第182話 パズズ戦3

  倒れていたパズズがムクリと起き上がった。


小癪こしゃくな精霊使いめ。まずは貴様からだ」


 パズズは憎々しげに俺をにらみつける。

 ようやく敵と認めてもらえたようだ。


 マレから受け取った精霊剣エレメントソードを握り、感触を確かめる。

 剣身は50センチもない小ぶりの両刃剣だ。

 ミスリルに似ているが、俺の知らない材質だ。


 俺が握ると精霊剣はわずかに輝いた。

 弱々しい光だが、どこか懐かしい思いがする。

 そして、精霊の残り香のようなものも感じられる。


 この剣なら――どこかそんな確信があった。


 俺はパズズを見据え――。


『土の精霊よ、礫と成りて敵を討て――【飛礫ペブル・ブラスト】』


 左手から土礫を飛ばす。


 それに対し、パズズは翼から無数の風を生じさせる。

 先ほどの赤黒い風だけでなく、無数のカラフルな風だ。

 土礫と相殺した上、いくつかの風がこちらに飛んでくる。


 土礫が落とさせるのは計算の上。

 俺は風の間をかいくぐってパズズに近づいた。


 背後から風が弾けて消える音がする。

 ステフがちゃんと防いでくれたようだ。


 パズズが反応するより、俺の方が速いッ。

 無防備な胴体を精霊剣で斬りつける。

 ぶ厚い筋肉を精霊剣はスルリと斬り裂く。


 ――なんて切れ味だ。


 パズズが殴りかかってくるが、その攻撃は単調で予測が簡単。

 その合い間に翼から風が生じるが、俺はステフを信用して、すべてかわ

 ひらりひらりと回避しながら、次々と斬りつけていく。


 傷口から流れ出るのは赤い血ではなく、黒いモヤだ。

 与えた傷が次々と黒モヤによって回復していく。


 ――黒いモヤが厄介だな。


 黒モヤによる回復がいつまで続くか分からない。

 このままだと、根比べだ。

 体力でも集中力でも負ける気はしない。

 だが、問題は――。


 ――この精霊剣、威力は文句なしだが、魔力消費が激しすぎる。


 このままやりあったら、俺の魔力が先に尽きそうだ。

 だとしたら、シンシアやマレが合流するまで時間を稼ぐべきか。


 フロアを見ると、二人ともまだ時間がかかりそうだ。

 それまで持つだろうか。


 精霊剣ではなく、他の方法で守りに徹するべきか。


 俺は一度離れ、作戦を練るために距離を取る。

 頭の中で懸命に考えを巡らせていると――。


「ボクが助けてあげる」


 背後から急に現れた気配。

 一瞬、慌てるが、敵ではないとすぐに分かる。

 この気配は――風精霊だ。それも、ただの精霊ではない。サラに通じるなにかを感じる。


「ああ、助けてくれ」


 精霊はニコリと笑ったような気がした。


「ここにはあまりいられないんだ。ボクが黒いのを払うから、その剣でやっつけて」

「ああ、分かった」

「じゃあ、行くよ」


 風精霊はフワリと高く上昇する。


 風が起こる。

 突風だ。

 パズズの風など比較にもならない暴風だ。

 その余波だけで、俺まで吹き飛ばされそうになる。

 暴力的な重さを伴った疾風が――。


『――――』


 パズズに叩きつけられる。

 バロルの身体の中から黒いモヤが引っ張り出され――かき消される。


 風精霊が降りてくる。

 そのまま俺の背中に重なり、すぅっと俺の中に入った。

 身体の中心から風が起こり、力があふれてくる。

 それと同時に、精霊剣は緑色の光を帯びて剣身が1メートルほどに伸びた。


「今だよ」


 緑精霊の声に合わせ、俺は駆け出す――。


 パズズは風に囚われ、無防備な姿を晒している。


「いけええええぇッ!!!」


 残りの魔力すべてを精霊剣に流し込む。

 緑が強くきらめく。


 剣の重さはほとんど感じられない。

 大上段から、真下に向かって振り下ろすッ!


 ――手応えはまったくなかった。


 剣先は地面に触れる辺りで止まっていた。

 そして、パズズを左右真っ二つに分断していた。


 パズズは黒いモヤとなり、そのまま消え去る。

 一切の跡形あとかたも残さずに。


 それと同じくして、精霊剣も砕け散った。

 剣身だけでなく、柄も含めてすべてが煙のように消失した。


「なかなか強いね。の上で待ってるよ。早くボクに会いに来てね」


 そう言い残すと、風精霊はあっさり姿を消した――。


 ――ふぅ。終わった。


 大きく息を吐く。

 肩がふっと軽くなる。


 長かった夜はこうして、無事に終わりを告げた――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


 パズズ編、これにて完結です!

 おつき合いありがとうございましたm(_ _)m


 次回は少し時間をあけての再開になります。

 SS挟むかもしれないです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る