第691話

 ヨルネスにダメージを与えることに成功した。

 奴のカウンタースキルの掻い潜り方はわかった。

 速さの優位性を活かして動き、緩急をつけて魔法スキルを効率的にぶつけていく。

 それさえできれば、後はこちらの被ダメージを抑えるように立ち回れば、この消耗戦を制せるはずだ。


 ヨルネスの身体に開いた亀裂がどんどん塞がっていく。

 〖HP自動回復〗と〖超再生〗、そして〖自己再生〗を持っているだけはある。

 だが、その分回復にMPは消耗しているはずだ。

 この調子でガンガン削ってやる!


『〖詠唱返し〗……〖カースナイト〗』


 ヨルネスから青白い光が放たれたかと思えば、それは騎士の姿へと変わった。


 〖詠唱返し〗、目にした魔法スキルを短時間の間自分のものにできるスキルだ。

 早速先の〖カースナイト〗を模倣したようだが……。


『悪いが俺は、速さにゃ自信があるんでな!』


 俺はヨルネスとの距離を保ちながら、相手の周囲を回るように飛んで〖カースナイト〗を避ける。


 少し逃げれば、後を追い掛けてくる〖カースナイト〗の軌道は見なくても読める。

 俺に追いつくためには、迂回して追うような余裕はないはずだ。

 最短距離の経路で追ってきている。

 つまり、すぐ後ろにくっ付いて来ている。


 俺は背後へ軽く〖鎌鼬〗を放った。

 〖カースナイト〗の身体が上下に分かたれ、青白い光を放って破裂した。


 〖カースナイト〗の強みは追尾効果だが、それ以上に速さのなさがネックだ。

 速さのないヨルネスにとっては脅威になるだろうが、俺からしてみれば単発で使われてもあっさりと対処できるスキルだ。

 わざわざ〖詠唱返し〗でコピーせずとも、〖ルイン〗をぶつけられた方が厄介だった。


『こっちも仕掛けさせてもらうぞ! 〖ワームホール〗!』


 俺の傍と……ヨルネスの近くに、黒い光の塊が出現した。


 ヨルネスの弱点がわかった以上、そこは徹底的に突いていく。


【通常スキル〖ワームホール〗】

【空間を捻じ曲げて別の場所と繋げ、物理的な距離を無視した瞬間移動を行うことができる。】

【射程範囲はスキル使用者の全長に比例し、最大で十倍までの範囲を移動できる。】

【MPの消耗量は激しく、発動するまでにやや時間が掛かるため使い所が難しい。】


 オネイロスのときに覚えたスキル……〖ワームホール〗だ。

 今までは直接移動した方がマシの使い道のないスキルだと思っていたが、オリジンマターからこいつの使い方は教わった。

 

 空間を繋げることで、その先にスキルを撃ち込んで一人で挟撃することが可能になるのだ。

 オリジンマターはこれを使って〖ダークレイ〗を多方向から撃ち込んできた。


 〖ワームホール〗は発動が遅い上に座標が固定されるが、多少距離を取られても問題ない。

 対ヨルネスにおいては、二点から撃ち込めるというだけで大きな武器になるからだ。

 空間を曲げてタイミングを合わせれば、〖レジスト〗と〖ミラーカウンター〗だけで対応できなくなる。

 ヨルネスはあの姿では致命的に素早さに欠けるため充分有効なはずだ。


『〖ルイン〗』


 俺の前方に、虹色の光の球体が浮かび上がる。

 〖ワームホール〗の座標から俺を動かそうという狙いらしい。


 ヨルネスは〖ルイン〗を攻撃手段というより、避けさせて相手を動かして行動を制限するのに用いる。

 それ故に、どうにか避けきってもこちらが段々不利に追い込まれていく。

 上手い使い方ではあるが……その使い方には大きな弱点がある。


『その攻撃を受けるかどうかは、俺が選べるんだよ!』


 至近距離で虹色の光が爆ぜた。

 俺はそれを避けずに受け止め切った。

 全身を焼かれるような痛みが走る。


 俺は歯を喰いしばって耐えた。

 覚悟はしていたため、翼で身体を覆い、受ける前から〖自己再生〗による治癒を始めていた。


 ここから退くより、〖ルイン〗を受けた方がいいと考えたのだ。

 それに今回の〖ルイン〗は、〖魔法規模拡大〗での出力や規模の底上げはされていなかった。


 ヨルネスとしては確実に俺を動かすために〖魔法規模拡大〗での威力の底上げをしたかったはずだ。

 だが、ヨルネス自身が〖ワームホール〗からまだ距離を取れていなかったため、俺に向けて下手に大規模な〖ルイン〗を撃てば、二点の〖ワームホール〗を通じてその爆風が自分の許へと届くことになる。

