第527話
俺は〖気配感知〗を巡らせ、アルアネとやらの気配を捜す。
だが、上手く掴むことはできなかった。
『この辺りなのは間違いないはずなのですが……そこからどのような動きをしたのか……』
背の方から、トレントの〖念話〗が聞こえる。
近くにまだアトラナートがいてくれればありがたいのだが……大きく移動していれば、この辺りをしつこく捜していても手遅れになりかねない。
いや、もしもの話なんて考えていても仕方がねえ。
他に手掛かりがない以上、この付近を見て回るしかない。
……アロ達の話を聞くに、アルアネとやらは高ランクの魔物であるアロ、アトラナート、トレントを前に、一歩も退かない戦い振りだったという。
そんな奴、Aランク高レベルクラスだとしか考えられねえ。
しかし、だとすれば、アトラナートを倒しきるのは難しくなかったはずだ。
アトラナートが機転を利かせて逃げたのか……?
何が起きているのか、全く状況が掴めないのが歯痒い……。
少し、飛んでみるか?
霧のせいで視界が悪いが……そちらの方がよく周囲を見れるかもしれねえ。
いや、リリクシーラに見つかるリスクが上がる。
それで寄って来て本陣を討てる……なんて、甘い見通しは立てない方がいい。
リリクシーラは勝算もなく姿を晒したりはしない。
最初の衝突も、計算尽くしの動きで効率的に俺のMPを削られた上に、まんまと逃げられることになった。
そもそも、リリクシーラを倒せようが、この状況で奴に気を取られた時点で、アトラナートの身が危なくなる。
焦燥の中……遠くに、薄気味悪い気配が漂っていることに気が付いた。
俺の〖気配感知〗が働いた。
だが……だが、これは本当に、そのアルアネとやらなのだろうか。
確かに人間程度の大きさらしいことはわかるが、どうにも異様なのだ。
これまで人間の強者に対して抱いた、勇者イルシアやヴォルク、リリクシーラ……そのどれとも全く異なる気配だった。
『なあ、アロ……そのアルアネってのは、本当に人間なのか? 魔物じゃ、ねえんだよな?』
「え、えっと……」
アロが返答に詰まった。
そのとき、不審な気配が大きく動いた。
とにかく逃げられるわけにはいかねぇ。
俺は速度を上げ、その気配を追った。
俺は地面を蹴って飛翔し、気配へと目を向ける。
黒い巨大な四つ目の狼……フェンリルに跨る、緑髪の童女の姿があった。
頭に薔薇の飾りを確認する。特徴が、アルアネと一致した。
戦いとは無縁の容姿だったが……自身の五倍以上の体躯を持つフェンリルを飼い慣らしている事実が彼女のレベルの高さを表しており、醸し出す空気は完全に魔物のものだった。
フェンリルは腹部がざっくりと斬られており、出血しながら駆けている。
あれは……アルアネにやられたのだろうか。
四つの目も全て別の方位に向けられており、様子がおかしい。
アルアネはちらりと、横目で俺の姿を確認した。
目が合った。
悪戯を見つかったかのような気軽さで、童女はぺろりと赤い小さな舌を伸ばし、口が動いた。
何と言ったのかはさすがに聞こえなかったが……『見つかっちゃった』、だろうか。
俺の姿を先に捉えて逃げに専念していた割には、随分と余裕がある様に思える。
俺は周囲に目を走らせる。
アトラナートは、見つからねえ……。
逃げ切ったのか?
先にアトラナートを捜すべきか?
いや、ここに来て手掛かりであるアルアネを逃がすわけにはいかねぇ。
奴を叩き潰して、アトラナートの情報を得る。
そのために、まずはステータスの確認だ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖アルアネ〗
種族:エルフィングル・ヒューマ
状態:飢餓(大)、バーサーク(小)
Lv :90/90(MAX)
HP :666/666
MP :751/751
攻撃力:991
防御力:375
魔法力:571
素早さ:821
特性スキル:
〖吸血鬼の血:Lv--〗〖餓鬼の衝動:Lv--〗〖読心の魔眼:Lv6〗
〖グリシャ言語:Lv3〗〖気配感知:Lv6〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv4〗〖魔法耐性:Lv5〗〖毒耐性:Lv6〗
〖飢餓耐性:LvMAX〗〖孤独耐性:LvMAX〗〖狂乱耐性:Lv9〗
〖即死耐性:Lv4〗〖呪い耐性:Lv4〗〖混乱耐性:Lv3〗
通常スキル:
〖ブラッドドール:Lv7〗〖吸血:Lv7〗〖毒牙:Lv5〗
〖毒血狂爪:Lv5〗〖ダークスフィア:Lv3〗
称号スキル:
〖突然変異:Lv--〗〖隔世遺伝:Lv--〗〖共喰い:Lv9〗
〖大監獄の悪魔:Lv--〗〖災害:Lv9〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
……アロ達じゃ勝てないわけだ。
これまで見て来た、ぶっちぎりで普通の人間最強格だったヴォルクを大きく引き離し、聖女リリクシーラにさえ並ぶステータスだ。
いや、身体面に限ればリリクシーラを大きく超えている。
こんな奴が、有り得るのか。
こいつは……人間だと思わない方がいい。
並ぶスキルを眺めていてぞっとした。
〖共喰い〗は……魔物にしか見たことのない称号スキルだった。
かつて見たときも魔物界の陰惨さに驚かされたが、こいつはその中でも最上位のスキルレベルだった。
〖共喰い〗、〖大監獄の悪魔〗、〖災害〗……こいつは、明白に人類の敵だった。
見慣れないスキルを確認していく。
【特性スキル〖餓鬼の衝動〗】
【〖飢餓〗に陥った際、〖バーサーク〗を併発して身体ステータスが向上する。】
【その場合、〖飢餓〗を癒すことを優先して行動するようになる。】
……妙な状態異常は、これが原因か。
〖バーサーク〗は、思考に霞が掛かって動きが単調になる代わりに、ステータス以上の動きを可能とさせる状態異常だ。
敢えてステータス底上げのために状態異常を維持しているのかもしれねぇ。
あまり〖バーサーク〗の明確な上昇値はわからねぇが、俺の経験上、見えている数値より二割増し程度は覚悟しておいた方がよさそうだ。
【通常スキル〖ブラッドドール〗】
【自身の血液を自在に操る。】
【生物の体内に血を入れれば相手を人形のように操ることができるが、相手のステータスによっては抵抗される。】
【対象が死体であれば、相手のステータスに関係なく操ることができる。】
……これがアロの言っていた、死体を操るスキルか。
恐らく、フェンリルもアルアネに操られているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます