第263話
貢物を相方と平らげた後、俺は祠で休眠を取ることにした。
相方はすぐに眠りについたが、俺はなかなか眠ることができなかった。
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。
……ベビーアレイニー、子蜘蛛達が、妙に活発に祠内を這い回っている。
気になって気になって、どうにも眠れねぇ。
もうちょっと大人しくしてくれ、マジで。
「ンガァ……」
相方は、暢気に寝息を立てていやがった。
クソッ、なんで俺ばっかし……。
眠り状態にするようなスキルねぇのかな。
それさえあれば、いつでもすぐ眠れるようになるっつーのに。
俺は目を閉じていてもなかなか寝付けなかったので、寝息を立てている相方を眺めていた。
……次に進化したら、こいつ消えんのかなぁ。
相方には幾度となく助けられてきた。
最初の頃はまともに意志の疎通も取れなかったし、考え方の違いがわかんないしでいがみ合っていたが、今となっては一番身近で大事な仲間だ。
昔、ツインヘッドを見かけたときは絶対に双頭には進化するまいと思ってたんだけどな。
次進化するときも、双頭竜にすっかな。
なかったら、別に進化しなくてもいいし。
今の俺は十分強いし、多分、昔みてぇに何かを取り零すような選択を迫られることもねぇだろう。
俺以外のAランクモンスターなんて見たことないし、騎士団長といっていたアドフだってCランクモンスターよりちょっと強いくらいだった。
ま、さすがに三つ首竜以上は勘弁してぇところだけどな。
お互いストレスでどうにかなっちまいそうだ。
【】
ん?
なんか一瞬だけ、意識に空白ができたような……今の、神の声か?
にしては何もメッセージを送ってこねぇし、特にモンスターを倒したわけでもないし、気のせいか。
案外、なんかのバグみたいなもんだったりしてな。
こんなゲームチックな世界なんだから、それくらいあっても不思議じゃねぇ気はするが。
んなことを考えている内に、段々と意識が薄れてきた。
カサカサ、カサカサ。
覚醒しつつある俺の耳に、子蜘蛛達の這い回る音が聞こえてくる。
……こいつら、いつ休むんだよマジで。
俺の鼻先を、子蜘蛛の一体が張り付いた。
こしょばゆく、くしゃみが出そうになる。
て、てめぇっ! 何しやがる!
首を振って子蜘蛛を落とし、身体を起こした。
「グアッションッ!」
横から相方の大きなくしゃみが聞こえてきた。
お前も子蜘蛛に起こされてたのか。
なんだか尾がムズ痒いと思って振り返ると、尾先にも子蜘蛛が数体集っていた。
て、てめぇら、好き勝手やりやがって……。
次の瞬間、子蜘蛛達が勝手に各々の方向に弾かれた。
その中心には、アビスが残っていた。
アビスは八本の腕を我武者羅にくねらせ、子蜘蛛達を突き飛ばしたらしい。
子蜘蛛達は致命傷を負ったわけではなさそうだ。
アビスはCランク、子蜘蛛はEランクだ。
殴られただけで拉げて死んじまうくらいステータス差があるはずだが、あくまで軽く突き飛ばしただけなのだろう。
それはよかったんだが……つーか、またお前かよおおおおっ!