 だから〖魔法規模拡大〗での強化が行えなかったのだ。


 ヨルネスの素の魔法力は、せいぜい同ランク帯最強レベル……。

 無強化の〖ルイン〗でも痛いことは痛いが、発動の遅い〖ワームホール〗を確実に通せるなら安い代償だった。


『〖カースナイト〗! そんでもって〖ホーリースフィア〗!』


 俺から呪いの騎士が放たれ、その後に白い光の球体が続く。

 まずはこの二つのスキルを真っ直ぐヨルネスへと放つ。


『〖ミラーカウンター〗』


 巨大な光の壁がヨルネスの前に迫り上がる。

 〖魔法規模拡大〗で強化しているようだ。

 同時攻撃を、防壁の規模で潰すつもりらしい。


『〖カースナイト〗!』


 俺は〖カースナイト〗を〖ワームホール〗へと放つ。

 これで先に放った二発の魔法スキルと今の〖カースナイト〗は、ヨルネスへと同時に別方向から着弾するはずだ。


『〖ミラーカウンター〗』


 ヨルネスは続けて、別方面にも光の壁を出現させた。

 確実に〖ワームホール〗を活かすために、ヨルネスとの距離を取り過ぎたか。

 二発目の〖ミラーカウンター〗が間に合っちまった。

 これで俺の放った全てのスキルの軌道が全て遮られたことになる。


『だが、ここまでは想定内だぜ!』


 俺は〖ワームホール〗を潜り、ヨルネスの近くへと出現した。

 転移した瞬間、既に準備していた魔法スキルをお見舞いしてやった。


『〖グラビティ〗!』


 周囲一帯を円柱状に黒い光が覆い尽くす。

 重力に縛られ、ヨルネスの身体が大きく高度を落とした。

 宙に展開されている〖ミラーカウンター〗の防壁から、ヨルネスの身体が外れる形になった。


 〖グラビティ〗で叩き落としたためヨルネスの座標が変わったが、〖カースナイト〗には追尾機能がある。

 高度を落とし、防壁を失ったヨルネスへと、二体の呪いの騎士が槍を構えた。


『〖レジスト〗』


 ヨルネスの周囲から黒い光が消える。

 重力の拘束から逃れたヨルネスは〖ミラーカウンター〗の防壁へと戻ろうとするが、もう遅い。


 一体目の〖カースナイト〗がヨルネスに着弾し、青白い光が爆ぜる。

 ヨルネスの身体の端の一部が砕け、体勢が崩れる。


 持ち直す前に、続いて二体目の〖カースナイト〗が着弾。

 爆風に弾かれるようにヨルネスは高度を落とす。

 本体がダメージを負って維持できなくなったらしい〖ミラーカウンター〗の防壁が崩れた。


『んでもって……〖グラビドン〗!』


 隙だらけのヨルネスに、真上から黒い光の球体を叩き込んでやった。

 まともに直撃した。

 ヨルネスの大きな頭部と翼に亀裂が走り、一気に落下していく。


 ヨルネスが身体を地面に叩きつける。

 周囲に轟音が響き、大地が揺れる。

 土煙が舞い上がった。


 今のは手応えがあった。


 行ける……このまま押し切ってやれるはずだ。

 ヨルネスのガチガチのカウンター特化のスキルは厄介だ。

 だが、結局のところ、ステータスのない奴の行動は応用が利かない。


 俺は受け身に特化したスキルはないが、応用の利くものを複数種持っているため対応力があり、作戦を立てやすい。

 ステータスがある分、ゴリ押しで攻撃を通すこともできる。


 その点、ステータスで大幅に劣るスキル頼りのヨルネスは、完全に作戦勝ちして俺の行動を封殺しなければ一方的なダメージを受け続けることになる。

 物理完全カウンターのアバドンは攻撃力特化のアポカリプスでは不利かと思ったが、むしろ突破手段の多い俺の方が有利なくらいかもしれねぇ。

 このまま押し切ってやる……!

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