第273話
早速アロの〖マナドレイン〗の効果を試してみることにした。
俺はレッサートレントの枝の上でぐったりとしているアロの前に、尾を持っていく。
アロは自分へ突き出された俺の尾を見て、俺へと視線を向ける。
俺はこくこくと頷き、同時に尾っぽを振ってみせた。
「あ……り、ガ、トウ……」
アロは途切れ途切れに言い、俺の尾へと手を触れる。
そのままギュッと抱き付くように身体を寄せる。
パサリと、魔力枯渇のせいで砂のようになっているアロの身体の体表が剥がれ落ちて宙に舞った。
アロの身体と俺の尾の接触部が、わずかに光を放つ。
魔力の移っていく感触を感じる。
「あ、アあ……」
アロの崩れた皮膚が、どんどん再生して水気を取り戻していく。
平常時よりも、若干肌の調子がいいような気がする。
特に髪がバサバサだったので、変化がやや顕著に表れている……気がしないでもない。
本当に微妙な変化ではあるが。
身体の調子は戻ったようだ。
ただ、俺の魔力を吸ったせいか、薄っすらと黒い光が滲んでいた。
どれどれ、魔力は戻ったかな。
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名前:アロ
種族:レヴァナ・メイジ
状態:呪い・魔法力補正(大)
Lv :14/30
HP :78/78
MP :87/87
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お、回復してるじゃねぇか。
後はアビスに通るかどうかがちょっと不安だったが、俺の魔力を吸ったからか、妙な状態異常が付加されている。
〖魔法力補正〗か。
思わぬラッキーだった。
〖魔法力補正〗で威力を底上げした上で、〖マナドレイン〗のお蔭でMP残量も気にせず思いっ切りぶっ放せる。
これならランク差を覆してアビスの防御を貫ける目もある。
「…………」
MPが吸い終わってからも、アロは相変わらず俺の尾に抱き付いていた。
…………。
……お~い、もう終わったぞ。
「……なんダか、落ち着く」
お、おう。
アロが落ち着いてから、アロのレベリングを試すため、一度グラファントを放置してアビスを捜すことにした。
「ガァァァ……」
相方が口惜しそうにグラファントを見つめているが、あれは帰りに回収させてもらう。
後でこんがりと焼いてやっから、今は待ってろ。
子蜘蛛共がグラファントに纏わりつくのを、尾先でぺしぺしと払って散らす。
三回ほど繰り返すと、子蜘蛛達はようやく諦めて俺の後ろへと回り込み始めた。
準備が整ったところで、アビスを探して森を歩く。
まさか、こっちから奴らを探すことになるとはな。
アロの魔法によってダメージが通るのであれば、Cランクモンスターであるアビスはレベリングの恰好の的となる。
成功すれば、すぐに次の進化まで持っていけるはずだ。
しっかし、……アビスを探してみると、逆に見つかんねぇ……。
会いたくねぇときはこれでもかというくらいに出てくんのに。
……あー、あいつら気配消せっしな。
かなりの数のアビスを駆除してっし、マークされてんのかもしれねぇ。
そうそう簡単にゃ見つかんねぇか。
「ガァ……ガァ……」
歩けば歩くほど、相方が情けのない鳴き声を漏らす。
『ナァ、腹、減ッテコネ? ナァ?』
……そんなにアレが気になんのかよ。
アロに〖マナドレイン〗でMP吸わせてのレベリングが上手くいくか、それの検証だけ先にやらせてくれねぇか?
