第75話

「ガァァァァッ!」


 とにかく村の方へ走りながら、追ってくるマハーウルフを迎え撃てるのに適している地形を探す。

 が、なかなか見つからない。


「グルゥワァァァアッ!」


 ボスマハーウルフは、その体格だけあってかなり速い。

 三体の下っ端を置き去りに、単体で俺を追い掛けてくる。


 こっちもあんまり手加減して走っているわけにはいかねぇ。

 ミリアには悪いが、八割近くの速さで走らさせてもらう。


 このペースだとドーズに追いつきそうだと思ったが、なかなかあいつの姿は見えない。

 ルートをわざと変えているのか?


 ドーズは、明らかに正気ではない。

 妙な状態異常のせいだろう。

 戻る余地があるかもしれない以上、殺すわけにはいかない。


 逃げている相手を生かして捕獲となれば、かなり手間取る可能性がある。

 その間に挟み撃ちをくらうリスクを考えれば、追っ手のマハーウルフを倒し切る前に下手に追いつきたくはないと思う部分もあるのだが。



「グルワァァァァァツ!」


 ボスマハーウルフと下っ端マハーウルフの差が広がっている。

 これなら、ボスマハーウルフと一騎打ちで片付けられるか?


 いや、しかしミリアが……。


「わ、私、戦闘の邪魔になるのなら、一度降ります。身を守るくらいなら、大丈夫です!」


「…………」


 ステータスを見るに、そんなことはまったく思えない。

 ボスマハーウルフの一撃で死にかねない。

 はっきり言って、崖近くまで無事に行けたことが奇跡に近い。


「で、ですから、お願いです! 村を、救ってください! 御礼なら、なんでもしますから! お願いします、イルシアさん! このままだと、村が……」


「…………」


 要するに、自分の安全よりも村の救出を優先してほしい、ということか。

 そこまで言われたら、断るわけにもいかない。


「ガァッッ!」


 小さく鳴いてから急ブレーキを掛け、尻尾を振った力で身体を強引に回し、ボスマハーウルフと向かい合う。

 ミリアが俺の背から飛び降りる。



 ボスマハーウルフの後ろに、三体のマハーウルフが控えている。

 思ったよりも距離が近い。

 あまり時間は掛けられねぇな。


「グルワァァァァッ!」


 飛び掛かってくるボスマハーウルフに、〖ベビーブレス〗を吐き掛ける。

 ボスマハーウルフは先ほど同様、真上に飛んで回避する。

 尻尾で攻撃すると、身体を捻って回避し、それと同時に俺へと燃える爪を伸ばしてくる。 


「ガァァッ!」


 これ以上は宙で身体を動かすことはできないだろう。

 俺は一歩前に出てボスマハーウルフの真下に潜り込む。


 背に〖ファイアネイル〗を受けたが、必要経費だ。

 肉を切らせて骨を断つ。

 〖痺れ毒爪〗で無防備な腹部を深く裂いてやった。


「ガァァッ!」


 麻痺毒が効いて動きが鈍るボスマハーウルフ。

 〖災害〗とかの称号スキル悪化しそうだったからあんまし使いたくなかったが、んなこといってられる余裕はねぇ。

 あんまり使ってねぇから効きは悪いだろうが、数秒効果が持続すればそれで十分だ。


 ボスマハーウルフに抱き付いて腕を封じ、肩に牙を突き立てる。


「グル、グルワァ……」


 思いっ切り地を蹴り、宙に飛び上がる。

 翼を使っても、相手がデカくて重いし、口が塞がっているから〖ベビーブレス〗ジェットも使えない。

 俺はそのまま宙で〖転がる〗を使いながら地に落下し、ボスマハーウルフの頭部を地面にぶつける。


 飛距離を〖転がる〗で補った、簡易〖くるみ割り〗だ。


「グルワァァァァァッ!」


 悲鳴を上げ、ボスマハーウルフが倒れる。



 うし、雑魚三体が来る前にボスを潰せた。

 〖くるみ割り〗の反動がモロに首に来たが、仕方ない。

 後で猩々にマッサージしてもらおう。


 マハーウルフ三体は、右、左、真ん中と大きく広がった。

 ミリアを狙って俺を牽制するつもりらしい。嫌な性格してやがる。


「ガァァァァッ!」


 こっちから突進し、速さが乗ってきたところで手足を畳み、右端のマハーウルフに〖転がる〗でタックルを決める。


「ギャンッ!」


 轢き飛ばされたマハーウルフは断末魔を上げ、呆気なく動かなくなる。


 そのままUターンし、ミリアの元へ向かう真ん中のマハーウルフを跳ね飛ばす。


「ギャインッ!」


 仕留めきれなかったが、後ろ足を巻き込めた。

 追ってこられないのなら放置しても問題はない。


 最後のマハーウルフが、かなりミリアに近づいてしまっている。

 ミリアも逃げているが、彼女の足ではすぐに追いつかれる。


 間に合わねぇ。


「グルワァッ!」


 マハーウルフの一撃がミリアを襲う。


「きゃあっ!」


 爪が彼女の衣服ごと肩を切りつける。

 彼女の白い肩に、赤い生傷ができる。


「グルワァァッ!」


 二発目を振りかぶるマハーウルフの背に、思いっ切り噛みついてやる。


「ギャオンッ!」


 抵抗しようとするマハーウルフを咥え、俺は左右に首を振るい、何度も地に叩きつける。

 〖くるみ割り〗の反動のせいか首が軋むが、おかまいなしに振り続けた。


「グォッ!」「ギャッ!」「ギジャッ!」「ガォッ!」「ァア”ッ!」


 鳴き声が止んでから、地に投げ捨てて転がす。



 これで、追っ手のマハーウルフはひとまず片付いた。

 後は村でドーズを捕まえて拘束し、卵を回収するだけだ。


 後、難点があるとすれば、ドーズを無力化するために俺が村に入らなければならない可能性が高いということと……、


「ガァァアァオオオオオオオッ!」


 後ろから追ってくるリトルロックドラゴンが村に到着するまでに、卵回収が間に合うのか、という点だ。


 村はもう、近い。

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