第148話

 玉兎とニーナを背に乗せて海沿いに歩き、この先にあるという港街を目指す。

 ゆっくりと旅を楽しんでみたいというニーナの意思を尊重し、速度はかなり遅くしている。

 一面砂漠で景色が変わらないから観光には向かねぇと思っていたが、やっぱし海はいい。

 玉兎とニーナは俺の背の上で身を寄せ合いながら、遠い海の方を眺めている。


 首を反対側へと向ければ、サボテンの傍で三つ首ラクダが休んでいるのが視界に入った。

 やった、超ラッキーじゃん。水分に肉まで揃ってるとか、鴨がネギ背負ってやってきたようなもんじゃねぇか。

 そろそろ飯を調達する必要があったしな。


「グルァッ」


 俺は軽く鳴き、進路の変更を身体に乗っかっている一人と一体へ告げる。


 降ろすのもなんだし、このまま三つ首ラクダを強襲すんぞ。

 ちょっとくらいなら大丈夫だよな。しっかりしがみついといてくれよ。


「ぺふっ!」

『走ルカラ、シガミツイトイテッテ』


「にゃ、はいっ!」


 ニーナには玉兎が〖念話〗で伝えてくれたようだ。

 俺へと返事を返した後、ニーナは腕で、玉兎は耳で俺の背にしがみついた。

 俺は速度を上げ、三つ首ラクダへとダッシュする。


「ノグェッ!?」


 三つ首ラクダの一つの頭がこちらに気付く。

 残りの二つの頭もこちらに目を向け、目を見開きながら起き上がる。

 それから俺が来るのとは反対方向へと、えっちらおっちら逃げようとする。


 俺は地を蹴って宙に飛び、翼を使って三つ首ラクダのいる斜め下へと〖鎌鼬〗を放つ。


 風の刃が三つ首ラクダの身体を抉り、その動きを止める。

 俺は着地すると同時に腕を振るい、爪で三つ首ラクダの首を三つ同時に刎ねる。


【経験値を28得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を28得ました。】


「グルァッ?」


 結構動いたけど、大丈夫だったか?


「ぺふっ」

『大丈夫ダッタ、ッテ』


「は、はいっ! にゃ、えっと、楽しかったです」


 玉兎の〖念話〗翻訳、かなり上達してきてるな。

 もうこれ、リアルタイムで会話成立してるじゃねぇか。

 魔物と人間の橋渡し役としてやっていけるぞ。


 〖人化の術〗だと上手く舌回らねぇし身体中の違和感凄いし、おまけに身体中一気に怠くなるしMPも大幅に持っていかれるし、こっちの方が断然いいな。

 焦っちまうから義務的に伝えたいことを伝えるだけってのが前面に出ちまうし、こっちの方が会話してる感があるぞ。ようやくまともな意志の疎通が取れ始めてきた気さえする。

 やべぇ、楽しいしなんか嬉しい。


 もっと玉兎の〖念話〗のスキルレベルが上がったら、もうちょっと砕けた調子の会話とか世間話とかもできるようになってくるんじゃねぇのか?

 他の人間と接触するときも、玉兎を翻訳に立たせたら余計な戦闘の回避とかできそうだし。

 しばらく玉兎のMPは全部〖念話〗に使ってもらうことにしよう。


「ぺふっ」

『ニク、ニク、ニク!』


 わかったわかった。

 多めに喰わせてやるから、頼んだぞ高給取り翻訳者。


 俺はニーナと玉兎を降ろし、三つ首ラクダの解体作業に入る。

 爪で腹を裂いて内臓を掻き出し、パーツごとに切断して毛皮を剥ぐ。

 これもすっかり慣れちまったもんだな。

 今更だけど、多分、前世の俺なら卒倒もんなんだろうな。


 〖灼熱の息〗で焼き上げた肉を食べやすいように更に切り分け、砂の上に敷いた毛皮に載せる。

 コブの部分も切り分け、別物として横に添えておく。


 次にサボテンを爪で切断し、こちらも食べやすいように切り分けて肉に並べる。

 うんうん、なかなか綺麗に仕上がったな。

 俺〖竜鱗粉〗の病魔散布さえなかったらコックとしてやっていける自信あるぞ。

 今回は特に見かけに気を遣ってみたからな。


 ……そろそろニーナと、お別れかもしれねぇんだし。

 だからってわけじゃねぇけど、なんかこういうのはちょっとでも丁寧にやっときたいんだよな。


 なんか他に、ニーナのためにできることがあったらいいんだけど……。

 せめてこう思い出を作ってやるっていうか。


 あ、そうだ。

 これ、毛皮を細めに切ったら糸みたいなの作れるんじゃね?

 骨使えば棒の部分もできるし、頑張れば釣り竿っぽいものが作れるかもしれねぇ。

 ちょうど海だってあるんだし。


 港街までそこまで遠くないらしいし、ニーナの身体にもまだ異常はない。

 ちょっとくらい寄り道してみたって、バチは当たらねぇだろう。


 俺は余っている毛皮の端を、なるべく細めに切断する。

 何回か失敗したが、どうにかかなり細めのものを作ることができた。

 うし、次はラクダの背骨を整えて……。


「ぺふぅ……」


 玉兎が耳で俺をちょんちょんと突いてくる。

 何かと思って振り返ってみれば、口の舌が涎で濡れている。

 わ、わかったわかった、飯を先にするって。


 にしても意外だな。

 玉兎なら、俺が熱中してるのをいいことに、黙って先に喰ってそうだったのに。

 ああ、ニーナと飯の時間を合わせるためか……。


 玉兎、最初に会った頃は食い物にしか興味ないのかと思ってたが、結構ニーナに懐いてるんだよな。

 たまに俺抜きで〖念話〗で話してることもあるみたいだし。

 

 ……場合によっては、港街へニーナのお供に玉兎を置いていくのもありなのかもしれねぇな。

 玉兎なら魔物だからって無条件に攻撃されることもねぇんじゃないだろうか。

 確信はないから探りながらになるが、もしも上手く行けば港街でのニーナの扱いを和らげる要因になるかもしれない。


 玉兎なら〖念話〗に〖クリーン〗、〖レスト〗まで使える。

 人間の役に立ち、好かれる要素はいくらでもあるだろう。


 ただそうなったら……俺はまた、一人旅か。

 ま、まぁ、それはそれでいいよな。

 レベリングと称号スキル上げに専念して、善進化目指せるわけだし。

 ……そうなったら、人里にも顔出せるようになって、様子見に行けたらいいんだけどな。


「…………」


 俺の思考を読んだのか、玉兎がじぃっと俺を見ていた。

 な、なんか、こういう思考読まれるの恥ずかしいな。


 勝手に自分の行くところを決めるなと怒るか、賛同するかのどちらかかと思ったのだが、玉兎はすっと気まずげに俺から目を逸らすだけだった。

 な、なんだ?

 気にかかることがあるのなら、ちゃんと〖念話〗で言ってくれねぇとわかんねぇぞ。

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