第107話

 浜辺での食事を終えた俺は、玉兎を頭に乗せ、次の獲物を探して砂漠を歩く。

 Dランクのモンスターだと相手を完全に動けなくしてから玉兎を参戦させる必要があるし、E+ランクくらいの敵のが玉兎のLv上げには丁度いいんじゃねぇかな。

 それくらいなら玉兎でもちょっとはまともに戦えるだろ。


 ただステを見るに、玉兎は魔法特化なんだよな。MPが0なのが気掛かりだ。

 今日はもう休ませようかとも考えたが、〖竜鱗粉〗のことを考えれば、あまり悠長なこともいっていられない。


 とはいえ下手に焦れば、玉兎を無駄死にさせることに繋がるかもしれない。

 そもそも竜鱗粉の病魔が、予兆が出始めたときに離れれば大丈夫なものなのかどうかも怪しい。

 今日の玉兎の育成はここで終了として、〖病魔の息〗の実験に専念すべきか?

 どっちにしろ、玉兎を単体で置いて離れるわけにもいかねぇからなぁ……。

 〖病魔の息〗のテストがてら、余裕があったら玉兎のレベル上げか。



 ……因みに今玉兎は、俺の頭の上に肉を数枚敷き、ゆっくりと食事を行っている最中である。

 よほど豹の焼肉が気に入ったらしく、じっくり味わって食べたいらしい。

 それはいいんだけど、俺の頭の上で食べカス零すのマジでやめてくれ。

 景色見ながらのんびりと肉喰いやがって、羨ましい。

 いつか進化を重ねて俺よりデカくなったら交代してもらおう。

 いや、さすがにそこまでは無理か。



 肉を落とさないよう気を遣いながら進んでいると、以前見た三つ首ラクダが遠くに見えてくる。

 相変わらず身体中コブだらけのグロテスクな外見だ。

 あんまし食欲そそられねぇけど、こういう奴のが美味しかったりすんのかな。深海魚とか、結構いけるって聞いたことあるし。


 ラクダのコブって確か中身は脂肪の塊なんだっけか。

 豹肉ぱさぱさしてたから、そういうのもちょっと喰ってみてぇかな。


 俺の視線に気づいたらしく、ラクダは逃げ始める。だが、その足は遅い。

 あんなアンバランスな身体だもんな。

 歩くだけで充分に距離を詰めていける。食事中の玉兎を振り落とさないよう気をつかいながらでも充分に大丈夫だ。


 にしても、そろそろ食事止めてくれねぇかな。

 戦闘になったらさすがにもうちょっと揺れるぞ。

 しっかり乗っててくれないと落ちるぞ、玉兎よ。


 警戒の促しの意を込め、俺は軽く頭を振る。


「ぺふぅ!?」


 玉兎の鳴き声とともに肉が一切れ落ちてきた。

 俺の口先に貼り付き、こそばゆい。

 舌で舐めとって咀嚼する。


 う~ん、さすがにもうちっと塩味薄くした方がいいか?

 つうかこの肉、干し肉にして喰う方が向いてるかもしれねぇな。


「ぺふぅ……」


 頭上から、玉兎の落胆の鳴き声が聞こえてくる。

 今のが最後の一枚だったらしい。


 俺は地を蹴り、翼を使って大きく跳ぶ。

 方向転回しながら地に降り立ち、三つ首ラクダと対峙する。


 向かい合ったところで、とりあえずステータスの確認から入るとするかな。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:モータリケメル

状態:通常

Lv :8/31

HP :78/78

MP :67/67

攻撃力:52

防御力:48

魔法力:23

素早さ:28

ランク:D-


特性スキル:

〖帯食:Lv4〗〖隠密:Lv1〗〖HP自動回復:Lv1〗

〖双頭:Lv--〗〖精神分裂:Lv--〗


耐性スキル:

〖毒耐性:Lv2〗〖火属性耐性:Lv1〗


通常スキル:

〖クレイウォール:Lv2〗〖砂嵐:Lv1〗

〖アクア:Lv1〗〖レスト:Lv1〗


称号スキル:

〖サボテンイーター:Lv2〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 D-ランクか。

 うーん……攻撃的なスキルはないし、玉兎の経験値送り視野だな。


 にしても同じ多頭だからか、ツインヘッドを彷彿させる特性スキルがちょくちょくあるな。

 そういえばツインヘッドは左右の頭で使うスキルが違ったけど、あれ事前に振り分けたりしてんのかな。

 それとも、生まれたときからどっちが何を使うか決まってるんだろうか。

 双頭タイプのドラゴンになるつもりは絶対にないが、ちょっと気になる。



「「「ノグヴェェェエエー」」」


 三つの首が、揃えたように同時に声を上げる。


 俺はすうっと息を吸い、喉奥に魔力を溜める。

 初めて使うスキルだったが、使い方は何となく、本能的に理解していた。


 淀んだ瘴気の息吹が、三つ首ラクダへと迫っていく。

 三つ首ラクダは吹き飛ばされないために踏ん張ろうとしてか、足に力を込める。


 狙いは吹き飛ばしじゃなくて〖病魔の息〗の性能チェックなんだけどな。

 つっても飛ばれたら性能テストできなくて俺も困るし、ぜひ頑張って踏ん張ってもらいたい。


 〖病魔の息〗を吐き終えると、三つ首ラクダも足の踏ん張りを止めた。

 外見に変わりはない。

 とりあえず、ステータスで状態チェックか。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:モータリケメル

状態:呪い(小)

Lv :8/31

HP :73/78

MP :67/67

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ステータス差があったにも関わらず、ダメージはほとんど通っていない。

 それはいい。直接的なダメージを与えるものでないことは、ぱっと見て明らかだった。

 それよりも、状態……〖呪い(小)〗?

 また変わった状態異常が出てきたな。


 三つ首ラクダの様子に変化はない。

 そういや、状態異常に関することなら〖神の声〗が教えてくれたはずだ。

 〖毒α〗の説明を蹴られたことはあったが、あれはきっと、あのときの〖神の声〗のLvが低かったためだろう。

 ましてや自分のスキルに関することなのだから、答えてくれる可能性は充分にある。


【状態異常〖呪い〗】


 お、来たか。


【じわじわと生命力、身体能力が低下していく状態異常。】

【〖毒〗よりも進行は遅いが、その分状態異常を取り除く手段が限られている。】

【軽い〖呪い〗ならば、呪術者と距離を置けば効力が薄れ、自然に消失する。】


 ……どうにも病魔は完全に呪い扱いらしい。

 でもこれなら直接吹きかける〖病魔の息〗はともかく、翼から洩れる程度の病魔なら軽い〖呪い〗の範疇だろう。

 玉兎のステータスに不穏なものが見えたら、さっと別れれば最悪の事態は回避できるってことか。


 何はともあれ、これではっきりしたことがある。

 〖竜鱗粉〗と〖病魔の息〗は仲間を作る邪魔になる上、戦闘で使える代物ではないということだ。

 あの三つ首ラクダ、〖呪い〗入ってるのにピンピンしてやがる。

 説明にもあったように長期向きの技らしい。

 どうにかこれ、捨てれねぇかなほんとに。

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