第621話

 一旦距離を置いて仕切り直した俺は、再び元の間合いに戻り、〖ダークレイ〗を避けつつ高度を戻していく。

 崩されかけたが、どうにかすぐに持ち直せた。

 このくらいのダメージは全然想定内だ。

 オリジンマター相手に、全てが上手く進むとは思っちゃいねぇ。


 だが、オリジンマターがパターン行動を破り、〖次元斬〗連打を放ってきたのは嫌な兆候だった。

 攻撃方法としてそこまで強いわけではない。

 意表は突かれたが、次にこの攻撃が来たときは、もっと浅いダメージで抑えられる自信がある。

 だが、こうした変則的な攻撃を混ぜられると、俺の方が崩れちまいかねない。


 〖ダークレイ〗の高速攻撃の連打は、一瞬気を緩めれば俺でもHPを一瞬でカラにされちまいかねない。

 唐突にああいう〖次元斬〗連発のような別パターンを混ぜられると、〖ダークレイ〗に十全に集中できなくなっちまう。

 堅実に動くこっちを強引に突き崩してきやがった。


 そろそろ作戦の第三段階に移行し、一気に攻勢に出るべきだろうか?

 ……いや、第三段階では、トレントのMPを急激に消耗させることになる。

 オリジンマターを倒しきる前にMPが足りなくなった場合、一旦逃げて仕切り直すことになる。


 まだ、仕掛けるべきじゃねぇ。

 アロ主体の攻撃を続け、もう少しオリジンマターを消耗させるべきだ。 


 再び間合いを保ち、分身アロ三人掛かりによる〖ダークスフィア〗連打を継続することにした。

 時折〖次元斬〗の単発や連打が挟まれてきたが、急降下を主軸に、急上昇を混ぜ、どうにかやり過ごしていった。

 掠らされることはあったが、どうにか決定打は取られずに済んでいた。


『よし……さすがに、ちっとは削れて来てるな。怪しい場面もあったが、順調の範囲内だ』


 俺がそう漏らしたとき、オリジンマターの模様の動きが、また断続的に変化を始めた。

 チッ!

 また〖次元斬〗連打か!


 若干MP消耗が激しいのでありがたい攻撃パターンであるといえなくはないのだが、それ以上にこっちが乱されるのがしんどい。

 それに、仮に嫌な当たり方をしたら、そのまま崩されて〖ダークレイ〗で蜂の巣にされちまいかねない。


『真上に行くぞっ!』


 急降下の方が素早く動けるので安定して避けられるのだが、方向を読まれると移動先に〖次元斬〗を置かれかねない。

 俺は斬撃と黒い光線の中を掻い潜り、上へと飛んだ。


 翼や手足の端が抉り飛ばされていく。

 このくらいの被ダメージは許容しないと仕方ないが……今回の〖次元斬〗連打は、嫌にしつこい。

 〖ダークレイ〗に比べて燃費が悪いから、無暗に連打したってオリジンマターも美味しくないはずなのだが、どうやら向こうさんも本気になってきたようだ。

 今まで通りだと、ジリジリ詰められると考えたのかもしれねぇ。


『こっから一度下がるぞ!』


 俺はアロ達に宣言してから急降下した。

 まだ〖次元斬〗連打が付き纏ってきていた。


 何発か、ガッツリ背中や腹に斬撃をもらうことになった。

 ……だが、〖次元斬〗は最悪当たっちまってもいい。

 〖ダークレイ〗直撃はダメージが深すぎるので避けたい。

 ダメージもそうだが、怪我の治療では済まず、欠損部位の回復が必要になる。

 そうなるとMP消耗が激しくなる。


 このまま距離を取り、一度体勢を取り直すべきだ。

 幸い、何故かオリジンマターは距離を詰めて畳み掛けるような行動は取ってきていない。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖ドロシー〗

種族:オリジンマター

状態:狂神

Lv :140/140(MAX)

HP :3952/5524

MP :4271/6535

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 よ、よし、三割以上削れている。

 アロの〖暗闇万華鏡〗は手数を三倍に増やす分、全力で放てば魔力を一気に減らしちまう。

 そろそろMP残量がキツくなってくる頃だ。

 だが、これだけ減らせたのであれば上々だ。

 仕切り直してから一気にアロにラストスパートを掛けてもらい、それから作戦の第三段階に移行して、一気にオリジンマターを叩いていい頃合いだ。


『あ、主殿……目前に、妙なものが』


 トレントに言われ、俺は視線を動かす。

 やや斜め前方に黒い光の靄が広がっていた。

 これは何だと俺は逡巡し、少し遅れてその正体に思い至った。


『これはっ、〖ワームホール〗!?』


 確かにオリジンマターはこのスキルを有していたが、俺はほとんど意識から外していた。

 普通に移動した方が早い〖ワームホール〗には、ほぼ使い道がないと思っていたからだ。

 だが、オリジンマターは、敢えて自分で追わず、〖ワームホール〗で移動することで、俺の意表を突いてきた。


 〖次元斬〗と〖ダークレイ〗に意識のリソースが割かれていたため、〖ワームホール〗の転移先に生じる黒い光に気が付くのが遅れてしまった。

 そうか、しぶとく燃費の悪い〖次元斬〗で追ってきたのは、〖ワームホール〗の発見を遅らせつつ、その近くに俺を誘導するためか!


 前方の黒い靄の中から、オリジンマターが姿を現す。

 登場と同時に〖ダークレイ〗を放ってきた。

 背後からは〖ワームホール〗の転移前に放った〖ダークレイ〗が接近してきている。

 最悪の挟み撃ちだった。


 俺は牙を食いしばる。

 使い道のないスキルだと侮っていた。

 警戒していれば避けられた事態だ。

 まさか〖ワームホール〗に刺されるようなことになるとは思わなかった。


 全力で急降下しつつ不規則な動きを加え、必死に〖ダークレイ〗を避けようとした。

 だが、この回避は祈りのようなものだった。

 前後から高速で迫りくる〖ダークレイ〗を完全に把握するのは不可能だ。


『主殿! 事後承諾で申し訳ございませぬが、計画を進めさせていただきますぞっ!』


 トレントが俺の背から飛ぶ。

 小さな身体が膨れ上がり、全身から木の根のようなものが大量に広がっていき、俺の左半身を覆い尽くしていく。

 これはトレントのスキルである〖樹籠の鎧〗だ。


『いや、ナイス判断だ! トレントッ! 一番いいタイミングだった!』


 俺は叫んだ。

 オリジンマター打倒計画の第三段階、つまりは最終段階は、トレントを鎧に纏っての、こちらからの猛攻撃である。

 このためにトレントには魔力を温存してもらっていた。

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