第204話
赤蟻の巣、最奥部。
通路の先に、空間が広がっていた。
ここだけ、妙に天井が高い。
そこにいるのは、六体の赤蟻。
それからその真ん中に悠然と構える、他よりもずっと大きな身体を持つ赤蟻。
間違いねぇ、こいつが女王だ。
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種族:クイン・レッドオーガアント
状態:普通
Lv :43/70
HP :496/496
MP :184/184
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ステータスも確認。
MPはまだまだあるな。
女王赤蟻って、範囲回復魔法持ってるんだよな
ただ、この巣に残っている戦力は六体だけだ。
さして脅威にはならねぇ。
腹が肥大化してて満足に動けそうにねぇし、元より女王は戦闘型ではないのだろう。
範囲回復魔法も、戻ってきた兵を癒す程度の役割のはずだ。
「クチャ!」「クチャーッ!」「クチャッ!」
敵の赤蟻達はこっちを窺いながら、威嚇して来る。
だが、飛び掛かっては来ない。
勝算がないことを理解しているのだろう。
俺の後ろには、二十体の赤蟻が控えている。
待っていても仕方はないのだが、向こうが動かないのでこちらも動きづらい。
俺は後ろを振り返る。
隊長赤蟻から睨まれた。
とっととやれということだろう。
俺は前を向き直す。
『……ソウカ、奴ノ巣カ。近々コチラカラ仕掛ケルツモリダッタガ、判断ガ遅レタ。規模デハ勝ッテイルト後回シニシテイタノガ災イシタ。大人シク移住スルツモリカト思ッテイタガ、マサカ竜ヲ味方ニツケル算段ヲ立テテイタトハ』
女王蟻は〖念話〗で言ってから、首を振るう。
……いや、多分、それは偶然だと思うぞ。
なんなら本当に移住を計画していた可能性もある。
『奴ニ伝エテオケ、貴様ノ勝チダトナ』
女王蟻が宣言する。
女王を守るように立っていた赤蟻達は、首を力なく項垂れさせる。
「クチャッ」
背を小突かれ、振り返る。
隊長赤蟻だった。
何事かと思えば、他の赤蟻達は入り口近くまで皆退いている。
え、なに?
別に俺だけでもなんとかなるかもしれないけども……そんなところまで下がらなくても……。
「クチャッ!」「クチャアッ!」「クチャーッ!」
皆、俺と隊長赤蟻へとあれこれ鳴き声を掛けてくる。
なんであんなに慌ててるんだ?
「「「「「「クチャッ!」」」」」」
女王を囲む六体の赤蟻達が、一斉に鳴いた。
広間が、大きく揺れ始めた。
隊長赤蟻が、さっと入り口へと駆け出した。
え、ちょっと、どういうことこれ。
「ぺふっぺふっ!」
玉兎がぺちぺちと頭を叩いてくる。
俺はようやく、女王蟻が広間ごと自害する気なのだと気付いた。
〖クレイ〗でこの広間を支えている部分の赤土を崩したのだろう。
経験値どうこう言ってる場合じゃねぇ、このままじゃ生き埋めになる。
女王蟻の経験値は惜しいが仕方ない。
俺は身体を翻し、隊長赤蟻を追って走る。
相方が、ぐっと首を後ろへと曲げた。
おい、ちょっと! 走るの邪魔すんなって!
「ガァッ!」
相方が鳴くと、黒い光が現れて女王蟻へと向かっていった。
光は女王蟻の首許に絡みつき、すぐに拡散して消えた。
【経験値を688得ました。】
【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を688得ました。】
【〖ウロボロス〗のLvが55から57へと上がりました。】
お、おう、今のが〖デス〗か。
よくやった。
女王が死ぬ気満々だったからか、あっさりと成功したな。
【称号スキル〖卑劣の王〗のLvが6から7へと上がりました。】
……まぁ、仕方ないか。
正直、称号に関しては今更気にしても仕方ねぇかって思い始めてきてるし。
俺は地を蹴って低空飛行し、広間を脱した。
広間が崩れ、土に覆われていく。
通路にも影響が出るのではないかと思ったが、とりあえずは大丈夫そうだ。
後は、来た道を帰るだけだ。
明日、今のレベルで、あの勇者と戦うことになる。
正直不安はある。
ステータス面でもそうだし、ハレナエには人が多くいる。
そんなところで戦って大丈夫なのだろうか、と。
勇者に助太刀する者も当然現れるはずだ。
アドフに関したって、どうなるかなんてわからねぇ。
やっぱりアドフには逃げてもらった方が……。
「クチャッ!」「クッチャ!」
「クチャァッ!」
赤蟻達の弾むような声を聞き、俺は顔を上げる。
赤蟻達は、赤い楕円状のものを背に乗せて運んでいた。
え? 何やってんの?
あれ、食糧じゃねぇよな。繭?
丁度近くに、隊長赤蟻がいた。
ちょ、ちょっと、何やってんの?
「ぺふっ?」
『アレ、何?』
「クチャッ」
平然としたふうに、隊長赤蟻は答える。
『……持チ帰ッテ、育テルッテ』
……な、なるほど。逞しい。
放っておいても死なせちまうだけだもんな、うん。そっちの方が絶対いいよな。
なんか色々と思うところがないわけではないが、口出しするまい。
赤蟻には赤蟻のやり方がある。
『デキレバ、手伝ッテッテ……』
お、おう。
女王蟻のお蔭で当初より経験値は集められたし、手伝ってもいいけど……。
なんだろ、人攫いの片棒担いじまったような気分なんだが。
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