第146話 賊の拠点

 ダンジョン前から市街地を抜け、街外れの倉庫街に向かう。

 風精霊に導くまま倉庫のひとつに近づくと、争う物音が聞こえ、しばらくすると静かになった。


「ここか?」


 俺が尋ねると、風精霊はふるっと震えた。

 ダガーを抜き、臨戦態勢のまま、開きっぱなしの扉から、薄暗い倉庫の中へ入る。


 地面に横たわり、動かない数人の男たち。

 そして、部屋の中央に佇むシンシア。

 足元にもひとり、男が横たわっている。


「シンシア、グッジョブだっ!」

「ええ、子どもたちも無事よ」


 奥には大きな檻があり、10人ほどの子どもたちが閉じ込められている。

 その中には、ロロの姿もあり、ホッと胸をなでおろす。


「ラーズ兄ッ!!!」

「ロロ、よくやったな」


 檻の鍵を壊すと、ロロは勢い良く飛び出してきて、俺に飛びついた。

 身体が小さく震えている。

 勇気を振り絞ったが、やはり、怖かったのだろう。


「話はララから聞いた。小さい子たちを守ったんだってな。偉かったぞ」

「うん、身体が勝手に動いたんだっ。みんなを守らなきゃって――」

「ああ、立派だ。誇っていいぞ」


 まだまだ子どもだと思っていたが、大切な人を守れるようになったんだな。

 自分が親になったように、ロロの成長が嬉しい。


 それに対して、このクズどもは――。


「うううぅ……」


 シンシアの足元に横たわる男がうめき声を上げる。


「コイツがボスっぽかったから、意識は残しておいたわ。尋問する?」


 赤く染まったメイス。

 その男を除いて、残りは皆、意識を失っている。


 悪党どもはこの手で止めを刺してやりたい。

 その気持ちは俺も同感だ。

 だけど、ヤツらは貴重な情報源。

 悔しいが、殺すわけにはいかない。

 それくらいの分別はシンシアも持ち合わせている。

 さすがに殺してはいないだろう。


 シンシアが男の胸ぐらを掴み、片手で持ち上げる。

 怯えきった男はヒッと短くもらす。


「いや、それは専門家に任せよう」

「そう。わかったわ」


 シンシアは興味をなくしたように、男を離した。


 相手は犯罪者。

 衛兵に任せるのが筋だが、この場を離れずに連絡できるのはメンザくらいだ。

 メンザに伝えれば、適切に対処してくれるだろう。

 俺は通信用魔道具を取り出す。


『ああ、メンザ――』


 メンザにことのあらましを伝える。


『――すみませんが、その場で待っていてもらえますか。適任者を送ります』

『ああ、わかった』


 必要最小限のやり取りで通話を終える。


「ねえ、ラーズ」

「ん? どうした?」

「この子がなにか伝えたいみたい」


 シンシアは近くの風精霊を指し示す。


「私の【精霊知覚】じゃ、ぼんやりとしかわからないの。ラーズならわかるかもしれないわ」


 風精霊はいつもと様子が違う。

 これは……怒っているのか?


 風精霊は俺に近づくと、胸元に収まった。

 赤子を抱くように抱えてやると――風精霊の意識が伝わってくる。


「これは……」


 風精霊が伝えてくれた情報。

 それは、この悪党どもに関する情報だった。


「シンシア、ここのような場所がいくつかあるみたいだ」


 俺の中で怒りが再燃する。


「俺はヤツらの拠点をひとつずつ潰しに行く。ここを見ててもらえるか」

「ええ」

「後で合流しよう」


 速さを考えるとシンシアの方がいいが、風精霊とのやり取りを考えると俺の方が適任だ。

 それに、俺自身の手で叩き潰してやりたいという思いもある。


「ロロ、しばらくしたら他の大人がここに来る。それまでは、他の子どもたちの面倒を見てやってくれ」

「うん! 任せてくれっ!」


 さっきまで怖い思いをしたはずなのに、頼もしい顔をしている。

 小さい子どもの世話は慣れている。

 ロロなら子どもたちを落ち着かせてくれるだろう。

 シンシアもいるし、この場は安心して任せられる。


「じゃあ、行ってくる。案内してくれよっ!」


 風精霊に先導されながら、俺は街へと駈け出した――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『拠点潰し』

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