第258話

 マンティコアを睨みながら、相方が腕に力を入れる。


「ようやく暴れていいんだな?」


 ちょ、ちょい待って!

 臨戦態勢入る前に、ステータスを再チェックさせてくれ!

 不安要素を潰したい!


 それにできることなら、マンティコアが一番隙を見せた瞬間を狙いてぇ。

 あれが隙を見せるか、怪しまれるかまで現状維持で頼む。


「……慎重なこって」


 あ、あと、足から潰すんだからな!

 万が一取り逃がしても追いかけられるように!

 人化解いてから、お前もなるべくそれを意識しておいてくれよ!


「……チッ。あー、わーったよ」


 焦れったい気持ちもわかるが、あいつには二度も逃げられている。

 次はねえ、今度こそぶっ飛ばしてやる。


 ステータスは……。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:マンティコア

状態:通常

Lv :73/80

HP :453/453

MP :128/142

攻撃力:413

防御力:228

魔法力:194

素早さ:534

ランク:B


特性スキル:

〖猫又:Lv--〗〖隠密:Lv4〗〖気配感知:Lv6〗

〖グリシャ言語:Lv1〗



耐性スキル:

〖物理耐性:Lv4〗〖魔法耐性:Lv5〗〖火属性耐性:Lv3〗

〖毒耐性:Lv2〗〖麻痺耐性:Lv4〗


通常スキル:

〖痺れ麻痺爪:Lv7〗〖麻痺噛み:Lv8〗〖人化の術:Lv9〗

〖砂嵐:Lv6〗〖針千本:Lv9〗〖不意打ち:Lv7〗


称号スキル:

〖狡猾:Lv6〗〖執念:Lv6〗〖チェイサー:Lv9〗

〖猫科の意地:Lv3〗〖疾風の走り屋:Lv7〗〖最終進化者:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 うし、特に変わってねぇな。


 特性スキルもスッキリさせておきてぇな。

 〖人化の術〗関連の何かがあるはずだ。

 あんまし神の声にゃ頼りたくねぇが、仕方がない。


【特性スキル〖猫又〗】

【人を化かすことが得意になる、猫系統の魔物が主に持つ特性スキル。】

【〖人化の術〗の消費MPを大幅に引き下げることができる。】


 やっぱし、あれか。

 〖人化の術〗の消費MPを引き下げる……か。

 俺に例のスライムみてぇなスキル回収スキルがあれば、即決で奪ってんのに。

 これ以上あいつの騙し打ちはくらってやらねぇよう、気を張らねぇとな。


「ゲバゲバゲバ……ゲバッ?」


 マンティコアは毅然とつっ立っている勇気溢れすぎる生贄に不信感を覚えたのか、相方を睨む。

 確かに、もうちょいビビってなきゃ不審かもしれんな。


 マンティコアには、ヤルグでさえあんだけ怯えてんだ。

 連れてこられたばっかしの生贄が、こんな余裕かましてるわけがない。

 相方よ、もうちょいビビった演技を……。


「……が、がぁぁぁっ」


 相方は縄に縛られた腕をがちゃがちゃさせながらわざとらしい悲鳴を上げ、マンティコアから逃げるように走った。

 あまり距離を取りすぎないよう、ゆっくりと。

 くっそ棒読みな上に結局ドラゴンじゃねぇか!


「ああっ! だから縄を切ろうとしたのに!」


 タタルクが叫ぶ。

 タタルクが演技に乗ってくれたのかと思ったが、表情を見るにそういうわけではなさそうだ。

 マジの顔だった。


 マンティコアが動き、相方を前足で押さえつけようとする。


「ゲバゲバゲバゲバァッ!」


 相方は足を止めて振り返り、縄を引き千切る。


「ケバァッ!」


 マンティコアの前足が相方の身体を押さえつける。

 相方が仰向けに倒された。


「がぁっ!」


 マンティコアの大きな口が裂け、不気味な笑みを模る。


 ああっ!

 捕まっちまったか。

 これじゃあ足を狙うことはできねぇ。

 もう、ここで解くべきか……?

 いや、まだだ。まだ解くべきタイミングじゃあねぇ。


 捕食の瞬間、それが生物が最も無防備になる時間である。

 そこを刺す。


 相方がもがくと、マンティコアがわずかに顔を顰めた。

 だが、マンティコアを振りほどくことはできない。

 〖人化の術〗中は、身体能力のステータスが半減する。

 今の力では足りない。


「ゲバゲバゲバァッ!」


 マンティコアの口が相方に近づいてくる。

 ある程度口が近づくと、角度的にマンティコアの死角に入った。

 ここだ。


「がぁぁぁぁぁっ!」


 相方が吠えながら、マンティコアの牙へと腕を振るう。

 俺は腕に意識を集中する。

 血液が沸騰したかのような熱が走り、腕が膨張した。


 相方の拳の衝撃により、土煙が上がる。

 爪がマンティコアの身体に喰い込んだ感触が手に伝わってくる。

 恐らく、マンティコアの歯茎だろう。


 相方はそのまま爪に引っかかった肉を抉り、引き裂いた。

 神経ごと切断されたマンティコアの牙が、土煙の中を舞った。


「ゲバアァッ!」


 煙の奥から悲鳴が上がり、マンティコアの気配が退くのを感じ取った。

 土煙が薄れ、相方の腕だけ膨張して黒くてごつごつとした肌質のものに変わっていることが気がついた。


 腕だけドラゴンのものに戻っている。

 マンティコアも以前、似たようなことをやっていたので試してみたが、やっぱり俺でもできるみてぇだな。


 そのまま相方は地面を蹴り、退いたマンティコアの前足へと追撃する。


「がぁぁぁっ!」


「ゲバァァッ!」


 爪が、マンティコアの前足の肉を深く抉った。

 マンティコアの厚い毛皮が裂け、肉飛沫が舞う。


 そのままマンティコアの顎へと拳を叩きつけた。

 マンティコアの巨体が洞穴の床を削りながら飛んでいく。


「……ちっと粘りすぎだろ」


 相方が恨めしそうに洩らした。

 ……わ、悪い。


「なっ、なんだ! お前はいったい、なんなんだ!」


 ヤルグはタタルクの投げたカンテラを拾って相方を照らしながら叫んだ。

 そのすぐ近くでは、タタルクがぽかんと口を開けていた。


「オォオオオォオォォォオオオ……」


 洞穴の奥で、マンティコアの瞳が光る。

 前足で顎を押さえ、憤怒の表情で相方を睨む。


 俺は今度こそ、〖人化の術〗を解除した。

 身体中に熱が走り、肥大化していく。


 身体が元に戻るにつれ、マンティコアから怒りの気が消え、みるみるうちに青褪めて行く。

 お前も同じスキルを持ってる割りには、気付くのが遅すぎるぜ。 


「グゥォォォォォォオッ!」

「ガァァァァァァァアッ!」


 俺は相方と同時に咆哮を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る