第184話 SS1 ジェイソンの再起(下)
――翌日。
ジェイソンは顔合わせのために、ギルド酒場を訪れた。
まだ午前中で、客はまばらだ。
募集パーティーの構成は聞いていたので、すぐに思い当たる四人組を発見し、声をかける。
彼らの反応は受付嬢と一緒。
いや、若いだけに彼女以上に不躾だった。
「こんな年寄りが?」と顔に書かれている。
だが、すぐに不味いと思ったのか、取り繕ったリーダーの男は用件を切り出した。
「ジェイソンさんですか?」
「ああ。こう見えても、まだ27歳だ。ギルドから聞いていると思うが【2つ星】の【戦斧闘士】ジェイソンだ」
「【2つ星】……」
リーダーは戸惑いを隠せない。
応募してくるのは、自分たちと同じく星を得たばかりの同じ若い人間――そう思い込んでいた。
ギルドからジェイソンの情報を聞いてはいたが、冷やかしではないかと半信半疑だったのだ。
そして、実際にやって来たジェイソンを見て、リーダーはふたつの意味で驚いた。
ひとつ目はその見た目だ。
聞いていた年齢とは思えない。
だが、差し出された冒険者タグでジェイソンが嘘をついてないと分かる。
いったい、なにがあればこんな姿に――まだ若いリーダーには想像もつかなかった。
そして、ふたつ目はジェイソンの目だ。
伊達や酔狂ではない。
真っ直ぐな本気が伝わってきて、こっちがたじろぐほどだ。
自分たちでは計り知れない道を歩んできたと分かる。それと同時に、悪い人間ではないことも。
「本当にうちのパーティーに入ってくれるんですか?」
事情は知らないが、ジェイソンの強さと経験なら大歓迎だ。
問いかけに対し、ジェイソンは四人の顔を見回してから答える。
「ああ。いい顔をしてる。冒険者の顔だ。俺で良ければ、入れてもらえないかな」
【2つ星】冒険者に褒められた他のメンバーが浮かれる中、リーダーは気を引き締める。
「でも、どうして俺たちに? ジェイソンさんなら、他にもっと強くて、もっと稼げるパーティーがあるんじゃ?」
「今の強さなんて、どうでもいいんだ。それよりもどれだけ先を見ているか、それが一番大事なんだ」
「先を……」
「ああ。俺はそれを履き違えたから、過ちを犯した」
ジェイソンはリーダーの目を強い意思で貫く。
過去の過ちと向き合い、乗り越えた目だ。
「いいパーティーだな」
冒険者パーティーは星の数ほどあるが、みんながみんな仲良しというわけではない。
一緒に金儲けするパートナーとしか思っていなかったり、ギスギスしながらも一緒に冒険していたり。
だが、目の前の四人は違った。
同じ未来を見ている四人。
「俺も加えて欲しい。一緒にダンジョンを制覇しよう」
「ジェイソンさん、俺たちやっていけるでしょうか?」
輝く眼を見て、ジェイソンは確信する。
「ああ、お前たちなら大丈夫だ」
強く頷いて示す。
「俺も【2つ星】までしかなれなかったが、お前たちなら間違いなく【2つ星】にはなれる」
「わかりました」
リーダーも頷く。
「じゃあ、今度は俺の話をしようか――」
「いや」「大丈夫です」「必要ないです」
「そうか……」
今、聞くべきではない。
リーダーは直感した。
他のメンバーたちも。
「冒険者をやっていたら、誰にも言いたくないことのひとつやふたつある。だから、他人の過去は詮索するな。そう教わりました」
「そうか……よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ジェイソンはメンバーたちと順に握手する。
彼のパーティー加入はスムーズに済んだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「――というわけだ」
ジェイソンは『破断の斧』脱退から、『無窮の翼』騒動までを語り終えた。
「失望したか?」
「いえ――」
四人は首を横に振る。
これが出会った当日だったら話は変わったかもしれない。
だが、ジェイソンが加入し、何度かダンジョンに潜るうちに、メンバーたちは彼の
むしろ、彼が打ち明けてくれて嬉しかった。
より一層、絆が深まったと感じる。
「兄貴、これからも俺らを引っ張ってくれよ」
「頼りにしてるわ」
「一緒に暴れようぜ、兄貴」
ふとジェイソンの頭に過去がよぎる――。
『破断の斧』時代の懐かしく温かい思い出、それが今の状況に重なった。
そして、ジェイソンは今、完全に過去と決別できた。
一度、手からこぼれ落ちた宝物を、もう一度手に入れたのだ。
もう二度と、ジェイソンが過ちを犯すことはないだろう――。
◇◆◇◆◇◆◇
次回――『エルフリーナ:千年前の想い』
8月22日更新です。
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