第356話
翌日、俺は巣穴で目を覚ました。
俺の頭の上に座っていたアロが床へと飛び降りる。
俺が巣穴から這い出たとき、巣穴の上にある枝に蜘蛛の巣を張っているナイトメアと目が合った。
ナイトメアは巣から枝へ、枝から幹へと移動して降りて来る。
俺は巨大樹から地上の方を見下ろした。
幹の周囲を、様々な魔物が飛び交っているのが目に見える。
大鷲の頭に獅子の身体……あれは、グリフォンだろうか。
なかなか強そうだ。幸い、こちらに気付いても向かって来る様子はない。
俺はグリフォンよりも奥……巨大樹の根っこの方へと焦点を合わせる。
……根元にある地下遺跡には、俺が元いた世界の文字が刻まれていた。
俺の元居た世界に関しての何らかの手掛かりがあるはずなのだ。
記憶はねぇし、別に帰りてぇとは思わねぇ。
全然記憶にない奴らよりも、今はアロ達の方がずっと大切だ。
どうせ両方は取れないのならば、余計な悩みを背負うくらいなら、記憶だって返してくれなくてもいいというのが本音のところだ。
だが、それでも、この世界における自分の立ち位置が気にならないわけでは決してない。
目の前にぶら下げられたら、追いかけたいと思ってしまうのは当然のことだろう。
ふと横へ目を向けると、アロが俺に並んで地上を見下ろしていた。
しばらくしてから、巣穴の奥から、手を模したような形状の枝を口許に当てて欠伸を押し殺す、トレントさんが遅れてやってきた。
……なんか頼りねぇなぁ。
アロ達のステータスは、怪鳥セイレーンとの死闘を経て大幅に上がっていた。
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名前:アロ
種族:レヴァナ・リッチ
状態:呪い
Lv :14/85
HP :324/324
MP :345/345
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アロはなんと、Lv1からLv14まで上がっている。
快挙の13アップである。
高魔力と的確な判断のおかげで、Lv1とは思えぬ大活躍だったからな。
この調子だと、一瞬でカンストしちまうぞ。
もうちょいLvが上がれば、大ムカデやマザーと並ぶステータスになるはずだ。
今までは完全に俺が補助している形だったが、今やアロも俺のワンランク下まで追いついてきている。
この世界の高火力型魔法タイプは、MPの続く限りであれば格上相手にも痛手を負わせられることは、今までのアロの功績が証明してきている。
Lvがこのまま順調に上がっていけば、俺より高火力で応用の利く技を出せるようになるだろう。
間違いなく、アロは遺跡のアダム達の突破のキーとなる。
初めてアロを見たときは、まさかここまで強くなるとは思ってもみなかった。
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種族:ナイトメア
状態:通常
Lv :18/70
HP :190/190
MP :183/183
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ナイトメアは4レベルアップである。
二体とも頑張っていたのにアロとのレベル上昇値が大幅に違うのは、Lv一桁台の間が一番上がりやすいからだろう。
貢献度もアロの方が二枚は上であったと思うが。
まぁ、一度の戦闘で四つも上がるなら上々である。
俺なんて、〖歩く卵〗で経験値増えて、〖竜王の息子〗でレベルアップに必要な経験値量減らしてんのに、直接戦ってても全然上がんねぇからな。
そして、トレントさんだが……。
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種族:マジカルツリー
状態:呪い
Lv :5/60
HP :178/178
MP :126/126
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……なぜか4っつも上がっている。
お、おかしい。絶対におかしい。いくら一桁台が一気に駆け抜けられるラインだとしても、トレントさんのレベルが上がっているなんて、そんな……い、いや、悪いことは何もないんだが……。
「ガァッ」
『アイツ、混乱シテ、オレラニ魔法撃ッテタダケダヨナ?』
相方がトレントを睨みながら辛辣な言葉を俺へと投げかけて来る。
ト、トレントさんだってなぁ! 頑張ってるんだぞ!
それに、これから恐らく世界最上級ダンジョンに挑もうってのに、レベル1の盾役なんて、絶対に連れていけない。
多少なりとも上がってくれたのはありがたい。
『……アレデレベル上ガンナラ、近クニイタダケノワームノガレベル上ガンゾ。何モシテナクテモ、少ナクトモ足ハ引ッ張ッテネェシ……』
おっ、お前、なんてことを!?
お前にトレントさんの何がわかるんだ!
俺と相方のやり取りを見て、トレントさんが真顔で俺達の方を見つめ返してくる。
わ、悪い……。そ、その……なんだ。活躍期待してるぞ! でもまだレベル低いから、しばらくは後方からの攻撃に務めてくれよ!
ただ、神の声曰く、本来の〖マジカルツリー〗は妨害魔法使いつつ自身の防御を高め遅延を繰り返す冒険者泣かせの魔物だそうだが、残念ながらその戦法はアダムには通用しない。
奴は腐ってもAランクモンスター。
あの無駄に高火力な攻撃を一撃でも受け止めるには、【HP:700】は超えていないと話にならない。
補助魔法があるとはいえ、C+のトレントさんには荷が重い相手である。
多分、Lv最大でもワンパンで蹴り殺される。
Lv最大の状態で攻撃力を下げる〖アンチパワー〗と自身の防御を引き上げる〖フィジカルバリア〗が決まれば瀕死で留まるかもしれないが、その範囲である。
前面で敵の攻撃を受けるのはまず期待できない。
ナイトメアの様なトリッキーな行動もできない。
残念ながら、トレントさんにはせいぜい魔法スキルを活かした超劣化アロとしての役割しか期待できないのが現状である。
因みに俺のHPは2586である。防御力もトレントさんとは桁が違うので、仮にアダムの連撃を受けても距離を置いて回復すればどうとでもなる。
完全にトレントさんのお株を奪う形になっている。
俺も耐久型ドラゴンだからなぁ……。
……トレントさん、どうする?
その……ハブにするとかじゃないんだが、無理に付いてこなくてもいいんだぞっていうか……ここから先は多分、危険がいっぱいだし……。
『…………』
トレントさんは、無言でずいと前に出て、枝の腕を組み、地上を見下ろした。
風格だけは強キャラである。
お、俺と戦ってくれるのはすげぇ嬉しいんだけど、その……無理は絶対にしないでくれよ?
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