第260話
血を噴き出しているマンティコアの亡骸を見て、俺は改めて安堵の息を吐いた。
相方はマンティコアの亡骸を見て、じゅるりと涎を垂らしていた。
あ、あれは喰わないでくれ……頼むから。
あいつリトヴェアル族の人間喰いまくってるからな。
間接的にでも俺、人間喰いたかねーぞ。
また供え物もらったらお前に譲るから、ここは我慢してくれ。
『アア、デモ……』
お前、生贄の洞穴で話してた子達と次から目合わせられんのか?
マンティコアの腹ん中には、あの子達の親戚とか友達とかがいるんだぞ。
『……マ、マァ、今、ソンナニ腹減ッテネェカラナ』
相方がぷいっとマンティコアから視線を外す。
よし、上手く説得できた。
俺が身を翻したとき、ヤルグが目についた。
ヤルグは槍を構えながら、落ち着きなくマンティコアと俺を交互に見ていた。
槍を握る手に、力は込められていない。
ヤルグは何がどうなっているのか、整理できていないのだろう。
タタルクもヤルグ同様、オロオロしているばかりだった。
だからか、俺が黙ったままヤルグの横を通っても、槍を刺されることはなかった
「ま、待て! な、なんだ! お前はいったい何なんだ!」
ヤルグが叫ぶ声を背に、そのまま俺は洞穴を出た。
これで、この集落もマンティコアに脅えながら暮らすことももうねぇだろう。
アロの仇も取ることができた。
あっちの集落近くにまで、一旦帰るとすっかな。
俺がマンティコアを倒す姿をヤルグとタタルクが見たことで、上手い具合に竜神問題も解決してくれりゃあいいんだけど……それにはさすがに、まだ時間が掛かるか。
隔たりは深そうだからな。
竜神派の方に俺から説得できりゃいいんだけど。
……洞穴から出て少し歩いたところで、〖気配感知〗のスキルが引っ掛かった。
足を止めて待っていると、ヤルグが追いかけてくるのが見えた。
「お、お前は、何をしにきたっ! 何を考えている! 答えろぉっ! ほ、本当にあのときの、竜人族の娘なのか!」
……邪魔になってきたな。
そろそろ、アロと合流してぇんだけどな。
「ガァァァァァァァァァァァッ!」
相方が咆哮を上げる。
「ひぃっ!」
ヤルグが腰を抜かし、槍を手から零した。
その目は、猛る相方の姿に釘づけにされていた。
元々、〖咆哮〗は魔物を牽制、怯ませるためのスキルだ。
ただの人間がまともに浴びて耐えられるもんじゃねぇ。
……つーか、トラウマにならねぇか?
『コレデ追ッテコネェダロ』
得意気に相方が念を送ってくる。
……まぁ、うん、そうだろうけどよ。
それからしばらく、〖気配感知〗でアロを捜して森を彷徨った。
アロの気配は、若干異質なので感知しやすい。
見つけやすくていいんだが、巫女に感知されなきゃいいんだけどな……。
アロは、木の根に背を預け座っていた。
腕には兎のような生き物を抱えていた。
俺を見つけると、立ち上がって嬉しそうに寄ってくる。
その際、手に抱えられていた兎が地に落ちた。
兎は綺麗に着地し、アロの後をつけて行く。
随分と懐いて……あれ、あれ本当に兎か?
よく見ると、毛が生えていない……というか、体表が土を固めて作ったようなものだった。
兎の身体が脆いのか、数歩ほど駆けたところで後ろ足が崩れかかっていた。
これ、もしや……。
【〖レヴァナペット〗:Fランクモンスター】
【土を魔法で肉へと近づけることで作られたモンスターの総称。】
【〖レヴァナ〗系統のモンスターが作り出すことが多い。】
【一体一体は弱いが、大抵際限なく増えて行くため、大変なことになる。】
……これ、もしかしなくても、アロの持ってたスキル〖土人形〗で作った奴か。
あ、あんまり増やさないでね。
アロはこくこくと頷き、土兎を拾い上げて頭を撫でる。
アロが触ると、土兎の欠損していた足が再生していく。
作ったからには、大事に育てなきゃな……うん。
……しかし、俺が〖魂付加(フェイクライフ)〗で生き返らせたアロが、〖土人形〗で土兎を作るのか。
これ、〖土兎〗も仲間作ったりしないよな?
なんか駄目な悪循環が始まっているような気がするんだけど……。
「らイ……れシた?」
アロは土兎から視線を外し、俺の顔を見る。
一瞬考え、『大丈夫でした?』と言いたかったんだろうかと考えると。
「グォォッ」
俺はこくこくと頷く。
アロは嬉しそうに表情を綻ばせる。
「よァ、た……」
舌足らずなところも、きっと進化していったら改善されるはずだ。
後一歩、後一歩だ。
今の段階でもほとんど人間の形になっている。
次の進化で、見かけだけなら人間と違いがわからなくなるくらいにはなるはずだ。
アロと共に、竜神の祠へと移動した。
その最中、また仄かに光る緑の小人、ラランの姿を見た。
遠くの木に三体並んで座って、前回と同じくじっとこちらの様子を窺っている。
……なんか、落ち着かねぇからやめてほしいんだけどな。
言いたいことがあんならきっちり言ってほしい。
『アイツ、ドンナ味スンダロ』
相方が舌で口周りを軽く舐める。
ラランは何かを感じ取ったように枝の上で立ち上がり、三人揃って飛び降りた。
落ちて行く途中、宙でララン達の姿がふっと消えた。
相方、強ええ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます