第619話

 俺は〖ディメンション〗で持ち運んでいたケサランパサラン肉をアロ、トレントと食べ、それから空へと目を向けた。

 この付近は、以前俺達がケサランパサランと……そして、オリジンマターと遭遇したところの近辺であるはずだった。

 この近くを飛んでいれば、またオリジンマターが現れるはずだった。


『……それじゃあ、行くぞ』


 俺はアロとトレントを背に乗せ、彼女達へと最後の確認を行う。


 アポピスは、はっきり言って、俺から見れば格下の相手であった。

 これまでのアロとトレントのレベル上げは、俺が彼女達に被害が及ばないよう、保険を掛けながら動くことができていた。

 ヘカトンケイルは恐ろしく強い相手だが、その気になれば好きな時にこちらが逃げることができるため、直接奴との戦闘で命を落とす危険はなかった。


 だが、オリジンマターはそうはいかない。

 奴は高いHPとMPに加えて、過去最高レベルの魔法力と、広範囲高火力のとんでもスキルを有している。

 連射可能な高火力スキルの〖ダークレイ〗、攻撃の予兆を読むしかない〖次元斬〗、そしてほぼ回避不能の〖ビッグバン〗を使ってくる。


 俺一人では太刀打ちできない。

 そのため、アロとトレントにも、危険を冒して戦ってもらう必要が出てくる。

 オリジンマターの動きに想定通り十全に対処できても、きっとそれだけではまだ足りない。

 今俺達の出せる全力を出し切って、ようやく敵うかどうかという相手だ。


 恐らくこのンガイの森で、最も危険な戦いになる。

 オリジンマターを倒して、当てが当たって〖冥凍獄〗に囚われている狂神化していない過去の神聖スキル持ちを仲間に引き込むことができれば、ヘカトンケイルを倒しきることだってできるはずなのだ。

 この戦いが最大の正念場だ。


 空を真っすぐに飛ぶ。

 ンガイの森を覆う、黒い巨大な木々の、遥か上へと飛んだ。


 しばらく滞空していると、遠くに黒い球体が現れ、こちらへと向かって飛来してきた。

 俺の全長程度の直径を持つその巨大な球体は、体表に細かく光の線のようなものが渦を巻いており、それらは流動的に変化している。


 来た、オリジンマターだ。

 前回のように先にケサランパサランが出てくるんじゃねぇかと思ったが、今回は同行していないようだった。 


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖ドロシー〗

種族:オリジンマター

状態:狂神

Lv :140/140(MAX)

HP :5524/5524

MP :6535/6535

攻撃力:1852

防御力:3245

魔法力:4999

素早さ:1721

ランク:L(伝説級)


神聖スキル:

〖畜生道|(レプリカ):Lv--〗〖餓鬼道|(レプリカ):Lv--〗


特性スキル:

〖グリシャ言語:Lv5〗〖気配感知:LvMAX〗〖MP自動回復:LvMAX〗

〖飛行:LvMAX〗〖冥凍獄:Lv--〗〖狂神:Lv--〗


耐性スキル:

〖物理耐性:LvMAX〗〖魔法耐性:LvMAX〗〖状態異常無効:Lv--〗

〖火属性無効:Lv--〗〖水属性無効:Lv--〗〖土属性無効:Lv--〗


通常スキル:

〖ハイレスト:LvMAX〗〖人化の術:LvMAX〗〖念話:Lv9〗

〖ミラーカウンター:LvMAX〗〖ミラージュ:LvMAX〗〖自己再生:LvMAX〗

〖次元斬:LvMAX〗〖ブラックホール:LvMAX〗〖ダークレイ:LvMAX〗

〖ワームホール:LvMAX〗〖ビッグバン:LvMAX〗


称号スキル:

〖原初の球体:Lv--〗〖最終進化者:Lv--〗

〖元魔獣王:Lv--〗〖元聖女:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ……やっぱり、とんでもねぇステータスだ。

