第161話
「グゥゥウウ……」
俺は呻きながら、なんとか身体を持ち上げる。
筋肉が硬く、動かし辛い。
何か状態異常をもらっちまったのかもしれねぇ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖イルシア〗
種族:厄病竜
状態:麻痺(小)
Lv :44/75
HP :98/343
MP :199/236
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
クソ、麻痺入ってやがる。
どうする。
あの金髪、見かけに反して化け物級の強さだ。
アドフの仲間のようだし、下手に殺せばアドフとの交渉は不可能になる。
かといって、手抜いて押さえつけられる相手じゃねぇ。素でも怪しい。
不意打ち叩き込まれただけならまだしも、俺目前にしてああまで平然としてる時点で絶対におかしい。
しかし逃げるにしても、玉兎もニーナも俺から離れている。
もし彼女達を回収して逃げることができたとしても、それはこのタイミングで話の通じそうなアドフに接触できた好機を棒に振ることになる。
そうなれば、ニーナの助かる道は断たれる。
とにかく、とりあえず、アイツのステータスチェックからだ。
男は翼の生えた馬から降りて小さく首を振り、呆れたふうにアドフと顔を合わせ直す。
俺はその横顔を睨みながら、〖ステータス閲覧〗を使う。
【通常スキル〖ステータス閲覧:Lv6〗では、正確に取得できない情報です。】
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖****〗
ア曚Θ:アー***ュ**
>塵縺:*常
□繧ケ :78/100
蜷ガ :602/602
ソ霎シ :552/552
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
久し振りに『正確に取得できない情報です』が出てきた。
表示されているものも変な記号交じりや非表示だらけで、スキルから中身まで全部まともに見れたものじゃあない。
やっぱりコイツも、あのスライムと同種の何かなのか。
ステータスを確認しているとき、何か違和感があった。
文字化けしている挙句虫喰いだらけなので今更違和感も何もねぇという気もするのだが、表示の一部から異様な雰囲気がするのだ。
ただ、それついて深く考えるよりも先に、その数値に俺は驚愕した。
あの配列と数値が正しければ、Lv78、最大HP602だ。
他の数値も俺より遥かに高い。
俺が散々苦しめられたあの大ムカデでさえ瞬殺しかねない高ステータスだ。
「別に、こっちの剣使わなくてもよかったかな」
男はそう言ってから手にしていた剣を腰に差す。
男は、三本の剣を腰に差していた。
その内の一本は、以前に会った兵の持っていた装備と配色が似ている。
あの城壁都市で支給している類のものなのかもしれない。
「ほら、アドフさん。とっととトドメ、刺してくださいよ。このまま何もせずに帰ったら、貴方も偉い方々に顔向けし辛いでしょ?」
「し、しかし、その竜に敵意はなさそうだ。殺そうと思えば、俺をすぐにでも殺せていたはずだ。それに、あそこにいる獣人も……」
「いやでも、僕だって殺す気満々ですけど、まだこの竜を殺してませんよ?」
「いや、それは……」
「僕はわかりますよ。要するにそれ、すぐに殺せると思って舐められてたんでしょ。ね、元騎士団長さん」
男が元騎士団長様と口にしたとき、アドフの表情が強張るのがわかった。
男はアドフの反応を見て、口許を隠して小さく肩を揺らす。
なんだ、アイツ、笑ってんのか?
