第174話

 主から引き離された大ムカデの身体の下半分が、目的もなく暴れ狂う。

 切断面から体液を吹き出しながら、身体を出鱈目に打ちつけて地を抉る。


 そういやムカデって、身体の節ごとに組織があるから頭なしでも動き回れるんだったか。

 さすがにすぐ力尽きるとは思うが。


 こんなのに巻き込まれて死んだらアホらしい。

 さっさと距離を取らせてもらおう。

 問題はあんな脊髄反射で暴れてるような奴じゃなくて、頭のついてる方だ。

 かなりダメージは負ったはずだが、それでもまだアイツは生きている。ちゃっちゃっとトドメを刺してやんよ。


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種族:ジャイアント・サンドセンチピード

状態:憤怒(大)、流血(大)

Lv :64/80

HP :132/463

MP :142/244

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 おおう、まだ三分の一もHP残ってたのか。

 つーか、流血扱いなのかよ。まぁ、なんでもいいけどさ。


 大ムカデは仰向けになっていたが、俺と目が合うと素早く身体をひっくり返して体勢を立て直す。


「ギヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂィィィイイイイ!」


 完全にキレてんな。

 身体真っ二つ的な意味じゃなくて、大激怒ぷっつん的な意味で。


 再び、大ムカデの口許に赤い光が集まって行く。

 またムカデビームをぶっ放してくるつもりらしい。


 俺は翼を広げて飛び、大ムカデの頭上を通過する。

 口はビームの溜めで塞がっているから容易だった。

 チャージに要する時間も撃ってくる際の予備動作も、もう把握済みだ。

 警戒することはなんもねぇ。


 頭部すぐ後ろの背に着地する。

 この位置ならムカデもビームを当てようがないだろう。

 大ムカデは頭を動かして横一閃にムカデビームを放ち、砂漠の地に大きな線を引いた。

 よしよし、MP無駄に使いやがった。


 その後、大ムカデはすぐに身体を捩って俺を振るい落とそうとする。

 俺は甲殻を蹴っ飛ばして飛び、地に着地して〖転がる〗で砂漠を駆ける。


 一旦逃げさせてもらおうかな。

 走り回れば流血KOも狙えるはずだ。

 かなり頭に血が登っていらっしゃるようだし、大ムカデから撤退する、なんてことはないだろう。


「ア”ァア”ィギギヂヂヂヂヂヂヂヂヂィィイイイイ!」


 大ムカデが追ってくる。

 砂を掻き分け、体液を砂漠に散らしながら追ってくる。

 だが、切断前に比べてかなりスピードが落ちている。

 本気で走ったら今なら簡単に撒けちまうな。もうちょっと加減して走らねぇと。


 後ろを定期的に確認する。

 大ムカデの口許に、また赤い光が集まって行く。

 おいおい、連発し過ぎだろムカデビーム。MP切れもあるな。

 完全に冷静さも失ってやがる。


 俺は一気に加速し、左に曲がる。

 そのまま地に円を描きながら、大ムカデの後端部分を目指す。

 俺の後ろをムカデビームが追ってくるが、角度がつき始めてくるとそれもすぐに引き離せた。

 あれ以上は、身体を大きく捩る必要がある。頭を傾けて照準を向けるのと同じ速度とはいかないだろう。


 俺は大ムカデの甲殻のない部分、切断面に〖転がる〗状態のままタックルを仕掛ける。


「ギヂイィァッ!」


 肉が抉れ、体液が更に勢いを増す。

 一発では無理だろうが、二発、三発と殴り続ける。


 俺を引き離そうと大ムカデがスピードを上げる。

 勿論、俺はぴったりとくっついて後を追いかけて行く。

 追う側と追われる側が逆転したな、大ムカデよ。


 どんどんと速度を落としては行くが、さすが大ムカデ。

 状態異常もあるはずなのに、なかなかHPは減ってはくれない。


 無駄にデカイ身体が災いしたな。

 この位置関係をひっくり返す術はあるまい。


 とはいえ、こっちも疲れてきたな。

 このまま大ムカデのタフさに付き合っていたらこっちが持ちそうにない。

 さすがにその前にはくたばってくれるだろうとは思うが。


 俺は後ろからタックルを仕掛ける方向をちょっとずつ変え、さっき大ムカデと正面からぶつかった大きな丘まで誘導する。

 一気に加速して頂上の角度を活かし、大ムカデを咥えながら俺は宙を飛んだ。

 今の大ムカデは体重三分の一を即座に落とすカットダイエットに成功している。

 これくらいの重さならば、ちょっとくらいなら持ち上げられる。


 大ムカデの身体が、完全に宙に浮く。

 勿論、浮いたのは数秒ほどだけだが。

 すぐに高度が落ち、大ムカデの頭部が地面に擦りつけられ、その部位の甲殻が削れる。


 俺は支えて飛んでいられなくなり、身体を捻じって大ムカデをひっくり返す。


「ヂ、ヂヂヂヂィ……ヂィ……」


 大ムカデの出す不快音が、弱々しくなっていく。

 多足の動きも鈍い。何より、身体を起こすだけの体力ももう残っていないようだった。


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種族:ジャイアント・サンドセンチピード

状態:流血(大)

Lv :64/80

HP :7/463

MP :98/244

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 残りHP……7、か。

 ついに、砂漠の主が背を地につけた。


 思えばコイツとは、砂漠に来てから長い付き合いだった。

 大ムカデには敵意と恐怖以外の感情を持ったことはなかったが、こうなってみればなんとなく感慨深いものがあるような気もする。


 まぁ、せめてもの情だ。

 介錯くらいはしてやろう。


 俺は大ムカデの腹に乗り、甲殻を蹴っ飛ばし、真上に飛んだ。

 翼で空気を押し、少しでも高くを目指す。

 ここが限界だというところまで来たら尻尾や手足、頭を畳み、〖転がる〗で全力で回転した。

 その状態で、俺は大ムカデの腹を目掛けて降下する。


 うむ、この技を〖鉄球落とし〗と名付けよう。

 神の声さんよ、スキルに加えといてくれ。


 俺は重力加速度でどんどん速度を増していき、大ムカデの腹と激突する。

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