アビスが気配消せるからか、発見が遅れるのが痛すぎる。
子蜘蛛達は、アビスのことを教えようと俺の鼻に纏わりついていたらしい。
こんな状況でも、意外と俺は冷静だった。
なんかもう、アビスに纏わりつかれてもちょっと慣れつつある自分が辛い。
「ガァァァァァァッァァァァァアッァァッ!」
相方が雄叫びを上げ、首をぶんぶん振るう。
相方は全然慣れていなかったようだ。
「あ、ぜ、ほう……げ、〖ゲール〗」
アロが、子蜘蛛が散った尾先に手を向ける。
小さな竜巻が巻き起こり、アビスを襲う。
アビスは〖ゲール〗の竜巻にも負けず、俺の尾に喰らい付いて離れない。
だが、アビスは竜巻が止むと俺の尾を長い脚で搦めてから口を外し、アロへと顔を向ける。
「ヴェェエエエ!」
アビスが大口を開け、大量に歯が並んだ不気味な口内が露になる。
……よく見たらこいつ、歯が二列に並んでんだな。
よく見たくないから気付かなかったというか、最早今すぐ吐きたい。
俺は尾を上へと持ち上げる。
アビスから発射された黄ばんだ液体が、アロを外して後ろの壁へと当たる。
ジュウウと音を立て、壁が削れていく。
〖ゲール〗へのお返しのつもりだったらしい。
なんかもうこいつ、出す技全部気持ち悪いのどうにかなんねぇのかな。
俺は尾を振り上げ、アビスを天井へと打ち付ける。
「ヴェアッ!」
祠全体が揺れる。
アビスの身体がへこみ、口内から続いてクリーム色の液体を吐き出す。
俺はそのまま、アビスを床へと叩き付ける。
アビスが拉げ、ぴくぴくと脚を痙攣させた。
尾の打撃で脚が一本取れたらしく、七本しかなかった。
俺は振り返り、その背に深々と爪を突き刺した。
【経験値を173得ました。】
【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を173得ました。】
【〖ウロボロス〗のLvが65から66へと上がりました。】
うげぇ、爪の合間にアビス入った……。
尻尾にもついてっし、洗いにいかねぇとな。
……アビスとの遭遇率高くね?
こんなもんなの? なんか嫌な予感がすんだけど……。
そういや、子蜘蛛達とアロも戦闘に参加してたから、ちっとはLv上がってんのかな?
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
名前:アロ
種族:レヴァナ・メイジ
状態:呪い
Lv :3/30
HP :50/54
MP :44/55
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お、この前進化してからそのままだったことを思ったら、結構上がってんじゃん。
進化したてはレベルが上がりやすいにしても、結構順調に思える。
次の進化まで、案外すぐなんじゃなかろうか。
「ガァッ! ガァァッ!」
ん、どうしたよ相方。
『尾ニ、引ッ掛カッテル!』
え……?
俺が振り返ると、尾の先にアビスの脚が引っ掛かっていた。
まだぴくぴくと動きだしそうだ。
「グァォォオオオオッ!」
俺は尾を振るい、アビスの脚を振るい飛ばした。
子蜘蛛達は相変わらず、アビスの死骸へと集っている。
一体は俺が投げ飛ばした脚を追って行った。
たくましい奴らだよ本当に。
溜め息を吐いたところで、〖気配感知〗が反応した。
複数、何かが祠に向かってきている。
この感じ……人間だな。
アロに目配せすると、こくこくと頷いて返してくれた。
アロは土兎を抱えて祠奥へと駆けて行く。
俺が祠から顔を出すと、ヒビとバロンがいた。
二人セットでいることが多いが、バロンはヒビの護衛なのだろうか。
二人とも大慌てで走っている。
とはいえ普通に走ったらバロンの方が速いので、彼は途中で何度か足を止めてヒビが追いつくのを待っていた。
……ペース合わせろよ。
ヒビは仮面をつけているので表情はわからないが、バロンは顔を真っ青にしていた。
しかし俺の姿を見ると、いくらか安堵したようで息を漏らしていた。
「大変です! 集落が、とんでもないことに……! どうか、どうか憐れな我らにお力を貸してくだされ!」
先に到着したバロンが、地に倒れ込むように座り込み、俺へと頭を下げる。
ど、どうしたんだよこの慌て振りはよ。
遅れて到着したヒビが、仮面の奥で息を荒げていた。
「……バロン、下がりなさい」
「も、申し訳ございませんヒビ様。しかし、しかし、どうにも気が急いてしまったもので……」
バロンは俺とヒビに頭を下げてから、ヒビの後ろにまで退いた。
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