……こいつらの関係はわからねぇが、ちらちらとこちらを横目で見てくるアドフはともかく、金髪の方はこちらを気にする素振りをほとんど見せない。
背景はわからねぇが、あの高ステータスだ。
よほど自信家なのだろう。
不意打ちが成功したことで、かなり気が緩んでいるのかもしれねぇ。
こっちが動かなければ、トドメを刺してくるまで多少は時間が稼げそうだ。
なるべく刺激しないようにしながら様子を窺って情報を集め、麻痺の状態異常が抜けきるのと、〖HP自動回復〗で体力が戻るのを待たせてもらおう。
状況は最悪だが、こんなときほど冷静に動かなくてはならない。
一歩間違えたら、俺もニーナも玉兎も殺されかねない。
こいつのステータス、さっき妙な気配を感じたところを部分的に除外して見ることができれば、ひょっとしたら文字化けを防げるかもしれねぇ。
初めてスライムを見たときはLv3だった〖ステータス閲覧〗も、今やLv6だ。
それくらいの応用はできたっておかしくない。
俺は男の横顔を睨みながら、再びステータスの確認を行う。
【通常スキル〖ステータス閲覧:Lv6〗では、正確に取得できない情報です。】
脳裏に浮かんでくるステータス画面の中から、一部分を意識的に取り除く。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
〖イルシア〗
種族:アース・ヒューマ
状態:通常
Lv :78/100
HP :602/602
MP :552/552
攻撃力:354
防御力:264+76
魔法力:347
素早さ:325
装備:
体:〖水竜の衣:B+〗
*****:
〖***:Lv--〗
特性スキル:
〖神の声:Lv7〗〖精霊の加護:Lv--〗〖妖精王の祝福:Lv--〗
〖光属性:Lv--〗〖グリシャ言語:Lv6〗〖剣士の才:Lv9〗
〖気配感知:Lv6〗〖忍び足:Lv7〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv6〗〖魔法耐性:Lv6〗〖闇属性耐性:Lv7〗
〖幻影耐性:Lv5〗〖毒耐性:Lv5〗〖呪い耐性:Lv3〗
〖石化耐性:Lv5〗〖即死耐性:Lv4〗〖麻痺耐性:Lv3〗
通常スキル:
〖ステータス閲覧:LvMAX〗〖衝撃波:Lv6〗〖十連突き:Lv5〗
〖天落とし:Lv6〗〖地返し:Lv5〗〖ルナ・ルーチェン:Lv7〗
〖サモン:Lv7〗〖ミラージュ:Lv3〗〖ホーリー:Lv5〗
〖ハイレスト:Lv5〗〖クイック:Lv4〗〖パワー:Lv5〗
〖マナバリア:Lv2〗〖フィジカルバリア:Lv4〗
称号スキル:
〖選ばれし者:Lv--〗〖英雄:Lv5〗〖勇者:Lv7〗
〖狡猾:Lv9〗〖悪の道:LvMAX〗〖嘘吐き:Lv8〗
〖卑劣の王:Lv9〗〖災害:LV3〗〖ラプラス干渉権限:Lv3〗
〖蟲王との契約者:Lv--〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
上手く行った。
こいつ、ステータスのスキル分類がひとつ多い。
なんか違和感があると思ったら、そこだったのか。
今となってはわからねぇが、スライムも枠が多かったんだろうか。
ただ、そんなことを考察してる場合じゃねぇ。
全体を見て、改めて痛感させられた。
コイツと戦ってもまず勝ち目はねぇ。
ムカデとタイマンした方がまだマシだ。
おまけになんでコイツ、俺と名前が同じなんだ?
セカンドネームもなく、完全にイルシアだ。
元は花の名前だったはずだから、被ること自体はそこまでおかしくないのかもしれないが……。
今まで見てきた中で、ファーストネームのみの人間はいなかった。
昔身分の低いものは姓を持っていなかったらしいが、この男にそういった低層民の雰囲気はない。
俺のいた世界とこっちじゃ仕組みが違うんだろうが、それにしても妙だ。
他にも〖神の声〗やら称号スキルやら、不審な点が多すぎる。
本当になんなんだコイツ。
男がアドフから目線を外し、こちらを見る。
一気に目線を鋭く吊り上げさせ、舌打ちをしながら俺へと身体の向きを変える。
「じろじろじろじろ鬱陶しい。もういいよ、元騎士団長さんがやらないんなら、僕がやるからさ」
まずい、こっちに来る。
まだ麻痺が残ってるが、対処しきれるか?
そもそも逃げるか戦うか、どっちもリスクが高過ぎて、行動方針が定まらねぇ。
『ドコ、見テイル。上ダ』
急に念話が聞こえてくる。
上? 何の話だ?
「ああ?」
男にも聞こえていたようで足を止め、宙へと目線をやっていた。
次の瞬間、男の足許の砂が飛び散り、玉兎が顔を出した。
「ぺふぅっ!」
玉兎の身体を中心に五つの炎の玉が現れ、それが一気に男へと飛び掛かる。
玉兎のスキル、〖灯火〗だ。
男は後ろに下がりながら間合いを取り、素手で炎の玉を掻き消した。
玉兎の姿が見えないと思っていたら、隙を見て穴を掘り、アイツの足許まで移動していたらしい。
「グ……グルァァァァッ!」
お、おい! 玉兎、何やってんだ!
お前の勝てる相手じゃねぇぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます