第618話

 ンガイの森の地に寝そべり、俺達はしっかりと休息を取ることにした。


 アロとトレントのレベルは上げた。

 ここでオリジンマターを叩きに行く。


 少し焦りすぎかもしれねぇが、アロもトレントも、それに俺も、レベルアップの必要経験値量が跳ね上がってきているところだった。

 これ以上は時間を掛けてもあまり強くなれねぇ。

 それに急いでレベル上げをしていれば、ここの魔物は普通に強いので、思わぬ地雷を踏んでアロやトレントを失うようなことだって考えられる。


 全部のリスクを回避して動けるような状況じゃねぇ。

 そのことは俺だってわかっている。

 だが、要するに、リスクとリターン、時間コストが見合っていないのだ。

 俺は現時点でオリジンマターに挑むべきだと判断した。


 アロとトレントのお陰で、充分勝算を見出せるところまで来ているはずだった。

 それにオリジンマターは初見殺しの凶悪スキルが多い。

 俺は一度、奴のステータスを見ている。

 スキルもだいたい直接目で確認したため、範囲や攻撃方法もわかっている。

 今回はそれをアロとトレントと共有し、戦略を立てて動くことができるのも前回と比べて進歩した点であった。


 だが、時間が惜しいとはいえ、連戦で疲労しきった状態で敵う相手じゃねぇ。

 戦いの前に、体力をしっかりと全回復させておく必要があった。


 俺には〖気配感知〗があるし、トレントはともかくアロは鋭いところがある。

 全員寝ていても魔物が近づけは察知できるだろうが、ここの魔物達もまた曲者揃いである。

 何せ、歴代神聖スキル持ち達とその配下だ。

 一応、一人は見張りが必要だろう。


 ずっと空の色は変わらないので、交代の際に必ず俺を起こしてもらい、適当に俺がHP、MPを確認しつつ、時間を分けて見張りを行うことにした。


 オネイロスがタフなお陰か、別にじっとしているだけでも体力や疲労は回復できるので最悪見張りはいらないのだが、今は時間が惜しい。

 制限時間が後どれだけあるのかもわからないのだ。

 休息は効率的に行うべきだった。


 今までだとアロは眠ることができなかったのだが、ワルプルギスはなんと休眠を行うことができるようだった。

 やはり、アンデッドとはまた違う、別の形の魔物なのかもしれない。


「私は別に眠らなくとも何ともありません。私がずっと見張っていても……」


 アロはそう提案したが、俺は首を振った。


『そんなアロにだけ負担を強いるわけにはいかねぇよ。それに、アロもこの異様な地での連戦に、かなり疲れてるだろ? 今まで眠れなかったんだし、ゆっくり気を休めてくれ。むしろ優先して眠ってほしいくらいだ』


「でも……」


『それに……オリジンマター戦では、アロとトレントにも活躍してもらわなきゃならねぇ。計画通り完璧に動けても、それでもなお足りないはずだ。何せ、相手は伝説級最大レベル……事前の想定だけで事が済むとは思えねぇ。全員が全力で対処して、常に頭を捻って動かねぇと、誰かを欠くことになっちまうかもしれねぇ。しっかりと休んでくれ。アロのためってだけじゃねぇ。俺達が、オリジンマターに……そして、ここを出て全員揃って、元の世界に帰るために、だ』


『そうですぞ、アロ殿! 睡眠不足で頭が冴えていなかったから、肝心なところで外した、なんてことになったら大変ですからな!』


「……わかりました」


 トレントが俺の考えに賛同してくれたこともあって、アロが頷いてくれた。


『む? どうしましたか、主殿? 浮かない顔をしておりますが』


 トレントが俺に尋ねる。

 俺は慌てて表情を繕うが、アロとトレントは不安げに俺の顔を覗いていた。

 ……うぐ、こうなると、黙っていた方が不安を招いちまいそうだな。


『い、いや、大したことじゃねぇんだけど、トレントがそういうこと言うと、なんかフラグみたいに聞こえちまってな』


『あっ、主殿! 私を何だと思っておられるのですか!』


『悪い……いや、本当、頭を過っただけだから。だけど、まぁ、しっかり眠ってくれよ』


『経緯はどうあれ、主殿のご忠告、頭には入れさせていただきますが……』


 見張りの順番は、俺、アロ、トレントとなった。

 回復度合いの確認のため、アロとトレントの見張りの交代の際、俺も一応起きることにした。


 何事もなく俺の見張りが終わり、アロに交代して眠りについた。

 そして次に、アロからトレントに見張りが変わるところを見届けた。


 それからどれだけ時間が経過したのかはわからないが、自然と目が覚めた。

 俺も結構精神的な疲労が溜まっていたようで、思いの外深い眠りになっていたようだった。

 やはり見張りを作って正解だった。


 まず俺は、俺の顔に凭れ掛かって眠るアロのステータスを確認した。

 充分回復できているようだった。


 次に俺は、木霊状態で地面に寝転がるトレントのステータスを確認した。

 トレントも回復できている。

 ……よし、オリジンマターの許へ向かうべきか。


『いやちょっと待て』


 なんで三体全員寝てるんだ!?

 トレント、見張り! トレントッ! 最後の見張り番、お前だったよな!


 トレントがむくりと起き上がり、俺へと顔を上げる。


『おはようございますぞ、主殿! さて、オリジンマターに再戦しに行く時が来ましたな! このトレント、しっかり休ませていただきました! このワールドトレントの力を以て、奮闘させていただきますぞ!』


 トレントがぐっと翼でガッツポーズを作り、それから首を傾げた。


『あれ……私が今寝ていたのは、おかしいのでは……?』


 ……どうやら、俺がトレントに念押しした『しっかり眠ってくれよ』を意識しすぎたのか、それが悪い方に働いちまったらしい。

 俺は前脚で顔を押さえた。

 ま、まぁ、襲撃はなかったみたいだし、結果オーライだからいいんだけどな、うん。


『もももっ! 申し訳ございませんぞ、主殿! この失態は、この失態は、戦いで挽回させていただきますので!』


「トレントさん……」


 寝起きのアロが目を擦りながら、トレントをジト目で見ていた。

 トレントがぺこぺことアロへ頭を下げる。


 ……ま、まぁ、俺も思いの外に深い眠りになっちまっていた。

 トレントもそんだけ疲れていたのだろう。

 それが解消できたのは……うん、まぁ、よかったと考えるべきだ。

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