 俺は目を瞑って心を落ち着け、息を整えてからオリジンマターを睨む。


『……お前も、解放してやるからな』


 オリジンマターの体表を流れる、線の動きが変化した。

 奴が、戦闘態勢に入った。


『アロ、トレント! 一瞬だって気を抜くんじゃねえぞ!』


 俺はそう叫んだ。


 オリジンマターの魔法は、アロなら一撃、トレントでもフルサイズ状態で、ようやく一発ギリギリ持ち堪えられる、といったところだ。

 そしてオリジンマターのとっておき〖ビッグバン〗は、俺でさえノーガードで直撃をもらえば、一撃でやられかねないスキルである。


 〖ビッグバン〗の対策はあれこれ考えたが、『どう足掻いても避けられないので防御を固める』以外にないと、そう答えが出ていた。

 予備動作は大きいので前回同様に守りを固め、全力で距離を取り、なるべく衝撃は受け流す。

 そしてくらった後は、素早く回復して態勢を立て直す。これ以外にない。


 前回は消耗の激しい〖ビッグバン〗を使い渋っているようだったので連打はしてこないと思いたいが、相手の〖ビッグバン〗の使い方次第では簡単に詰まされかねない。

 俺の見解としては、正直こんな爆弾みたいな相手に挑むべきじゃねぇと、そう答えが出ていた。

 だが、オリジンマターを乗り越える以外に、ヘカトンケイル打倒の希望が見えないのだ。


 オリジンマターより、いくつもの黒い光線が、俺達目掛けて放たれる。


 オリジンマターの〖ダークレイ〗は本当に危険だ。

 威力、射程、連射性能に加えて、MPがさほど減らないのだ。

 連射で相手を沈めることが前提になっているスキルだ。

 おまけに〖次元斬〗を挟んでこちらの勘を狂わせてくる。


 オリジンマターの相手をするには、大量に飛ばされてくる〖ダークレイ〗に対し、完璧に対応できることが前提となる。

 ただオリジンマターの連射する〖ダークレイ〗に当たっているようでは、今の俺程度のステータスでは、オリジンマターには敵うわけがない。


 こちらから攻撃しつつ、オリジンマターの攻撃に対応するのは困難である。

 だが、〖ダークレイ〗の嵐の中、オリジンマターのMP切れを狙って逃げ回ることもまた現実的ではないため、どこかのタイミングでは攻撃にでなければならない。

 オリジンマターを倒すには、この二つの中間、俺にとってベストな位置を見極めて立ち回る必要がある。


 俺はアロ、トレントと話し合い、一応はオリジンマター対策の動き方を編み出している。

 開幕は回避と接近に徹して、こちらからは一切攻撃しない。

 下手に攻撃に出れば、〖ダークレイ〗を捌ききれなくなるからだ。


 俺はオリジンマターの周囲を回るように飛び、ゆっくりと距離を詰めていく。

 高度を常に変化させ、〖ダークレイ〗に絶対に当たらないように立ち回る。


 近づくにつれて、オリジンマターの不気味な輝きに呑み込まれそうになる。

 もし本当にオリジンマターの〖冥凍獄〗に囚われちまったら、その時点で一発でお終いだ。

 少なくとも数百年、下手したら数千年では解放されないと思った方がいい。


『トレントッ! 頼む!』


『はっ、はい、主殿!』


 緑に輝く種が発射され、オリジンマターへと呑み込まれていく。


 トレントのスキル〖死神の種〗である。

 これで相手のMPを一応削ることができる。

 〖死神の種〗は近づけば近づくほど効果があるが、オリジンマター相手にはあまり距離は詰められない。

 加えて、魔法力の差も大きい。


 やらないよりマシ程度だろうが、それでも効果があるのであれば、行わない理由はない。

 オリジンマターはHPとMP、回復能力が高いため、どうしても戦いが長引くことが予想される。

 効果が地味でも、長引けばそれだけ開幕で〖死神の種〗を当てられたアドバンテージが強くなっていく。


 続けて二発、三発と、周囲を回りながら、トレントに放ってもらった。

 トレントの維持できる〖死神の種〗の最大個数である。

 オリジンマターが動かないこともあり、全弾命中させることに成功した。


『……だが、効果あるのか? これ、〖冥凍獄〗に吸われてないか?』


『い、一応、手応えは感じますぞ』


 トレントが自信なさげに応える。


 何にせよ、打倒オリジンマターの第一段階は成功した。

 俺はまたオリジンマターの周囲を回るように飛んで距離を取りつつ、〖ダークレイ〗を寸前のところで回避していく。

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