魔女と男子高校生

MiYu

第1話 Boy meets Witch

ザァァァァァ・・・。

雨が降りしきる中、私は一人で外に立ち尽くしていた。

「何かつまんないな」

生きる理由も分からず、仕事も何の為にして良いかも分からず・・・。

「もう死のうかな・・・」

私は今、橋の上に立って身投げしようと考えていた。

「ふぅ・・・」

覚悟は決まった。

もういいや。

楽になろう。

そうして、橋から飛び降りようとしたその時。

「あのー風邪ひきますよ。傘・・・要ります?」

そこには高校生なのだろう。

制服を着た、男の子が立って居た。

「あなたは・・・?」

思わず聞いてしまった。

明らかに、今の私の状況は怪しい人だろうに。

だけど、この男の子はそんな事を気にせずに答えてくれた。

「通りすがりの高校生です」

何故だろう。

この子は、優しい気がする。

全く知らないのに、この子は・・・この人は信用していい気がする。

「ああそう・・・。でも大丈夫よ」

だけどこんな私に関わってはいけない。

「そうは言っても・・・。だって今、死のうと考えてましたよね?」

「え?」

どうして分かったのかと聞こうとしたが、こんな姿じゃ無理もないか。

雨の中、傘も差さず橋から飛び降りようとしているのだから。

「俺って人の顔色ばかり気にして生きてるからなんとなく分かるんです」

顔にも出ちゃってたか・・・。

「そうなのね」

「はい。だから放っておけないんです」

多分、本気で私を心配してくれているのだろう。

「あら、新しいナンパかしら?」

「い、いやそういう訳ではないんです!!」

そんなに慌てて可愛いらしい人ね。

「ふふっ、分かっているわよ。あなたはそんな事をするような人じゃなさそうね」

「まあそうですね・・・」

本来は、内気な性格なんだろうなぁ。

「それであなたの名前は?」

何故か私はこの人の名前を聞いてしまった。

「俺ですか?俺は黒崎未悠くろさきみゆです。女の子みたいな名前ですけど男です」

「確かに可愛い名前ね。私はアリアよ」

もっとこの人と話したい。

「アリアさんですね。苗字は、何て言うんですか?」

苗字か・・・。

「聞きたいの?」

「いやそういう訳では無いんですけど」

何かを察したみたいであんまり聞いてこない感じかな。

でもまあこの人・・・黒崎未悠君には話してもいいような気がした。

「家を勘当されたからもう苗字って要らないなって思って」

噓偽りない話だ。

こんな事聞いたら流石に引いちゃうかな。

「そうなんですね。なんかすみません」

「いいのよ。あなたは気にしなくて」

やっぱするべき話じゃなかったかな・・・。

「とりあえず場所を移動しましょう。こんなところじゃずぶ濡れで本当に風邪引いちゃいますよ」

「そうね。あなたは風邪引いちゃうかも」

「アリアさんもですよ」

大して知らないのに、自分より私の心配なんだね。







私は、黒崎未悠君に連れられ屋根のあるバス停まで来た。

雨は一向に止む気配を見せず強くなるばかりだ。

「え~っと・・・あ、あった。はいアリアさん。これで拭いてください」

タオルを渡された。

「そこまでしなくても・・・」

「良いんですよ」

「じゃあありがたく・・・」

私はありがたくタオルを受け取ることにした。

「それで良いんです」

彼は笑顔でそう言ってくれた。

「何も聞かないの?」

ここまでしてくれて何も聞かない方が不思議だ。

「聞いて欲しいんですか?」

質問を質問で返されてしまった。

でもこの質問が私を見透かしているようだった。

「君は見たところ学生のようだけどしっかりしているわね」

素直に感心した。

きっと真面目な子なんだろうな。

「まあ頼れるのは自分だけですから」

「そうなのね・・・」

どういう事なんだろう・・・。

それを口にした彼の顔は、どこか寂し気だった。

「よいしょっと。飲み物でも買おうかな。アリアさんは何がいいですか?」

「私はいいよ。子どもに奢らせるなんて」

そこまでしてもらう訳にはいかない。

「あー間違えて押しちゃったー。これどうしようー」

なんてわざとらしいんだ。

「あなたってとても変わってるのね」

「普通じゃ面白くないですから」

私は呆気にとられた。

普通じゃ面白くない・・・。

