第126話

 砂漠のど真ん中に位置する、謎の小さな湖。

 ぎゅうぎゅうに詰めれば俺が二体同時に入浴できる程度のスペースを持っている。

 〖竜鱗粉〗塗れになりそうだからそんなことはしねぇけどな。

 せっかく透明質の綺麗な水なのに、不浄な俺が入ったら台無しだからな。不浄な俺が。


 湖を中心に、色とりどりの植物が咲いている。

 見ているだけで心が晴れ晴れするような気分だ。

 これはアレか、オアシスって奴か。


 地下に水脈が通ってんのかな。

 いや、この世界のことはよくわかんねぇからな。

 湖の奥底にクリスタルがあってそこから水が噴き出てます、みたいなのもあるかもしれねぇ。


 近づいていくにつれ、俺の〖気配感知〗が反応を示し始めてきた。

 こりゃあ先客さんがいるな。

 あんまし危ない奴じゃなきゃいいんだけど……と思いながら湖を見ていると、花畑の中から何かが起き上がった。


 なんだアレ、岩みたいな色してやがるから気付けなかったわ。

 巨大なナメクジか?


 体表はぬめり気があって、黒に近い緑色をしていて、とにかく不気味だった。

 あの華やかなオアシスと比べ、ミスマッチにもほどがある。

 もっさもっさと、根から噛み千切るように花畑を喰い荒らしている。


 あれ、土ごと喰ってるよな。

 ウチの玉兎も、あそこまで意地汚くはなれないぞ。


 あのドブナメクジ以外に、これといった反応はないな。

 あっても小っちゃくて弱々しい気配だ。気にするほどではない。

 食欲そそる外見じゃあねぇが、あそこを拠点にするならアイツを排除しなきゃいけねぇだろうな。


 距離があるから強さはわからねぇが、あのサボテンお化けくらいのサイズは持ってやがる。

 大きさ相応の強さだとしたら、玉兎とニーナを連れて戦うのは難しいかもしれねぇな。


 すっと屈み、湖の手前で一体と一人を降ろす。

 ニーナのボディーガード、ちょっとの間任せるぞ玉兎。


 大ナメクジも俺に気付いたようで、俺へと向けている二本の触角をピクピクと震わせる。


 俺は花畑と砂漠の狭間に立ち、大ナメクジと対峙する。

 ステータスチェック!


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:アマガラシ

状態:普通

Lv :26/50

HP :207/207

MP :94/94

攻撃力:190

防御力:188

魔法力:138

素早さ:163

ランク:C


特性スキル:

〖軟体:Lv--〗〖粘性の体液:Lv--〗

〖吸水:Lv3〗〖MP自動回復:Lv5〗


耐性スキル:

〖麻痺耐性:Lv2〗〖毒耐性:Lv4〗

〖魔法耐性:Lv4〗〖混乱耐性:Lv5〗


通常スキル:

〖蜃気楼:Lv5〗〖雨乞い:Lv3〗〖穴を掘る:Lv3〗

〖水鉄砲:Lv5〗〖産卵:Lv4〗〖吸血:Lv2〗

〖砂嵐:Lv2〗〖伸縮:Lv3〗〖自己再生:Lv3〗


称号スキル:

〖楽園の支配者:Lv--〗

〖幻術使い:Lv3〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 おいおい、こんなナリでCランクモンスターかよ。

 見かけによらずスピードもあるし、俺の嫌いな〖蜃気楼〗もLv5まで上げてやがる。


 ま、つってもステータスはリトルロックドラゴン程度だ。

 以前の俺でも勝てたんだ。

 あれから俺もLvは上がってるし、まともに数発くらわせてやればそれだけで伸びるだろう。

 コイツ倒さなきゃオアシスは手に入んないんだし、玉兎とニーナのためにも退けるかよ!


 玉兎は置いて来て正解だったな。

 アイツじゃ、まだまだこのランクのモンスターとは太刀打ちできねぇ。


 うし、集中しろ集中!

 〖気配感知〗を常に警戒モードだ。

 〖蜃気楼〗もらって長期戦に持ち込まれるのが一番じれったい。

 ステータス差はあるんだし、スピード解決しちまいたい。


 俺は花畑に足を踏み入れ、そのまま一気に大ナメクジとの距離を詰める。

 大ナメクジは上体を持ち上げ、俺を威嚇する。


「シャァアアアッ!」


 大ナメクジの身体が二重にダブり、二体に分かれる。

 分裂なんてスキル、持ってねぇことはわかってんだよ!


 右側は偽者、左側も本当の位置とはちょっとずれてるな。

 〖気配感知〗が、ばっちり教えてくれる。

 残念だったな大ナメクジ。


 気配へと目を向け、幻から意識を外す。

 視界が揺らぎ、右側の大ナメクジがふっと消えた。


【耐性スキル〖幻影耐性:Lv1〗を得ました。】


 よっしゃ、新しい耐性スキル来た。

 このまま殴り飛ばしてやんよ。

 足に力を込め、地を蹴って低空飛行する。


 俺は空中で手を振り上げ、大ナメクジの頭部へと鉤爪を叩きつける。

 体重を預けた鉤爪が大ナメクジの体表に突き刺さる。

 指に力を入れて鷲掴みにし、肉を抉り取った。


「アジャァァァアァァツ!」


 グチャリと体液が飛び散り、大ナメクジが絶叫を上げる。

 俺はそのまま勢いに任せ、大ナメクジの真横を通り抜ける。


 爪に残る、大ナメクジの肉片。

 俺は手を勢いよく上下に振るい、辺りに撒き散らした。


 身体を回しながら着地し、大ナメクジの方へと振り返る。

 大ナメクジは、左っ腹の周辺からボトボトと体液を垂れ流しにしていた。


 ミスったな。

 正面からぶち当てたつもりだったが、〖蜃気楼〗のせいで微妙に狙いがズラされたか。

 気配は掴めても、やっぱ最終的には目で判断する癖がついちまってるからな。

 いっそのこと目を瞑って戦うか? いや、それはそれで問題があるっつうか……。


 防御はあるけどHPそこまで高くねぇし、まともにヒットしたら一撃で倒せると思ったんだけどな。

 あれでも充分致命傷ではあるが、すでに欠損した部位に肉が生えてきている。

 〖自己再生〗のスキルだな。

 〖MP自動回復〗のスキルLvも高いし、引き伸ばされてたらキリがねぇわ。


 大ナメクジから伸びる二本の触角の先端が、ピンと俺の方へと向けられる。

 デカイナメクジって、あんまり見たいもんじゃねぇなぁ……。

 いや、小っちゃいのもゴメンだけどさ。


 今のやり取りでこっちの攻撃力の高さはわかっただろうし、警戒してるみてぇだな。

 特に危なそうなスキルは持ってねぇみたいだけど、結構素早いからそこだけは要注意だな。

 〖蜃気楼〗対策に〖気配感知〗も研ぎ澄ませとかなきゃ。


 防御力的にブレス技が通るかはわかんねぇが、相手の気を引くくらいにはできそうだな。

 針ラクダ戦のせいでMPがあんましねぇけど、最初から威力捨ててフェイント用として使えばMP消費も抑えられるはずだ。

 次の一撃で仕留めてやんよ。


 俺が再び足に力を入れて飛び掛かる体勢を取ると同時に、大ナメクジは口から液体を噴出し始めた。

 半透明で、粘性が強そうな液体だ。

 俺に当てるつもりはなく、自分の周辺にばら撒いているようだ。

 なんだ、なんのつもりだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る