第622話
俺は〖樹籠の鎧〗状態のトレントを纏った左半身を前に出し、盾にしながらオリジンマターへと飛ぶ。
打倒オリジンマター作戦の最終段階は、トレントを盾にした特攻である。
木霊状態ではない、通常状態のトレントであれば、オリジンマターの〖ダークレイ〗の直撃を受けても一撃なら耐えることができる。
ここで更に、トレントにあるスキルを使ってもらう。
『トレント、頼む! 一気に仕掛けるぞ!』
『はいっ! 主殿! では……〖不死再生〗!』
トレントの〖樹籠の鎧〗に青い苔がびっしりと生えていく。
苔は青い輝きを帯びている。
【通常スキル〖不死再生〗】
【自身の生命力を爆発的に上昇させる。】
【使用すれば全身に青く輝く苔が生まれ、MPが全体の1%以下になるまで強制的にHPを回復させ続ける。】
【使用中は防御力が大きく上がるが、他のステータスは半減する。】
そう、これがトレントの〖樹籠の鎧〗を最後まで使わなかった理由でもある。
〖不死再生〗はトレントの回復力と防御力を引き上げ、その代わりにその他のステータスを半減させる。
そしてこのスキルは、トレントのMPが尽きるまで強制的に継続される。
この〖不死再生〗が尽きるまでの間が、俺からオリジンマターへ強気の攻勢に出られる、最大のチャンスである。
速攻でオリジンマターとの決着をつける必要があった。
今のトレントならば、時間さえ置くことができれば、二発以上の〖ダークレイ〗を受け止められるはずだ。
更に、トレントの役割は防御だけではない。
俺はオリジンマターへと突っ込みながら、〖次元爪〗を奴の身体へと放った。
一発叩き込み、続けて二発目を叩き込む。
『速攻で終わらせてやるよ!』
オリジンマターの球体に一瞬爪痕の窪みができるが、すぐに塞がっていく。
だが、ステータスを確認すれば、きっちりMPが減っていた。
目前から迫ってくる黒の光線を、俺は左肩を突き出してトレント鎧で受け止めた。
『悪いが、こいつは避けられねぇ!』
『お任せくだされ主殿! 耐えてみせますぞ!』
今の【Lv:91/130】のトレントは【HP:4408】に【防御力:2011】と、高い数値を誇る。
これは伝説級ドラゴンである今の俺、オネイロスにも匹敵する数値である。
更に各種、攻撃に対する有利な特性スキルを併せ持つ。
これは通常状態のステータスであるため、〖不死再生〗発動中のトレントは、俺の防御力など軽く超えてしまうだろう。
鎧状のトレントに〖ダークレイ〗が走った。
『うぶっ!』
木の根の欠片が舞い、砕け散った一部が地上へと落ちていく。
〖不死再生〗の青い苔が、光る粉として散らばった。
綺麗に光線の走った跡が抉られていた。
『だ、大丈夫か、トレント……?』
『連続で受けなければ、だ、大丈夫ですぞ……』
少し不安になることをトレントが零す。
だがしかし、トレントの本領発揮はここからなのだ。
『見せてやれっ! トレント!』
トレントの鎧状の身体が光り輝く。
背中の方の、分厚いトレントの本体ともいえる部分から、黒い光線が放たれた。
『お返ししますぞぉっ!』
黒い光線は宙で曲がり、綺麗にオリジンマターへと直撃した。
オリジンマターの巨体が大きく揺れた。
【特性スキル〖妖精の呪言〗】
【魔法攻撃の直撃を受けた際、木の中に住まう妖精達が同じ魔法を放って反撃する。】
【スキルの所有者の魔法力に拘わらず、受けた魔法攻撃と同じ威力で魔法は発動する。】
【このスキルによって発動された魔法は高い指向性を持ち、攻撃してきたもののみを対象とする。】
よし、上手くいった!
トレントの〖妖精の呪言〗によって【魔法力:4999】のとんでも威力の〖ダークレイ〗を、オリジンマターは自分で受けることになったのだ。
さすがにこれは効いたはずだ。
何せ、俺が全力で魔法をぶつけるよりも大きなダメージになる。
『どうしたっ! 弾幕が薄くなってるぜオリジンマター!』
俺は〖次元爪〗を二連で放つ。
これまでどんな攻撃を受けても全く動じなかったオリジンマターの身体が、攻撃を受ける度に大きく揺れるようになっていた。
攻撃がかなり響くようになってきている。
恐らく、奴の自動回復が追い付き難くなってきているのだ。
「私もっ! 魔力を全部吐き出すつもりでいきますっ!」
三人のアロも、〖ダークスフィア〗の乱れ撃ちをオリジンマターへ放っていく。
以前遭遇した際には無敵に思えたオリジンマターも、後一歩のところまで追い込めているはずだった。
『勝てる……勝てるぞ!』
『主殿っ、回復しましたぞ! そろそろ〖ダークレイ〗を受けても耐えられそうでございますぞ!』
『よしっ!』
俺は左半身をガードに出そうとしたが、オリジンマターの模様が変わったのを見て、咄嗟に右半身を前に出した。
〖次元斬〗が俺の身体を抉った。
『うぐっ!』
『あっ、主殿っ! 私が受け止めましたのに!』
『……いや、トレントは〖ダークレイ〗だけを受けてほしい。〖妖精の呪言〗の反撃ダメージは、俺の攻撃よりも主要なダメージ源になり得る。反撃できない〖次元斬〗を任せるのは勿体なさ過ぎる』
『なるほど……』
『ノルマは四発だ。そんだけ〖妖精の呪言〗での反撃ダメージが取れれば、余裕でオリジンマターを仕留めることができる』
俺は背へと僅かに顔を傾け、ニヤリと笑った。
『わかりましたぞっ! お任せくだされ!』
俺はオリジンマターの周囲を円を描くように回りながら、〖次元爪〗を放っていく。
左半身で相手の攻撃を受け止められるというのは大分心強かった。
かなり強気に攻めることができる。
そしてまた一発、オリジンマターの〖ダークレイ〗をトレントで受け止めることができた。
〖妖精の呪言〗によって放たれた〖ダークレイ〗がオリジンマターを捉えた。
オリジンマターの高度が、大きく落ちた。
明らかに奴の限界が近くなってきている。
オリジンマターの模様の動きが変化し、大きな渦へと変わった。
奴を中心に黒い光が広がってくる。
『来やがったな……』
俺の飛行が、止まった。
オリジンマターに引っ張られているのだ。
【通常スキル〖ブラックホール〗】
【自身を起点に、強大な引力を放つ重力魔法。】
前回も使ってきた、相手の行動拘束のスキルだ。
「きゃっ!」
三人のアロが、必死に俺の背に捕まる。
『〖暗闇万華鏡〗を解除して、俺から手を離せ!』
俺の叫び声に、アロが元の一人に戻り、俺から手を離した。
宙に投げ出されたアロを、俺は素早く口で捕まえた。
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