第142話

「グフゥー……」


 目前に転がっている二体の赤蟻の亡骸の遺体を眺めながら、溜め息をひとつ吐く。

 片方は首の部分がグラグラになっており、もう片方は拉げた身体から万遍なく体液が滲み出している。

 蟻とはいえ、こうもデカイと死体もなかなかグロテスクだ。

 まぁ、モンスターの死体なんて見慣れたっちゃ見慣れたんだけどよ。


 結構がっつりレベル上がったし、またステータス確認しとくかな。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖イルシア〗

種族:厄病竜

状態:通常

Lv :42/75

HP :172/339

MP :193/232

攻撃力:291

防御力:222

魔法力:201

素早さ:185

ランク:B-


特性スキル:

〖竜の鱗:Lv5〗〖神の声:Lv4〗〖グリシャ言語:Lv3〗

〖飛行:Lv5〗〖竜鱗粉:Lv5〗〖闇属性:Lv--〗

〖邪竜:Lv--〗〖HP自動回復:Lv3〗〖気配感知:Lv4〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv4〗〖落下耐性:Lv5〗〖飢餓耐性:Lv4〗

〖毒耐性:Lv5〗〖孤独耐性:Lv6〗〖魔法耐性:Lv3〗

〖闇属性耐性:Lv3〗〖火属性耐性:Lv2〗〖恐怖耐性:Lv2〗

〖酸素欠乏耐性:Lv3〗〖麻痺耐性:Lv2〗〖幻影耐性:Lv2〗


通常スキル:

〖転がる:Lv7〗〖ステータス閲覧:Lv6〗〖灼熱の息:Lv5〗

〖ホイッスル:Lv1〗〖ドラゴンパンチ:Lv3〗〖病魔の息:Lv3〗

〖毒牙:Lv3〗〖痺れ毒爪:Lv4〗〖ドラゴンテイル:Lv2〗

〖咆哮:Lv2〗〖星落とし:Lv2〗〖くるみ割り:Lv3〗

〖人化の術:Lv4〗〖鎌鼬:Lv3〗〖首折舞:Lv3〗


称号スキル:

〖竜王の息子:Lv--〗〖歩く卵:Lv--〗〖ドジ:Lv4〗

〖ただの馬鹿:Lv1〗〖インファイター:Lv4〗〖害虫キラー:Lv3〗

〖嘘吐き:Lv2〗〖回避王:Lv2〗〖救護精神:Lv7〗

〖ちっぽけな勇者:Lv5〗〖悪の道:Lv6〗〖災害:Lv5〗

〖チキンランナー:Lv3〗〖コックさん:Lv4〗〖卑劣の王:Lv4〗

〖ド根性:Lv2〗〖|大物喰らい(ジャイアントキリング):Lv1〗〖陶芸職人:Lv4〗

〖群れのボス:Lv1〗〖ラプラス干渉権限:Lv1〗

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 よしよし、そろそろ攻撃力が300台に乗りそうだ。

 この調子だとLv最大まで持ってったら大ムカデ相手でも善戦できそうだな。

 つーか、進化してからちょっとLv上げたら一方的にフルボッコにできんじゃね?

 散々いいようにやられてきたんだし、全ステ350越えて絶対余裕だって判断できたらリベンジしてやっかな。

 多分これ、進化先によっては次でAランクになれるんだろうし。

 そこくらいまでいったら大ムカデ持ち上げながら飛んで頭部を地面で擦ってやることだってできそうだ。


 モンスターのランクって、アルファベット的にAで最大なんかな。

 ひょっとして次でそろそろ最終進化だったりするんだろうか。


 そもそもこれ、アルファベットなんだよな? 

 こっちの世界の人間がAだのBだの言ってたら怖いし、俺に合わせての表示なのか?


【特性スキル〖神の声:Lv4〗では、その説明を行うことができません。】


 ……お前にゃ聞いてないっつうの。

 スキルLvに関係なく教えてくんないくせに、まだそのときではないみたいに勿体振りやがって。


 これで通路の先が進めるわけだが……なんというか、しょっぱなからあんなの出てきたら怖くなってきたぞ。

 まだ後ろでは大ムカデが暴れてるはずだし、引き返すって選択肢はねぇんだけどさ。


 前に目を向ける。

 通路の先から、またいくつかの気配が漂ってくる。

 んだよ、キリねぇな。

 かんっぜんに魔物の巣窟じゃねぇかここ。


 入り口から洩れる光以外ないから、これ以上進むと完全に真っ暗だし。

 人間の頃よりはかなり目がいいみたいだが、さすがにこっから先は見えねぇな。

 こっちから奥に進むよりも、まだギリギリ周囲が見えるこの辺で迎え討つのがベストか?

