中央地域ゴルゴンゾーラ城の昆虫騎士【ピクトグ・ラム】は……虫頭の兜をかぶる
楠本恵士
ピクトグ・ラム〔幼少期〕
運命の厄災との出会い
ピクトグ・ラム〔幼少期〕
異界大陸国【レザリムス】中央地域の第一都市『レザリー』にある、黒城【ゴルゴンゾーラ城】──幼い、ピクトグ・ラムは父親の
等身昆虫の斬り落とされた頭部。インセクト・トロフィーを見上げていた。
飾られている昆虫頭の多くは、アチの世界からレザリムスに紛れ込んできた虫で。
特殊な栄養を含ませたエサを与えて、巨大化させた昆虫だった。
カブトムシ。
クワガタムシ。
カミキリムシやゾウムシの頭部が飾られている。
等身サイズに巨大化させた昆虫の頭部は、そのまま兜に加工して、かぶるコトができた。
目を輝かせて、インセクト・トロフィを眺めている、ピクトグ・ラムに傍らに立つ父親が言った。
「おもしろいか? 虫の頭は」
「うん、珍しい虫ばかり……あの触角が細長くて黒い頭の虫はなに?」
「アチの世界では、ゴキブリと呼ばれているらしい」
「ふ~ん、ゴキブリって言うんだ。テカテカしていてキレイだね」
父親はテーブルの上に置いてあった、牛のフンを食べるフン虫の〝ゴホンダイコクコガネ〟の頭から背中の角が生えた部分の甲虫兜を手にすると、黒光りする角が生えたフン虫の頭を息子の頭にかぶせる。
目の辺りに穴が開いていて、外の様子が見えた。父親がピクトグ・ラムに言った。
「角が生えていて、勇ましいぞ」
「わーい♪ なんか? ウ○コの臭いがする」
その時、使用人の一人が、顔面蒼白で書斎に駆け込んできて言った。
「大変です旦那さま! 栄養剤入りのエサを食べさせて、等身まで巨大化させた全身剛毛の〝ハネカクシ〟の雌雄を、首を斬ろうと檻の外に出したら暴れて城の外に逃げ出しました!」
「なんだと、あれほど巨大化させた虫の扱いには、注意しろと言っただろうが、すぐに行く」
ピクトグ・ラムの父親は足早に書斎を出て行って。後に残ったピクトグ・ラムは、黒光りする昆虫兜をかぶったまま自分も書斎を出ていった。
ゴルゴンゾーラ城の敷地は広い、森もあれば湖もある一部は市民の憩いの場として開放している。
市民や観光客に開放しているゴルゴンゾーラ城の【憩いの黒の森公園】には、歴代の城主が当時無名だった彫刻家に製作させた。
アチの世界の動物彫刻が随所に置かれていて、それが名所にもなっていた。
【憩いの黒の森公園】の彫像群──当時、間違った姿で伝わった。アチの世界〔現世界〕の動物像。全身が長い体毛に包まれ四脚の『シロナガスクジラ』・鼻が二本牙が四本の『エレファント〔象〕』・尻尾が多数で二脚歩行の『キツネ』などがある。
ゴホンダイコクコガネの頭をかぶった、ピクトグ・ラムはいつも遊び場にしている、薪小屋にやって来た。
いつもは閉じているはずの扉が、少し開いていたコトを不思議に思いながらも。
扉を開けて中に入ると、積み上げられた
口元を黒い布で覆い隠して、
忍者は小屋に入ってきたピクトグ・ラムを見て刀を抜いて言った。
「なんだ子供か……化け物かと思った」
忍者刀を鞘に収めた、忍者の腕には包帯が巻かれ、血が滲んでいた。
ピクトグ・ラムが忍者に訊ねる。
「ケガをしているの?」
「こんなの、かすり傷だ」
「大人って、たいがいそう言うね。素直に痛いって言えばいいのに」
「小僧、薪小屋で忍者を見たコトは城の者には言うなよ」
「どうしようかなぁ♪」
忍者はピクトグ・ラムに、普通の子供とは異なる感性を見た。
その時、小屋に二人の若い男が入ってきて、虫の頭をかぶったピクトグ・ラムを見て驚く。
「ば、化け物!?」
勇者の格好をした男が、サビだらけの剣を鞘から引き抜き、ピクトグ・ラムに向かって構えると忍者が制する。
「落ち着け、ただの子供だ……『亀甲』剣を収めろ」
亀甲と忍者から呼ばれた、勇者見習いの男がサビだらけの剣を鞘に収める。
もう一人の若い男が、忍者に近づき包帯を代えて傷の手当てをする。
「傷薬の薬草でもあれば、ちゃんとした治療ができるのですが」
「気にするな『キリル』……医術者見習いの、おまえがいてくれただけでも助かっている」
包帯を交換した、キリルと呼ばれた男に向かって、ピクトグ・ラムが言った。
「城にもどれば、薬草があるからボク持ってきてあげるね……お腹空いていない? ついでに食べ物と飲み物も持ってくるね……待っていてね」
普通の子供だったら、これだけで城にもどって。小屋に薬草と食べ物を持ってきたら誰もいなかった……と、いうのが定番だが。やはり後のゴルゴンゾーラ城の城主、昆虫騎士ピクトグ・ラムは子供の頃から、どこか変わっていた。
「もしも小屋から逃げ出したら。大声出して人を呼んで『脅されて薬草と食べ物を運ばされた』って言うから……覚悟しておいてね」
そう言って、薪小屋から出ていったピクトグ・ラムを見て、忍者は苦笑しながら呟いた。
「あの小僧……大人を
それから、毎日ピクトグ・ラムは食べ物と飲み物を薪小屋に運んだ。
最初は訝っていた、見習い勇者の亀甲と医術者を目指しているキリルも、次第にピクトグ・ラムに心を開き親しげに会話をするようになった。
「オレは勇者になって、一城の城主になるのが夢なんだ……そのために師匠と一緒に旅をして、師匠から術を学んでいる」
亀甲が師匠と呼んでいるのは、薪小屋の忍者のコトだった。
亀甲は手と手の間に、小さなエネルギーの塊を発生させて、ピクトグ・ラムに見せる。
エネルギーの塊は、すぐに消滅する。
「師匠直伝の『勇者玉』やっぱり、オレに向けられる恨みの念が弱いから……今はこんなモノしかできないが、いずれはでっかい勇者玉を頭の上に作ってやる!
師匠からは他にもいろいろと怪しい術を学ばないとな……今のところは、相手の力を半減奪う術と、分岐生命体を生み出す術は学んで会得した……なんの役に立つかはわからないが、オレは嫌われ者の魔勇者になる!」
瞳を希望に輝かせている亀甲を、ピクトグ・ラムは尊敬の眼差しで見た。
別の日──湖の
「わたしは、最強の医術者を目指しているのです……死者さえも甦らせ、同じ顔の人間を医術で何人も形成できる、天才外科医を」
キリルは、釣り上げた魚の針も外さずに、生きたまま空中で解剖して。
後方にある、熱した油の中に放り込み魚をフリッター揚げにした。
釣糸にぶら下がる、フリッターに揚げられた魚の糸を外科メスで切断すると、新しい釣り針とエサを付けて泉に遠投したキリルが言った。
「高度な医術を学ぶには、北方地域が最適だと考えて……師匠と一緒に旅をしているのです。
いずれは別人の腕を、自分の体に移植するつもりです」
ピクトグ・ラムは生きたまま暴れる魚を、空中で解剖できるキリルは、スゴいと思った。
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