第494話
俺はシュブ・ニグラスへと走る。
奴は起き上がりながら、俺を睨んでいる。
「オオ、オオオオ……」
奴の前に土の壁がせり上がる。
〖クレイウォール〗のスキルだ。
……やはり、思考能力が高い。
絶対防御の盾を持ちながらも、慢心していない。
俺の〖次元爪〗を脅威と見て対策を打ってきた。
連打で動きを止められつつスケープゴートの数を削られるのが嫌なのだろう。
エルディアモードで殴り飛ばされても急いで仔山羊の元へと戻らないところを見るに、恐らく〖身代わり〗スキルの射程内に収まっているのだろう。
……ぶっ飛ばしただけで対処できるなら、一番楽だったんだけどな。
俺はシュブ・ニグラスの元へ向かいながら、〖竜の鏡〗で二足歩行状態へと移行しつつ、理想の武器を生み出す〖アイディアルウェポン〗を使う。
狙いは剣による、〖闇払う一閃〗による〖身代わり〗の回避である。
【通常スキル〖闇払う一閃〗】
【剣に聖なる光を込め、敵を斬る。】
【この一閃の前では、あらゆるまやかしは意味をなさない。】
【耐性スキル・特性スキル・通常スキル・特殊状態によるダメージ軽減・無効を無視した大ダメージを与える。】
……このスキルを使うことができれば、〖身代わり〗を無視してシュブ・ニグラスにもダメージを通すことができるかもしれない。
ただ、俺はただでさえ剣を使った戦闘には慣れていない。
素早さではこっちが上回っているが、シュブ・ニグラスはそこそこ速く、思考能力も高く、トリッキーな動きを取る。
スキルは仔山羊系統を除けばそう多くないので、気を付けるべきスキルは〖病魔の息〗による目晦まし、間合いが自在の〖触手鞭〗、そして身体のどこからでも繰り出せる上に引き剥がすのに手間が掛かる〖噛みつき〗くらいなんだがな。
どこかのタイミングで放ってくる可能性が高いが、〖クレイスフィア〗はそれほど怖くない。
〖アイディアルウェポン〗の光が、手許で質量を持ち始める。
最初に使ったときから随分と魔法力も上がったし、〖アイディアルウェポン〗自体のスキルレベルも大きく上がっている。
ひょっとしたら、前より強力な武器が出せるかもしれない。
MPは多めに込めておこう。
この戦いで尽きることはないだろうし、少しでも上のグレードのものが欲しい。
……求めるものは、そうだな。
そう大きくなくていいが、扱いやすいものがいいかもしれない。
光が、両手に移った。
……なんだ? なるべく扱いやすいのがいいんだが……そんなに巨大なのか?
いや、違う。光が別れ、美しい二つの長い剣へと変わった。
右の剣は刃が青く輝いており、赤い魔術式の様なものが刻まれている。
左の剣は刃が深紅に輝いており、青い魔術式の様なものが刻まれている。
双剣……?
【〖ウロボロスブレード〗:価値A】
【〖攻撃力:+100〗】
【世界の終わりまで朽ちないとされる巨大な二振りの刃。】
【永遠と禁忌の象徴である双頭竜の骨を用いて作られた。】
【青の刃は魔物を斬りつけたときにその生命力の一部を奪い、剣の所有者へと与える。】
【赤の刃は振るう度に剣の所有者の生命力を喰らうが、その力を糧に攻撃力を上昇させる。】
ま、また物騒なものを……。
これ、赤い方振っても大丈夫だよな?
……しかし、ウロボロスブレード、か。
まるでこれまでの俺の進化をなぞっているようだ。
俺はシュブ・ニグラスのすぐ前で、両の剣に魔力を込めた。
〖闇払う一閃〗は、まず聖なる光を剣に齎すところから始まるようだった。
イマイチよくわからないが、これまでの例からいって、思う様にやっていればスキル発動に行きつくはずだ。
刃に刻まれている文字列が光を帯び、やがては刃身自体が眩いばかりの輝きに覆われる。
……だが、剣自体が急激に重くなるような感覚を感じた。
俺の身体が意図せず大きく前傾し、後ろに引いて持ち直した。
こ、これ、あいつに当たるのか?
シュブ・ニグラスは俺の様子を隙と捕えたのか、〖病魔の息〗で自身の周囲を隠した後に、瘴気の層を貫いて〖触手鞭〗を放ってきた。
初動を隠すことで、俺に軌道を読ませ辛くしたのだ。
俺は思い切り左右の剣を逆側へと振り切った。
シュブ・ニグラスの触手が切断され、肉片が辺りに散った。
あ、当たった!
考え通りだった。
〖闇払う一閃〗に対して黒キ仔羊の〖身代わり〗スキルは発動できないのだ。
シュブ・ニグラスが瘴気の層を脱し、後ろへと跳んだ。
予想外の事態に驚いているのだろう。
俺は地面を蹴り、シュブ・ニグラスに一気に接近しつつ、赤い剣に力を込め直す。
シュブ・ニグラスが触手で俺を攻撃してくる。
〖闇払う一閃〗はどうしても動作が遅くなるので、この距離で放たれた奴の触手攻撃には対応できない。
だが、今回は青い剣には魔力を込めないでおいたのだ。
こっちならば、奴の速度を上回ることができる。
俺は青の剣の刃で触手を逸らした。
どうせ破壊できないので、確実にガードする。
そして俺は、本命の〖闇払う一閃〗の輝きを帯びた、赤い剣を突き出した。
シュブ・ニグラスの肉塊に剣の先端が刺さる。
が、押し込む前にシュブ・ニグラスは背後へと跳んで逃げてしまった。
奴の肉片が宙に舞う。
間合いを開いた状態で、俺は異形の肉塊と睨み合う。
……掠らせることはどうにかできるが、本体に当てることができない。
だが、無意味ではない。
これで状況が変わった。
シュブ・ニグラスは、一方的に攻撃できるアドバンテージを失った。
俺が〖闇払う一閃〗を準備している間は、これまでの様に守りを捨ててのゴリ押しはできない。
次にしぶとく噛みつかれたとしても、わざわざ〖竜の鏡〗で逃れなくとも〖闇払う一閃〗で両断してやれる。
後は時間が経つにつれて、奴の眷属である黒キ仔山羊共は、アロ達が数を減らしてくれる。
〖噛みつき〗ゴリ押しができなくなった以上、シュブ・ニグラスが俺のHPを減らし切ることは一気に難しくなったはずだ。
別に俺は膠着状態でもいい。
仔山羊共が消えて〖身代わり〗がなくなった時点で、猛攻撃を仕掛けて一気に終わらせてやればいい。
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