第83話

「グゥルガァァァァアアアアアァッ!」


 俺の咆哮が、村中に響く。


「ガァァアァオオオオオオオッ!」


 リトルロックドラゴンも、俺に対抗するように大声を上げた。

 そしてそれが合図だったように、リトルロックドラゴンが土煙を上げながら俺へと向かって走ってくる。


 俺は上に飛んで回避し、翼を広げて宙に滞空する。

 〖飛行〗のスキルLvが跳ね上がったお蔭だろう。

 思ったより体力の消耗が激しいため長時間飛ぶのは苦しそうだが、もうわざわざ飛ぶためにブレス技で補助のジェットを掛ける必要はなさそうだ。



 俺はリトルロックドラゴンの背後にある民家の屋根に着地する。

 俺の体重に負け、みしりと屋根の軋む音が鳴る。その屋根を蹴って、リトルロックドラゴンの背に飛び掛かる。


 狙うは、首だ。

 リトルロックドラゴンの身体で一番細く、かつ損傷すれば決して無事では済まないだろう部位。

 成長した鉤爪を、うなじへ叩き付けるように振るう。

 岩肌の表面部が削り飛ぶ。


 そのままリトルロックドラゴンの目前を旋回し、元来た軌道を辿る。

 俺のいた位置へ、リトルロックドラゴンが尻尾を振り回す。

 しっかり見てりゃ、充分避けられる。


 俺は再び、さっきと同じ民家の屋根に乗る。

 地上にいなけりゃ〖地響き〗をくらうこともない。

 そうなりゃ〖地響き〗で動きを止めて〖ドラゴンテイル〗のコンボをくらうこともない。


 もう相手の攻撃を受けることはないし、長引けば長引くほど〖HP自動回復〗で俺は回復できる。

 そして俺は、あの岩肌を傷つける攻撃力を得た。

 後は倒れた村人に意識を向けながら、一方的にリトルロックドラゴンに攻撃し続けるだけだ。

 今のあいつは、ただの岩塊だ。



 俺は再び、屋根を蹴ってリトルロックドラゴンへと飛ぶ。

 リトルロックドラゴンは同じ手はくらうものかと、俺の軌道上に〖サンドブレス〗を放つ。

 砂嵐の息吹を、俺は側転で身体の向きを変えることで悠々と回避。


 むしろ〖サンドブレス〗の狙いを定めるために伸ばされたがら空きの首へと、再度鉤爪を打ち付ける。


 リトルロックドラゴンの尻尾が俺を襲う。

 さっきよりも素早い上、俺の軌道を読んで速さの差を埋めに来ている。

 俺は再び側転をして軌道を不規則にブレさせ、岩塊の鞭を回避してそのまま反対側にあった民家の屋根に上に着地する。


「ガァァアァオオオオオオオッ!」


 リトルロックドラゴンが吠える。

 近くを飛び回り、体表を削られるのが鬱陶しくて堪らないらしい。


 リトルロックドラゴンの足に、ぐっと力が入る。

 また〖地響き〗が来るのか!?

 俺が屋根の上にいる以上、意味がないことはわかっているだろうに。

 ただ怒りのままに、といったふうだ。


 このままリトルロックドラゴンが〖地響き〗を使えば、負傷して未だ地割れに捕らわれている村人達の命が危ない。

 リトルロックドラゴンの前足が大きく持ち上がったのと同時に、俺は勢いよく屋根を蹴っ飛ばした。

 蹴った屋根が割れ、民家の一部が崩れる音がした。


 宙で翼と手足を畳み、〖転がる〗へと移行する。

 〖地響き〗を使おうとしているリトルロックドラゴンの背へ、斜め上から押さえつけるように体当たりする。

 

 リトルロックドラゴンの半端に浮かせていた足が、そのまま地へと押し戻される。

 体勢が大きく乱れ、足に込められていた力が抜けるのがわかった。

 

 ダメージはあまり通らなかったようだが、無事不発に潰せたようだ。


 俺はリトルロックドラゴンの背で大きくバウンドし、そのまま宙で〖転がる〗を解除して翼を広げ、反対側の屋根に着地する。



 俺は魔力で風を纏め、それを翼で前方に押し出す。

 自然と頭が理解する。

 これが新しく得たスキル、〖鎌鼬〗なのだと。


 リトルロックドラゴンの首を、風の刃が襲う。

 二度の爪攻撃で抉った部位を中心に削れ、砂埃が舞う。


 続けて〖鎌鼬〗を放つ。

 一発、二発、三発。

 立て続けに飛ぶ風の刃が、確実にリトルロックドラゴンの首の体表を抉っていく。



 俺はリトルロックドラゴンが俺の方を向くのを待ち、それから屋根を蹴って空を飛ぶ。

 今度は高く、高く飛ぶ。

 そして数度の〖地響き〗で傾きかけている櫓の上へと着地する。


 リトルロックドラゴンが首を大きく持ち上げ、高みにいる俺を睨む。

 それからまた一声上げ、櫓へと突進して来る。

 櫓を体当たりで壊すつもりらしい。


 俺はリトルロックドラゴンを櫓に引き付けてから、櫓の端を蹴って真下へ降下する。

 その次の瞬間にリトルロックドラゴンと櫓がぶつかり、櫓が倒壊する。


 リトルロックドラゴンは落ちてくる俺をブレスで迎撃しようと、首を伸ばして俺を見上げる。

 俺は翼をピンと伸ばして落下速度を上げ、〖サンドブレス〗が放たれるよりも先にリトルロックドラゴンへ接近する。

 そしてそのまま、落下の勢いを殺さないように伸ばされた首に肘を掛ける。


 首を近くで見たらわかった。

 中にあるであろう骨の形、そしてその脆い部分。

 力をどこにどう掛ければ、それがどう作用するか。

 これが〖首折舞〗のスキルの力だろう。


 幾多もの攻撃で体表の削れていた首が、音を立てて折れた。

 リトルロックドラゴンの身体がぐらりと揺れ、静かに地に倒れた。


【通常スキル〖首折舞〗のLvが1から2へと上がりました。】


【経験値を384得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を384得ました。】


 膨大な量の経験値が脳内に表示される。


【〖厄病竜〗のLvが1から19へと上がりました。】

【特性スキル〖竜鱗粉〗のLvが3から4へと上がりました。】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る