第276話
「〖ゲール〗!」
アロの両手から放たれた魔力が風を巻き起こし、竜巻となる。
草むらに飛び込んで隠れたつもりでいたアビスが竜巻に弾かれ、姿を露わにする。
アロはすぐに魔力を込め直し、二発目の攻撃を放つ。
「〖ゲール〗!」
アビスが体勢を持ち直すより先に、新しい竜巻がアビスへと襲いかかる。
アロはアビスの様子を確認しながら俺の尾を抱き、魔力の補給に入る。
アロも魔力補給タイミングと、魔法の効率的な発動間隔を掴み始めていた。
MPを無視して魔法を連発できるお蔭で、〖ゲール〗と〖クレイ〗のスキルLvもじゃんじゃん上がっているようだった。
二方向から襲いかかってくるアビスを満遍なく牽制し、隙があれば攻撃、魔力補給へと移る。
「ヴェエッ!」
二体のアビスの内、片割れが体液を噴出しながら地面に倒れ込む。
ぴくぴくと震えていたが、数秒と経たぬ間に死骸となる。
【経験値を36得ました。】
【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を36得ました。】
まずは、一体撃破……。
アロは素早く魔力の補給に移る。
アビスの姿が見えた瞬間、MPが完全に回復するのを待たずに切り上げ、腕を向ける。
「〖ゲール〗! 〖クレイ〗!」
竜巻と土の壁で挟み込み、アビスの逃げ場を奪う。
アビスは竜巻に弾かれて土の壁に激突して跳ね返り、再度竜巻に弾かれる。
アロにはアビスの逃げ場を奪う以上のつもりはなかっただろうが、綺麗にコンボが決まった。
【経験値を43得ました。】
【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を43得ました。】
……地味に結構入ってきてるよな。
確かにアロ単体じゃアビスの猛攻を防げないし、まともにダメージを通すのも難しいし、MPも全然足りねぇけど……ちょっと厳しくねぇーかな、これ。
さて、これでアロのLvはいくら上がったか……。
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名前:アロ
種族:レヴァナ・メイジ
状態:呪い
Lv :20/30
HP :84/90
MP :31/102
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……よし、Lv17からLv20だ。
三分の二まで来た……とはいえ、こっからどんどん上がり難くなっていくはずだ。
ただし、それに比例してアロの魔法力もぐんぐん上がっている。
Lvが上がり難くなった代わりに、アビスへダメージが通りやすくなってきている。
早速、アビスの巣をちょっと覗きに行ってみるとするか。
英雄ガガザの例からすれば、適当なアビスを生け捕りにすればアビスの巣を見つけること事態は難しくはないはずだ。
「ガァ……」
相方が力なく吠える。
……やっぱし、相方的には遠慮してぇか?
『トリアエズ、肉喰ワネ?』
相方が、ぐいぐいとグラファントへと首を伸ばす。
……ああ、そうだな。
時間おいてから戻って来たら、今度こそアビスの卵とか産みつけられちまってそうだし。
……今はねぇよな?
『嫌ナコト言ウンジャネーヨ……』
わ、悪かった。
元を辿れば、俺が後回しにしたせいだしな。
俺が相方と会話をしている間、子蜘蛛達がアビスの死骸に群がっていた。
食べ終わるとさぁっと掃けていき、後には糸に塗れたアビスの皮と脚が、ぺらぺらになって残っていた。
脚は喰わねぇのかと思ったが、子蜘蛛の一体が口に咥えて去って行くのが見えた。
……なんつーか、おやつ感覚なんだろうか。
一応グラファントの傷口に、卵のようなものが埋め込まれていないかどうかを確認する。
それが終わった後、グラファントの解体を始めることにした。
まずはグラファントを引き摺って大岩の上へと持っていき、頭部を爪で切断する。
体中に薄っすらと切れ目を入れ、そこを起点に毛皮を引き剥がしにかかる。
その後腹部を縦に裂いて切れ込みを作り、内臓を取り出して一か所に固める。
最後は背中から裂いて二つに分けた。
その後は尾で持ち上げて揺らしたり、岩にぶつけたりを繰り返し、簡単な血抜きを行う。
この辺の作業は、厄病子竜時代にもう散々慣れた道である。
血の臭いも今ではすっかり気にならない。
最後に目を瞑り、自然とグラファントに心中で感謝をした。
時間を掛けるのなら、子蜘蛛の糸を借りてどっかに吊るしてみんのも悪くないかもしれねぇな。
……アビスホイホイになりそうだし、相方がダラダラ涎垂らしてっからそんなに残るとは思えねぇが。
肉を更に細かく分け、岩に〖灼熱の息〗を吹きかけて熱を持たせ、石焼きにすることにした。
グラファントの石焼きステーキである。
ジュウっと肉が焼けて脂が滴り、いい臭いが漂ってくる。
こっちの世界に来てからじゃ、初めての牛肉である。
俺も久々に嗅いだ匂いに、懐かしさと食欲が込み上げてくる。
この辺じゃ、香辛料が全然見つからねぇのがちょっち残念なところだ。
塩ならリトヴェアル族がどこからか入手してるかもしれねぇな。また機会があったら聞いてみてぇもんだ。
せっかくのビッグサイズなので、俺も遠慮なく喰わせてもらうことにした。
最近相方に食事は譲りつつあったので、もう格別の美味であった。
胃に脂と肉汁が染み込むかのような思いであった。
心なしか、力が腹の奥から込み上げてくるかのような気さえする。
相方もこれは別格と見てか、いつも以上に激しく喰らい付いていた。
『マタコイツ狩ロウゼ、ナァ、ナァ!』
本当にお前は食欲第一だな。
いや、今回はわかんねぇでもないが。
子蜘蛛達にもやったが、わぁーっと集って、喰い終われば別の肉へとすぐ集まっていく。
つーか、焼けてない肉塊だろうが内臓だろうが、平気で飛びついてやがる。
……表情もわかんねぇし、なんか、喰わせてやったかいがねぇな。
アロにも小さい肉のブロックを渡してみた。
少し戸惑っていたようだったが、ひょいと口の中に入れた。
……一応、取り込むことはできんのかな。基本的に食事はしねぇもんだと思ってたんだが。
ただ味覚はないのか、ちょっと寂しそうな表情を浮かべていた。
……トレントも、見るからに口から食べ物摂取しそうな感じじゃねぇからな。
旨いもん見つけても、共有できねぇのが寂しいところだな。いや、相方はいるんだけどよ。
その内アロの味覚も戻ったりしねぇもんだろうか。
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