『……喰ッテカラデヨクネ?』
運動してから喰った方がうまいぞ。
『ドウセ、今回は見テルダケジャネェカ……ナァ……肉……』
……仕方ねぇ、アビスもなかなか見つからねぇし、先に食事にすっか。
俺も久々の纏まった肉で、テンション上がらねぇっつったら嘘になるしな。
なんせ、あの牛肉の塊だ。塩とかがねぇのが寂しいところだが。
俺は来た道を引き返し、グラファントの許へと戻った。
俺の後ろをレッサートレント、その枝に座るアロ、それから好き勝手に動く子蜘蛛達がついてくる。
木々の間にグラファントが見えると、相方が涎を垂らしながら首を伸ばす。
『肉! 肉! 肉! 肉!』
……これでこいつ、人化したら普通に顔立ちの整った女なんだよなぁ。
惜しいっつうか、色々間違ってるっつうか。
なんつーか、もうちょっと節度っつうか、言動に気を付けてほしい気もすんだけど……。
相方ベースで人化して都市とか行ったら、色んな意味で人の目を引きそうだな。
『肉! 肉! ニ……ク……?』
グラファントに近づくと、相方の思考が途切れた。
理由は一目瞭然であった。
「ヴェェェェェェエエェッ!」
「ヴェェッ、ヴェェェエァッ!」
「ヴェェァアァァッ!」
……近づくと、グラファントの死骸にアビスが集っているのが見えたからだ。
アビス達はグラファントを齧り、肉を喰い破ろうとしている。
そういやあいつ、大型の魔物を苗床にするんだっけな。
「ガァァァァァァァァァァァッ!」
相方が怒りの咆哮を上げ、首をぶんぶんと振り回す。
ちょっと目から涙が垂れていた。
『ダカラ、先、喰オウッテ……』
わ、悪い……ちょっとアビス舐めてたわ。
でも誘き寄せるのに成功したから、これはこれでよくね?
ほら、火通したら喰えるって!
「ガァァア……」
しっかし、本当にどこにでも湧いてくるんだな。
アビスって、マジでこの森に何体くらいいるんだよ。
俺は相方から目を離し、アロへと向ける。
アロは俺の考えが伝わったらしく、こくりと頷いた。
称号スキルの〖邪竜の下僕〗のお蔭か、アロやレッサートレントには、口で伝えずとも意思が通じてくれるのは楽でいい。
毎回話すために人化するわけにもいかねぇしな。
尻尾をレッサートレントの枝の上に乗っているアロへと近づけた。
アロは枝から、俺の尾へと飛び乗った。
俺は尾を伸ばし、アロを自分の顔の前へと持っていく。
うっしゃ、MP切れは考慮しなくていいぞ。
最大火力で思いっ切りぶっ放してくれ。
アロは右の手を、宙へと挙げる。
アロの身体を覆っている黒い光が、掲げた右手へと集中していく。
「……ぜ、ほウ、〖ゲール〗!」
魔力の光が集まって凝縮されていき、それが一気に放たれた。
魔力は風を引き起こし、小さな竜巻となり、地面を抉って砂煙を起こしながらアビスへと接近する。
Lvの大幅アップもあってか、グラファントを倒す前とは威力が段違いだ。
「ヴェァッ!」
グラファントに貪り付いていた一体のアビスに竜巻が直撃する。
グラファントの身体が抉れ、血飛沫が飛ぶ。
竜巻とグラファントに挟まれたアビスは弾き出されて宙を舞い、背から地面に身体を打ち付けた。
「ヴェェェエェッ!」
アビスは八本の脚を蠢かし、その反動で起き上がった。
「〖ゲール〗!」
二発目の竜巻が、起き上がったばかりのアビスを捕らえた。
再びアビスの身体が数メートルほどぶっ飛ばされる。
岩に背を打って、口からクリーム色の体液を垂れ流す。
さて、これでダメージがどれくらい入ってるかが問題だな。
見かけからするに、ノーダメージはないはずだが……。
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種族:アビス
状態:憤怒(小)
Lv :24/58
HP :229/288
MP :58/58
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……よ、よし、そこそこ入ってる!
二発で59のダメージ……アロの全力の一発で、30前後といったところか。
地味だが、間違いなくダメージが入っている。
ちょっと厳しいが、正面からの攻撃でまともにダメージが入っているのは大きな収穫だ。
上ランクを独力で狩れれば、一気にレベルは跳ね上がるはずだ。
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