第157話 再会する二人

 シンシアが実力を示した。

 今度は俺が示す番だ。


 瓦礫の前に立ち、両腕を前に突き出す。


『風の精霊よ、集い、固まり、縮まりて、敵を穿うがつ弾となれ――【風凝砲ウィンド・キャノン】』


 凝縮された空気の固まり手のひらから発射され、残骸を貫通して大きな穴を開ける。

 部屋の奥まで続く直径2メートルの大穴だ。

 穴が空いたおかげで、向こう側まで見渡せる。

 その先には数人の武装した者たちの姿が見えた。


「残り8匹ね」


 今ので二人巻き添えを食ったようだ。

 ヴェントンは前方を見据え、刺すような口調で告げる。


「マレ、それに、ラーズたちもついて来い。後は瓦礫に埋もれた生き残りの殲滅と死体確保だ」


 その言葉と同時に部屋中に明かりが灯る。

 敵も作戦を切り替えたようだ。


 ヴェントンの言葉にマレを残したボウタイメンバーが瓦礫の山へと散らばって行った。


「俺たちも行くぞ」


 ヴェントンとマレを先頭に俺たち三人も駈け出した――。


 駆ける俺たちに向かって、前方から火球や氷塊が飛んで来る。

 敵に魔法使いがいるようだ。

 だが、ヴェントンは込められた魔力によって青白く光る短剣を小さく振って、それらを撃ち落としていく。

 まったく無駄のない洗練された動きだった。


 立て続けに飛んで来る魔法を難なくさばきながら、速度を落とすことなく疾駆する。

 長いトンネルを抜けると、地下一階の突き当りだった。


 そこには武装した6人が待ち構えており、その奥には下へ降りる階段が見えた。


 皆、冒険者崩れだ。

 実力は【2つ星】程度だろう。


 だが、その中の一人、リーダーらしき男は別格だった。

 頬に深い傷が刻まれた黒髪の男だ。

 金属鎧と曲剣を装備している。

 どちらも同じ黄味がかった銀色。

 オリハルコン製だ。


 アイツは……【3つ星】か?


 【3つ星】でないと手に入れられない最高級装備。

 そして、男の放つ殺気もそれに見合ったものだった。

 男の殺気に肌がピリピリと刺激される。


 男の目にはヴェントンしか映っていないようだ。

 俺たちの存在は完全に無視している。


「サージェント……」


 ヴェントンが男に呼びかける。

 複雑な思いが込められた声だった。


「その名はとっくの昔に捨てた。今の俺はウィードだ。人間を蝕むウィードだ。ルーカス、いや、ヴェントンと呼んだ方がいいか?」


 ウィード。

 ある禁薬の俗称だ。

 この世のものとは思えない快楽を与えてくれる薬。

 その代償として、服用し続けると廃人になる薬。


 自らをそう呼ぶ男はいったいどういった心境なのか。

 深い深い闇をたたえた目をしている。

 その目を見ただけでも、底しれない狂気が伝わってくる。


「ようやくだ。ようやく追い詰めたぞ」

「それは違うな。俺がお前を呼び寄せたんだ」

「ここで終わらせてやる。静かに眠れ」

「終わらせるだと? 違うな。これから始まるんだ。お前を殺してなッ!」


 言い終わるより早く、曲剣を抜くと、ウィードはヴェントンに斬りかかる――。


 疾い一撃だ。

 軌道がブレて見えた。

 俺だったら、咄嗟に反応できただろうか?


 ヴェントンは短剣を払い、その軌道をそらす。

 だが、それでも、完全には対応できていなかった。


 ウィードの直剣はヴェントンの肩をなでるように、滑り落ちる。

 革の肩当てが二つに裂かれ、血が滴った。


「そんなオモチャで俺とやり合えるとでも? 本気でかかって来いッ!」


 鋭い一撃を受けた短剣にはヒビが入っていた。

 ヴェントンは視線をウィードに向けたまま短剣を放り捨てると、マジック・バッグから剣を取り出す。

 こちらも同じくオリハルコン製。

 大きく反り返ったウィードの曲剣とは対照的に、真っすぐの直剣だった。


 じっと見合ってから、二人は同時に動く――。


 それに合わせて、俺たちも戦闘を開始した。




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

次回――『ヴェントンの回想1』


次回158話~167話まで回想シーンになります。

回想シーンは好き嫌いが分かれるので、明日・明後日の連続投稿でサクッと終わらせます。


通常パートは明々後日投稿の168話から再開します。

168話冒頭に回想シーンのあらすじを載せますので、興味のない方は回想シーンは飛ばして下さい。

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