第128話 ステフ歓迎会3
「そういえば、オーラ・レセプターってどんなスキルなんだ? 今日は使っていなかったみたいだが」
ステフの性別問題ですっかり後回しになってしまったが、一番大切なのはステフのスキル欄にあった[オーラ・レセプター】というスキルだ。
この世には気(オーラ)と呼ばれるもの3つがある。
物理職が使う覇気。
魔法職が使う魔気。
回復職が使う聖気。
オーラの使い手はこれらの気を使って、身体強化したり、攻撃したりする。
例えば――。
アインスでお世話になった【戦拳闘士】であるカヴァレラ師匠の覇気を纏う【覇気纏武(はきてんぶ)】。
シンシアの聖気を纏う【聖気纏武(せいきてんぶ)】。
オーラの使い手は極一部だ。
『無窮の翼』ですら、誰も使えなかった。
だが、その分、効果は桁外れ。
誰もが憧れる能力だ。
ステフの【オーラ・レセプター】もオーラに関するスキルだと思うが……。
「ああ、確かに、今日は使っていなかった。パーティー加入が決まるまでは使うなと爺様に言われていたのだ」
スキル構成は冒険者にとって、最重要情報だ。
とくに強力なスキルはおいそれと他人に明かすものではない。
メンザが慎重になるのも当然だ。
「私の【オーラ・レセプター】は他者からオーラを受け取り、自分の力として使えるスキルだ」
「「なっ!?」」
「しかも、重ねがけが可能なのだ。このスキルでは複数のオーラを同時に操れるらしい。まだ、実際に使ったことはないのだがな」
俺とシンシアは揃って驚きの声を上げる。
オーラの使い手は限られるが、ウチにはシンシアという聖気の使い手がいる。
メンザもそれなりに使えたはずだ。
「なるほど、メンザがステフを推薦した理由のひとつがこの【オーラ・レセプター】か……」
「ああ、そうだ。私の能力を活かせるパーティーは限られるからな」
ステフがこの街に留まっていたのは、オーラ使いの素質がありそうな人を探していたからだろう。
ドライの街だとほとんどのパーティーが固定化されているから、引き抜きも加入も難しいからな。
オーラ使いがいる女の子だけのパーティー……うん、そんなものそう簡単に見つかるわけがない。
勇者パーティーや【精霊統】よりもレアかもしれん。
「シンシア嬢――」
「シンシアで良いわ。同じ仲間だもの」
「ああ、失礼。これはクセみたいなものだ。すべての女性は美しく気高い。敬意を払うのは当然だと思っての事なので、気にしないで欲しい」
やはり、ステフは筋金入りだ。
シンシアも困ったような、呆れたような顔をしている。
「それで、シンシア嬢。明日からは貴女の聖気を私に分けて欲しい」
「ええ、もちろんよ」
「強くなった私を貴女に見てもらいたい。その上で、私の誘いをもう一度考え直してもらえないだろうか?」
「それは楽しみだ。だが、しれっとシンシアを口説こうとするんじゃない」
「目の前に美しい女性がいる。それを口説くのは必然だと思うが?」
コイツ隙あらば、口説こうとするな。
女性と分かったので最初ほど抵抗はなくなったが、それでも気にはなる。
「……まあいい」
言ってもムダだ。
それに、俺もそこまで心配しているわけではない。
シンシアがなびく事はないし、今日一日見ていてコイツの事は少し分かった。
女性とあれば節操なしに口説くが、その反面、特定の一人に執着することはない。
女性を口説く駆け引き自体も楽しみにしているのだろう。
一人に執着してしつこく迫ってくる相手と違い、シンシアが断り続けても強引な手段に出ることはない。
「話を戻そう。ステフを活かすためには、オーラを使えるかどうかが重要な判断材料になるな」
「ああ、オーラの使い手が増えれば、私はもっともっと強くなれる」
「俺も使えたら良かったんだがな……」
精霊術使いである俺は、どのオーラも使いこなすのは難しいだろう。
「これは爺様から聞いた事だが――」
「ん?」
「オーラの種類は3つ」
「ああ、それが常識だ」
「だが、爺様が言うには、もうひとつのオーラがあるかもしれないそうだ」
「…………」
「4つ目のオーラ。それは――霊気。精霊に愛されし者のみが纏えるオーラだ」
「なっ!?」
オーラに関してはすっかり諦めていた。
だが、もし、使えるとなるとタダでさえ強い【精霊統】はもう一段階強くなる。
想像しただけで、身体がブルっと震えた――。
◇◆◇◆◇◆◇
いろいろと衝撃的だった歓迎会だったが、明日もダンジョン攻略があるので、早目の時間に切り上げた。
それに、この後シンシアと二人っきりで予定があるしな。
「ステフはこの後どうする? この拠点には空き部屋がいくつもある。ここに泊まってってもいいぞ?」
多少警戒はしているが、ステフも仲間になった。
この拠点を使う権利は彼女にもある。
あえて、邪険にすることもないだろう。
この後のシンシアとの営みも消音結界を張れば大丈夫だし。
「お言葉に甘えさせてもらおう。では、シンシア嬢、貴女の寝室に案内していただけないか?」
「おいっ! シンシアは俺のだっ!」
抱き寄せると、シンシアはポッと顔を赤らめる。
「はははっ。冗談だよ」
コイツの場合、どこまで冗談か分からない……。
まったく、油断も隙もないヤツだ。
「ありがたい申し出だが、遠慮しておこう。一人寝は慣れてないのでな」
「…………」
「なに、泊めてくれる相手の当てならいくつかある。心配無用だ」
呆れている俺たちをよそに、ステフは通話用魔道具を取り出し――。
「ああ、エメラルダかい? 今から良いかな――」
短いやり取りの後、通話は終わる。
「そういうわけで、私は失礼させてもらうよ」
「……明日、遅れるなよ」
「大丈夫だ。寝坊しない一番良い方法を知っているかい?」
「魔時計だろ」
魔時計。
時間を教えてくれる魔道具だ。
性能が良いやつだとアラーム機能もついている。
ただ、アラームを無意識に止めてしまうこともあるので、油断は禁物だ。
「朝、起こしてくれる相手と一緒に寝ることだよ。それじゃあ」
そう言い残して、ステフは颯爽(さっそう)と去って行った。
なんだこのイケメンムーブ。女性だけど。
見た目も抜群で、これだけカッコいい言動なら、同性相手でもモテるのは納得だ。
「凄いヤツだな」
「ええ、ほんと」
遊びと割り切り、複数を相手にする。
俺やシンシアとは真逆のタイプだ。
ある意味では尊敬するが、真似できないし、真似しようとも思わない。
俺もシンシアも、お互いがいるだけで十分だ。
「まあ、悪いヤツじゃないことは分かった。シンシアにちょっかい出さない限りは、本人の自由にさせるさ」
「ふふっ」
軽い口づけを交わす。
「さっき、嬉しかったわ」
「ん?」
「『シンシアは俺のだっ』って言ってくれたこと」
咄嗟に出た言葉だったが、あらためて指摘されると照れてしまう。
ステフだったらここで気の利いたセリフでも言うんだろうけど、俺には無理だ。
だから、代わりにそっと抱き寄せた。
「上に行こうか?」
「うんっ!」
夜はまだまだ。
明日、寝坊しない程度に頑張ろうっ!
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『風流洞攻略8日目1:上層部攻略再開』
◇◆◇◆◇◆◇
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