何故か私はその言葉が響いた。

「ふふふっ」

自然と笑いが込み上げてきた。

今まで背負って来たものが洗い流されて、体が軽くなった気分だった。

「ふふっ」

「ははっ」

彼もいっしょに笑った。

彼の笑顔は、とても綺麗に見えた。

「じゃあ聞いてもらおうかな。私の話を」

私は話すことにした。

私の秘密を・・・。

「分かりました。聞きますよ」

優しいなぁ・・・。

「私はね。信じられないかも知れないけど普通の人間じゃないの」

「と言いますと?」

「魔女なの」

そう、私は魔女なのだ。

もう170年近く生きている。

友人は、大昔に魔女狩りでみんな死に、親もひっそりと過ごしている。

魔女と呼べるものも少なく、私は生き残りだ。

そんなおとぎ話みたいな事を普通の人は信じないだろう。

「ほぉ~」

「信じてないわね」

まあそれが普通なのだ。

今更、何とも思わない。

私は、このくらいで話を終えようとした。

これ以上、話してもこの人の為になるものではないし。

「信じてますよ。言ったでしょ俺は他人の顔色を読み取るのが得意って。だから嘘じゃないって分かります」

多分、彼は本気で言っている。

本気で私の話を信じている。

彼は、本気で私と向き合っている。

「そうなのね・・・じゃあ私の年齢が170って言っても?」

私の年齢を聞いて彼はどんな反応をするのか気になった。

「んー役所とかの書類ってどうなってるんですかね?」

予想外の答えが返って来た。

「気にするところそこかしら?」

思わず聞き返してしまった。

「免許証とかもどうなっているんですか?」

これはまた予想外というか予想の斜め上を行くかのような疑問だった。

「まあ免許取ったのは20歳ってしているわよ。魔法で書類は偽造しているし」

馬鹿正直に年齢を書くと面倒だし、偽造する方がみんなの為だろうと思い、魔法で公的身分は誤魔化している。

「なるほど。じゃあ納得です」

納得してもらっちゃった。

「でもこんな話信じるの?」

こんなの信じる方が珍しいと思う。

「魔女とか幽霊とか普通じゃないものが存在してるって面白いじゃないですか。だから信じても罰は当たらないかなと」

彼は、何だかんだ言って子どもっぽいなと思った。

こんなおとぎ話みたいなのを信じていて、優しい顔をしながらこんな事を言えるこの人を心の底から尊敬した。

私なんかよりも立派だなと思った。

「ふふっ、本当に面白いわね。黒崎未悠君」

彼ともっと仲良くなりたいな・・・。

「そうですか?面白かったら今頃クラスの人気者になっているはずですけど」

「それは黒崎未悠君の魅力に気付いてないクラスのみんなが悪いわね」

「なるほど、そういう考え方もあるんですね」

冗談を言いつつ、私は彼に言ってみた。

「ねぇ黒崎未悠君。私の友達になってもらえない?」

こんなおばさんというかおばあさんのお願いなんて聞く必要はない。

それでも私は、彼ともっと話したいと思っている。

「いいですよ。じゃあ俺の事を名前で呼んでください。フルネームで言うのもなんかあれでしょ」

名前か・・・。

異性の人を名前で呼ぶなんて170年生きているけど一度もないから恥ずかしい・・・。

でもここは大人の余裕を・・・。

「分かったわ。み、未悠君」

緊張した・・・。

「はい。アリアさん」

何か胸の底が熱くなっている気がする。

何だろうこの不思議な感覚。

「未悠君っていくつなの?」

何歳差なんだろう・・・。

「17歳ですよ。高校二年生です」

「若いわね」

153歳差か・・・。

まあ私が規格外なのよね。

「アリアさんも正直10代後半から20代前半くらいに見えますけど」

嬉しいことを言ってくれる。

「まあ魔女だからね」

「それもそうですね」

少しずつだけど打ち解けてる気がした。

「そういえばだけど、敬語じゃなくていいのよ」

「うーん・・・。俺って女性と話すときは基本的に敬語になっちゃうんですよ」

男の子だなぁ。

可愛い。

「じゃあ私だけね」

私とは、気楽に話して欲しいな。

「う、うん。頑張る」

「ええ。頑張りなさい」







雨も上がり、雲の隙間から晴れ間が差している。

「雨は止んだけど、アリアさんの家はここから近いの?」

「ううん。近くはないよ」

