第247話

 俺は今後の作戦について、相方へと説明する。


「グゥォッ、グゥォッ」


 いいか、これからお前を人化させる。

 そんで上手く行きそうだったら、そのまま反竜神派の集落へ向かって情報収集を行う。

 んでも、絶対に余計なことはしないでくれよ。

 なるべく俺が指示を出すから、その通りに頼むぞ。


「ガァッ!」

『ワカッタ! オレ、任セロ! オレ、ヤル!』


 妙に乗り気だった。

 半端にやる気あるのが一番怖い気もするんだけど、大丈夫だろうか。


 やっぱし俺が行った方がいいか?

 いやでも、とりあえず実験的に人化してみるのは悪くねぇはずだ。

 そもそもやっぱり俺しか無理でした! みたいな可能性も高いし、とりあえずやってみてから考えるとすっか。

 MPはごっそり持ってかれるだろうが、すぐ止めれば〖MP自動回復〗の特性スキルのお蔭ですぐ元通りになる。


 じゃあいくぞ、いいな。

 俺が念じると、相方がこくこくと素早く二度頷いた。

 早くしろと言わんばかりだ。好奇心旺盛なのはいいんだけどよ……。


 〖人化の術〗を使うと、身体中に熱が走る。

 身体が熱に溶かされていくかのように収縮していく。


 ここだ。

 俺が自分の頭を、力いっぱい押さえ込んだ。


「グォオオオオオォオッォオオッッ!」


 頭に激痛が走った。

 痛い、マジで痛い! これ、大丈夫なのか?

 前回相方が鳴き叫んでたはずだわ。

 俺の頭部が肩部分に沈んではいるみてぇだけど、元戻んのか?


 若干狭まった視界の中、俺はどうにか相方の顔を見上げる。

 人間寄りの蜥蜴というか、リザードマンっぽい顔つきになっている。

 相方に〖人化の術〗の効果が出かかってるってことは、このままでいいんだろうか。


 そのまま熱に溶かされるように、俺の頭の感覚がなくなった。

 曖昧な感覚の中、ぼやっと視界が浮かび上がってくる。

 最初はモザイクレンズを掛けたように曖昧だったが、時間が経てば段々と明瞭になってきた。

 ただ、眼球が動かせねぇ。目も閉じらんねぇ。


 なんだ、〖人化の術〗はどうなったんだ?

 手を上げてみたいが、身体が自由に動かない。

 どころか手は勝手に動き、口許を押さえる。


「んがぁっ!」


 大きく、思いっ切りドラゴン感の残った欠伸を上げる。

 高いソプラノ声であった。

 ……ああ、これ、相方に持ってかれてんな。間違いなく。


 五感は共有してんのか。

 助かった。

 万が一全部持ってかれてたら最悪だったからな。


 俺の予想通り、相方は雌だったらしい。

 雌っていうか、身体は一緒だから厳密には違うのか。雌型か。

 ややこしい。


「アー、ア、ア、あーっ! おお、声、声出んぞ! それに腕も動く! ヤベェ、スゲェッ!」


 つーかお前も言語わかってたのか。

 特性スキルは共有か。例外とかあってもおかしくねぇ気もするけどな。


「スゲ、スゲェ! でもこれ、自分の身体じゃねぇみてぇだな!」


 相方はきゃっきゃと燥ぎながら自分の肩やら太股やらをペタペタと触り出す。

 俺としては、んなことより川で顔を確認してほしい。


「がぁっ!」


 相方は短く返事をし、川を覗き込む。


 俺が人化したときよりも大分身長が低いようだった。

 160とちょっとくらいだろうか。

 髪は腰近くまで垂れており、皮膚は青白く、部分的に鱗が浮き出ている。

 頭にはちょこんと二本の角が生えていた。


 う~ん……角と鱗、なぁ……。

 リトヴェアル族、こんくらい見逃してくれっかな。

 いけるよな、人化したマンティコア引き連れて治療しちまってたくらいなんだから。

 駄目なら駄目で、最悪ダッシュで逃げるし。

 ステータス半減してても、人間相手ならどうとでもなるだろう。


 顔つきは整っている。目はぱっちりしており、鼻や唇もバランスはいい。

 俺のときに比べ、かなり華奢な身体になっている。

 目と体格のせいか幼くは見えるが、十分美人として通るレベルだろう。

 ……これで角と鱗さえなきゃ、情報収集に持って来いだったんだろうけどなぁ。


 身体つきも女らしく丸みを帯びており、あんまりまじまじ見るのは抵抗がある。

 ……これで集落行くの、なんか恥ずかしくなってきたな。


「がぁー! がー! がはぁー!」


 相方は顔を川に近づけ、目を見開いたり自分の頬をつねったりして遊び出した。


 そういや相方よ、その辺に破れた服があっただろ?

 とりあえずないよりマシだろうし、それを着といてくれ。


「ん……」


 相方は服を拾い、軽く振って水気を払う。

 苦戦しつつも、なんとかリトヴェアル族の破れた服を装着することに成功した。

 途中でビリッとか聞こえたが、俺はもう気にしない。


 相方はまた川の水面を除き、身体を捻って着た服をチェックしていた。

 んなことよりも早く反竜神派の集落へ行くぞ。

 人化してられんのはせいぜい一時間だ。

 ちゃっと行ってちゃっと帰らねばならん。


 桶があるくらいだし、ここから遠くても十五分で集落が見えてくると思いたい。

 服を洗うのにわざわざ川のどこで~なんて決めたりもしねぇだろうし、ここから最短距離で移動できる場所に集落はあるはずだ。

 つまり変に曲がったりする必要は絶対にねぇってことだ。

 〖気配感知〗もあるし、道に迷う心配はしなくていい。


 移動で十五分、話を聞くのに三十五分、十分で全力で撤退だな。

 わかったか相方?


「がぁ?」


 こてん、と相方は首を傾ける。

 ……ああ、うん。とりあえず急いで集落の方を目指してくれ。

 足跡とか人の通った跡が見つかるかもしれねぇから、なるべく視界広めにな。


 相方は人間の足が慣れてねぇのか、よたよたと左右に揺れながら走っていた。

 ……もうちょい急いでほしい気もすっけど、無理に急かしても仕方ねぇか。

 手伝ってもらってるだけ御の字よ。


 数分程進んだところで、俺の〖気配感知〗に三人の人間が引っ掛かった。

 さっきの俺から逃げて行ったグループの一部だろうか。

 相方は気付いていないようだったので、とりあえず方向と人数だけ知らせておく。


【特性スキル〖意思疎通〗のLvが2から3へと上がりました。】


 お、上がったか。

 意志の疎通大事だからじゃんじゃん上げてきてぇな。

 つっても、今でもそこまで不便はねぇんだけど。


 とにかく、今回はなんとか集落まで拾ってもらうか、それが無理でも情報を聞き出すくらいはしねぇと。

 頼んだぞ相方よ。

 言う内容はこっちで考えるから、全力で自然な感じで頼む。


「がぁっ!」


 最悪でもこっちからは手を出さないでくれよ。

 なるべく逃げる方向で行こう。

 後々拗れちまったら最悪だ。

 下手すりゃ竜神派と反竜神派の溝を深めることになるかもしれねぇんだから。


 三人を追っていると、その先に幾つもの気配があることに気が付いた。

 かなり集落は近いらしい。

 やっぱしマジで反竜神派の集落説でよさそうだな。

 うっし、ここからが踏ん張りどころだ。

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