俺達が立っている場所について話すと――。
「そんなところあったんですか――初めて知りました」
「そこそこな町だったと思うが――」
「いや、県名はもちろん知ってましたが――こんな町があるとは」
「ってか。香良洲どうやってお店に来る時は来たんだ?」
「えっ?あー、そういえば……えっと、確か家に帰る途中で――あれ?何があったんだっけ?」
「——」
なるほど、どうやら香良洲。記憶が一部飛んでいるみたいだ。もしかしたらお店に来る人は――自分の最期の時に近い時間を忘れてきているのかもしれない。
「ってか、香良洲」
「はい?」
「大通りに出れたということは家に帰れるんじゃないか?」
「あっ確かに――」
そうそう、出れたのなら。帰れるだろう。と俺が気が付いて香良洲に言うと――一瞬だけ香良洲が笑顔――と思ったらすぐに表情が曇り――さらに恐怖?みたいな表情になった。
「……香良洲?」
「——私――——わからないです」
ぼそりと香良洲が言う。
「えっ?」
「——どこで何をしていたのか――覚えていたはずなのに――何も出てこない……全く」
「——えっ?」
「自分が住んでいた所――わからないです」
「……そんなことあるのかよ」
ちなみに俺は生まれてすぐの事は――まあさすがに覚えてないが。子供のころからの ことは覚えており。ちゃんと思い出せている。でも――香良洲は何も思い出せないらしい。
「嘘……」
「香良洲。ちょっと移動しよう。ここ大通り――って。あれ?」
「真菅さん?」
その時俺はとあることに気が付いた。
俺達の周りには多くの人が居る。お店もある。かなり賑わっている場所に立っていたのだが――見えているが感じなかった。
人の気配を。いや、見えているから――勝手ににぎわっていると思っていたが。よくよく見ていると――人の気配がない。そして――。
世界がぐにゃりと曲がる――。
「真菅さん!」
俺の耳に届いてきたのは香良洲の声だけだった。
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