「そうなんですか?じゃあここまでどうやって?」

彼は、私の心配をしてくれているのだろう。

「会社が近くなの。でもなんか嫌になって抜け出しちゃったのよ。でも仕事は終わらせたから迷惑はかけてないわ」

「会社って?」

彼は、不思議そうに聞いてきた。

「私が経営している会社よ。ほらあそこにジュエリーショップあるじゃない」

「はい。ありますね」

「あれ私の子会社」

「マジか」

私は、複合企業ノクターンの社長なのだ。

ジュエリーショップは、あくまでついでなのだが、飲食店の経営や不動産なども管理してたりする。

会社自体は、私が立ち上げもう何十年も続いている。

「私はね。目的もなく、ただただ働くというのが嫌になったの。あくまで社長だから、社員の事は考えなきゃだけど、私自身の目的は無いの」

私は、溜まっていたものを全て未悠君に話した。

「まぁ目的が無いと辛いよなぁ」

「うん・・・」

「じゃあさ目的を作らない?」

「作る?」

「うん、なんでも良いんですけど、趣味を見つけて自分の為にお金を使う。そうすると少しは働かなきゃってなるでしょ」

「趣味ね・・・」

私には、趣味と呼べるものも何も無かった。

「そういえば結婚とかはしてないの?」

「ええ。相手が居なくて・・・もうこんなおばあちゃんなんて誰も貰わないでしょ」

「まあ年齢だけ見るとね・・・」

私の本性すらも受け入れる人なんているはずがない。

魔女で170歳の人と付き合いたいなんて思う人なんていないだろう。

「未悠君は彼女とか居ないの?」

思わず聞いてしまった。

「生まれてこの方彼女なんて居た事ないなぁ」

「そうなのね」

何故か安心している自分が居る・・・。

「好きな子とかは?」

「んー居ないかな」

居ないんだ・・・。

大人しめとは言え、いなくてもおかしくないのに。

「そういうお年頃なのに?」

「そういうお年頃なのにですよ」

そっか・・・。

居ないのか・・・。

「じゃあ私は?」

「はい?」

「私とかどう?」

勢いで聞いてみる。

心臓の鼓動も早くなっている。

私よりも100歳以上も歳の差があるのに、私が緊張しちゃってる。

そうか。

私は、さっき会ったばかりのこの子に恋をしているんだ。

「アリアさんはお綺麗ですからね、付き合えて結婚できるなら嬉しいですよ」

真っすぐ私の眼を見て言ってくれた。

「じゃあ私と付き合わない?」

「・・・本気ですか?」

「ふふふ、冗談よ。未悠君もこんな年上じゃいやでしょ」

やっぱこの子には、私なんかよりも良い人が居るかもしれない。

魔女以前に、大して知りもしない人に迫られ、付き合おうなんて言う方がおかしい。

諦めよう。

この恋は、叶ってはいけない気がする。

この子の為にも・・・。

「・・・まあ年齢は気にします。だけど、アリアさんなら良いよ。だから俺と付き合ってくれませんか?」

まさか、未悠君から改めて告白されるなんて・・・。

「未悠君って意外に積極的なのね」

「なんかそういう気分」

彼は、笑顔で答えた。

「ふふふ、じゃあ私からも言うね。私と結婚を前提に付き合ってください」

「喜んで。結婚は来年かな」

「そうね」

私と未悠君は、出会って数時間だが恋人となった。

それも結婚を前提とした・・・。

この年になって、初めての恋人だからどんな風に接して良いか分からないけど、彼を幸せにしてあげたいと心の底から思った。

「じゃあアリアさん。連絡先交換しませんか?せっかくの恋人ですし。その・・・デートとかもしたいですし」

「ふふっ。良いよ。私の方こそお願いね」

「はい」

こうして私たちは、連絡先を交換し今日のところはお互い帰ることにした。

「ではアリアさん。お仕事頑張ってください。その・・・また何かあったら俺に相談してください。あっ、自殺とかは絶対だめですよ。俺も追いかけますからね」

「ええ。もうあんな真似はしないわ。未悠を死なせたくないしね」

「はい。それではまた。・・・っと帰る前に」

「ん?」

未悠が帰ろうとした時、彼は足を止め振り返った。

「愛してますよ。アリアさん。」

ちゅっ

彼は、優しく私の額にキスをした。

「私も愛しているわ。未悠君」

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