 住居にしてる向こうの方が暗闇には慣れてるだろうし、闇の中でも他の生物を感知できるスキルが発達してる奴もいるかもしれねぇ。


 俺は玉兎を振り返る。

 玉兎の周囲には二つの火の玉が飛び回っている。

 〖灯火〗のスキルだ。

 暗くなってきたので、灯り代わりにつけたのだろう。

 名前的に攻撃よりも元々そういう目的のものっぽいしな。


「グルァッ」


 それ、もうちょっと強くできねぇか?


「ぺふっ」


 玉兎は俺の意図を読み取ったらしく、こくりと小さく頷く。

 周囲を飛んでいた火の玉が三つに増え、サイズが一回り大きくなった。

 こいつ、着実に成長してやがる。

 本気出したらもっと火の玉の数増やせるんじゃねぇのか。


 玉兎マジ万能過ぎるだろ。

 この世界の住人は玉兎を保護して養殖して増やし、一家に一台配備するべき。

 ああ、食費で国が亡ぶか。

 むしろそれだけでは収まらず、増えた玉兎が世界中の家畜や畑を喰い荒らすまで考えられるぞ。

 最後には共喰い地獄だな。恐ろしや。


「……ぺふ?」


 玉兎が怪訝気な目を俺に向ける。

 いかんいかん、〖念話〗のスキルで思考を盗み見できるのを忘れていた。

 強く念じない限りきっちりは掴まれんだろうが、機嫌損ねたら火消されかねない。

 俺は軽く首を振って雑念を取り払う。


 さて、これで大分明るくはなったな。

 この調子ならこっちからも充分に打って出ることが可能だが、どうすっかな。

 幸いここは長い直線通路みたいだし、下手に動かず間合いを取った状態から相手の数と性質を確認できるこの状態を維持した方がいいか。


 しかし……〖気配感知〗から察するに、結構多そうだな。

 この通路を安全に通るためには、いったいどれだけの敵を倒さねばならないのか。

 相手が雑魚なら〖転がる〗で押し通るのもありなんだが、実力差見誤ったら止められてリンチくらいパターンあるからな。

 まずは敵を確認しねぇと。


 じっと待っていると、直線通路先の角から、赤蟻が頭を覗かせるのが見えた。


「クチャッ」


 また赤蟻かよ!

 二体紛れ込んでただけかと思ってたが、まだ数体残ってるみたいだな。


 先頭の赤蟻の後を追うように、更に二体の赤蟻が姿を見せる。


「クチャッ」「クチャ、クチャッ」


 おいおい、今度は三体かよ。

 こんなん突破できんのか?


 いや、さっきよりレベルも上がってるし、どうにかなると信じるしかねぇな。

 元より選択肢はない。覚悟を決めろ、俺。

 むしろあんな奴ら、丁度いい経験値じゃねぇか。


 喜べ玉兎、今日の食い物はいっぱいあるぞ。

 前世知識チートで蟻の佃煮を山ほど作ってやんよ。まずは醤油から作らねぇと。


 三体に続き、更に四体出てくる。

 俺の傍に同胞の死体があることに気付いているのか、明らかに殺気立っていた。

 リトルロックドラゴン七体相当である。

 ちょっと広めの村ひとつオーバーキルできる戦力だぞ。

 あの二体はひょっとしたら加勢が来るまでの足止めだったのかもしれない。


「グ、グゥ……」


 さすがに俺は怖気づき、無意識に半歩下がっていた。

 い、いや、行ける。行けるはずだ。

 この狭さを活かした戦法が何かあるはずだ。

 俺のスキルだけじゃない。玉兎とニーナのスキルも思い返し、今一度考え直せ。

 赤蟻のスキルは、通常の蟻の習性、性質は?

 そこから何か、思わぬ突破口が見えてくるはずだ。

 玉兎に呼びかけてもらって、交渉の余地を探るか?

 諦めたらマジで死ぬぞコレ。

 考えろ、考えろ俺。


 何か利用できそうなものは落ちてねぇか?

 壁に脆い部分とか……。

 この壁、注意して見てみれば、頑丈そうな割には凹凸が目立つような気がするぞ。


 目を前にやる。

 赤蟻がクレイで作った赤い土の壁、その破片。

 強度は全然違ったが、色合いがほぼ同一だ。

 ひょっとしてこの通路、遺跡でもなんでもなくて赤蟻の巣穴じゃね?


 七体に続き、更に後ろからぞろぞろと赤蟻が湧いてくる。

 一、二ぃ……三……うわ、列途切れねぇ。あ、もう数えるのいいや。これ、死んだわ。

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