第109話

 朝、砂の上で目を覚ます。

 まだ二日目だが、野晒しの睡眠にも慣れつつあった。

 玉兎が潜り込んでいる砂山を確認し、少し安堵する。


 本当はもうちっと寝たかったんだけど、なんか強烈な気配が近づいてきてるんだよな。

 俺の〖気配感知〗のスキルが煩く反応してやがる。安心して寝ていられねぇ。


 辺りは更地だから敵に発見されやすいが、遠くにいる敵の姿を見つけられるってのは利点だな。

 身体を起こし首を捻れば、気配の根元はすぐに見つかった。


 砂煙を立てながらこっちへ向かってくるのは、砂色の巨大ムカデだった。


 やべぇ、逃げねぇと。

 玉兎には寝起きのところ悪いが、早速俺の口の中に入ってもらおう。

 普通にえっちらおっちら走ってたんじゃ確実に追いつかれちまう。


 あれ、でも……俺達の方からはちっとずれてるな。

 ただ別のところに向かってるって感じでもなさそうだけど……あれ、先頭になんか走ってる?


 巨大ムカデの先に、馬車が走っていた。

 前世では見たこともないような大柄の馬が二匹並んでおり、力強く馬車を牽いている。


 だが、それも巨大ムカデに対してはジリ貧のようだ。

 あのままだと、馬車は巨大ムカデに解体されちまう。


 クソッ!

 あの馬車、何を思ってあんな化け物のいる砂漠を突っ切ろうとしてやがったんだよ!


 俺は玉兎の砂山を横目で確認してから、巨大ムカデを追って駆け出す。

 あのサイズ相手に闘って勝てる勝算はねぇが、巨大ムカデの気を引いて馬車を逃がすことくらいはできるはずだ。


 俺はいざとなったら空中に逃げられる。

 挑発だけして、さっと離脱することにしよう。

 ほとぼりが冷めてからまた玉兎を回収しに来よう。


 俺がいない間に喰われたりしなきゃいいんだけど……。

 あいつも俺が来る前は一人でサバイバルしてたわけだし、ちょっと目を離すくらいならば大丈夫なはずだが、それでも少し心配だ。

 口の中に入れて運んできた方が良かったかとも思ったが、下手したらそっちの方が危険だしなぁ……。

 今回の敵は、豹やラクダみてぇに片手間に倒せる奴じゃねぇ。

 ブレスや噛みつく系統の技が必要に迫られる可能性もあるし、戦闘に夢中になってる内にごっくんなんてしたら目もあてられねぇ。



 俺は〖転がる〗を使い、巨大ムカデを追う。

 まさか逃げようとしてた相手を次の瞬間には追い掛けることになるなんて、思いもしなかった。


 巨大ムカデは俺を無視して馬車を追う。

 チッ! ちょっとはこっちにも目向けやがれっつうの。

 わざと音を立てるようにしてはいるんだが、完全にシカトしてやがる。

 砂漠の覇者はドラゴンよりも馬とか人間を食べたいらしい。

 俺だって、ベビードラゴンのときは高級食材扱いだったんだぞ!


 一方馬車を牽く馬は、チラチラと俺の方を見てくる。

 馬の表情なんてわからねぇが、俺にビビッていることだけはなんとなくわかる。

 一応俺、助けに来たんだけどな……。

 まぁ、馬の気持ちもわかるけどよ。

 砂漠走らさせられて、巨大ムカデに追われて、挙句にその後ろから鱗の塊みたいなんが転がってきたら、そらこの世の終わりだとも思うわな。

 地獄に仏っつうか、地獄に閻魔だもんな。

 トドメだとこそ思えど、救いだとは思えねぇよな。


 俺は力を振り絞って一気に加速し、丘になっているところを利用して大きく飛び跳ねる。

 回転力に重力加速度を乗せ、巨大ムカデの尾を轢き潰す……つもりだったが、予想外にムカデの身体が固く、潰すことはできなかった。


 俺はそのまま右斜め前に駆け抜けたが、巨大ムカデが俺へとターゲットを移す様子がまったくなかったため、再度こっちから巨大ムカデを追い掛けることとなった。

 あいつ、一旦ターゲットに目をつけたら、ちょっとやそっとのことでは対象を移さないタイプの奴だな。

 上手く俺に対象を移せても、逃げ切れるかどうか怪しく思えてきたな。


 最後尾部分に打撃を加えられ巨大ムカデは僅かに減速したものの、再びまた加速して元の速度に戻りつつあった。

 開いた馬車との距離を着実に埋めていく。


 〖転がる〗のタックルでまさか止まらねぇとは思わなかった。

 だが、一発で止まらねぇっつうのなら、何回だって小突いてやるまでよ。


 巨大ムカデと俺の距離が縮まったところで、俺は〖ステータス閲覧〗を使う。

 ステを確認してから、こいつがどうやったら俺を見てくれんのか走りながら考えることにすっか。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ジャイアント・サンドセンチピード

状態:通常

Lv :62/80

HP :448/448

MP :236/236

攻撃力:324

防御力:297

魔法力:194

素早さ:234

ランク:B


特性スキル:

〖多足類:Lv--〗〖蟲王の甲殻:Lv6〗〖土属性:Lv--〗

〖HP自動回復:Lv5〗〖気配感知:Lv4〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv5〗〖魔法耐性:Lv2〗〖落下耐性:Lv4〗

〖毒耐性:Lv6〗〖麻痺耐性:Lv2〗〖混乱耐性:Lv2〗

〖睡魔耐性:Lv3〗


通常スキル:

〖毒毒:Lv5〗〖穴を掘る:Lv6〗〖サンドブレス:Lv4〗

〖クレイウォール:Lv3〗〖麻痺噛み:Lv2〗〖酸の唾液:Lv4〗

〖熱光線:Lv3〗


称号スキル:

〖百足の王者:Lv--〗〖砂漠の主:Lv6〗〖不退:Lv4〗

〖執念:Lv6〗〖チェイサー:Lv5〗〖最終進化者:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 予想はしてたけど、あまりにエゲつねぇ。


 BランクLv62って化け物過ぎんだろ。

 〖攻撃力:324〗って、まともに直撃もらったら一発KOされるレベルじゃねぇか。

 俺、この前200台に乗って喜んでたところなんだぞ。

 挑発するだけして逃げそびれたら酷い目に遭いそうだな。


 つか、〖熱光線〗ってなんだよ。

 きっちし遠距離攻撃の手段まで持ってやがるのか。

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