第74話

「ドーズさんっ! な、なんで……」


 ミリアが、ドーズに声を掛ける。

 ドーズは微かに反応は見せたものの、気味の悪い笑みを絶やさない。


 どうなってんだアイツ?

 マハーウルフと同じように、なんかされてんのか?


 〖ステータス閲覧〗を使い、状態を調べる。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

〖ドーズ・ドグルマード〗

種族:アース・ヒューマ

状態:****

Lv :21/45

HP :47/68

MP :24/24

攻撃力:67+5

防御力:52+2

魔法力:20

素早さ:51


装備:

手:〖汚れた剣:F〗

体:〖赤錆の鎧:F〗


特性スキル:


耐性スキル:


通常スキル:


称号スキル:

〖駆け出し戦士:Lv7〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 装備は弱体化しているが、Lvが大幅に上がっている?

 いや、それだけじゃない。

 スキルが、空っぽになっている。


 こんなことが、あり得るのか?

 確かに俺は、ドーズから〖衝撃波〗をくらった記憶がある。

 というか、言語スキルすらない。

 そりゃ言葉さえ発さないはずだ。



「ヒヒッ!」


 ドーズを乗せたボスマハーウルフが、俺に向かってくる。

 ドーズは剣を抜こうとするが、錆のせいで鞘が外れなかったらしく、舌打ちをしてから鞘ごと剣を構える。

 謎の土塊の球体は、左腕の脇に抱えたままだ。


 四体のマハーウルフは飛び出してこない。

 ボスに任せるつもりなのか?


 迎え撃つため、ドーズを睨んで爪を構える。


「ドーズさん! 正気に戻ってください!」


 ミリアの声に聞く耳を持つ様子はない。

 止まるどころか、ボスマハーウルフのスピードが増す。


「ガァァァァッ!」


 俺が〖ベビーブレス〗を吐くと、ボスマハーウルフは上に跳び上がり、俺に爪を向ける。

 爪は炎を纏い、二本の前足で俺を狙ってくる。

 俺はその二本の前足を両手で押さえ、マハーウルフの動きを止める。


「ヒヒハァッ!」


 ドーズの剣が俺へと伸びる。


「ひ、炎魔法、〖ファイアボール〗!」


 ミリアが手にしていた杖をドーズに振るう。

 杖先から現れた炎の玉が、ドーズの身体を襲う。


「キヒィッ! チィッ!」


 ドーズが振りかけた剣を戻し、ファイアボールを防ぐ。

 それに合わせ、俺はボスマハーウルフの身体を思いっ切り押し返す。


「グゥルワァッ!」


 ボスマハーウルフはバランスを崩して大きく後ろに仰け反るも、なんとか体勢を整える。

 ただ炎魔法に意識を向けていたドーズは振り落とされ、その身体を地に叩き付ける。

 謎の土塊が手から離れるが、慌ててドーズはそれを拾い直す。


「ヒギッ! ア”、ア”ァ”……」


 ドーズは素早く上半身を起こし、俺に剣を向ける。

 後ろに控えていた四体のマハーウルフの内の三体が、一気に俺へと襲いかかってくる。

 ボスマハーウルフも、ドーズを乗せ直すことなく、俺に牙を向けて吠える。


 ミリアの安全を考えるのなら、さっき同様に地の利があるところまで逃げるべきだ。

 謎の大きな足音も、着実に俺達の方へと近づいてきている。


 ただ、そうするとドーズを逃すことになる。

 あいつを野放しにしていると、状況が悪化しそうな気がする。



「ガァァァッ!」


 マハーウルフに回り込まれないよう牽制しながら、俺は後ろに退く。

 有利な地形まで逃げるか、ドーズをここで捕まえるか。

 悩んだ末の、引き伸ばしだった。

 悪手だとはわかっていたが、答えが出せなかった。


 そうこうしている間に、俺に突っ込んでこなかったマハーウルフの一体が、ドーズの傍へと駆け寄っていく。

 ドーズは土塊を大事そうに抱えながらマハーウルフの背に乗り、村の方を剣で示す。


「ヒヒッ、ヒヒハァッ!」


 俺を一瞥してからまた笑い声を上げ、村へと走って行く。


 やっぱり村が目的なのか?

 マハーウルフを片付けるより、ドーズを追うのが先か?


「グルァァァァァッ!」


 いや、あいつはボスマハーウルフを残していきやがった。

 足止めに戦力を割いてきやがった。

 だとすれば尚更、相手の狙いを崩しに掛かりたいところだが、無理に突破しようとすれば、俺だけでなくミリアも大ダメージを受けることになる。 


「ド、ドーズさんが持ってたの……ロックドラゴンの卵かもしれない。あ、あんなの村に持っていったら……大変なことに……」


 ミリアが、悲壮気に呟く。


 ロックドラゴンの、卵?

 ってことは、この足音はやっぱり……。


「ガァァアァオオオオオオオッ!」


 けたたましい咆哮がして、遠くの方にリトルロックドラゴンの姿が見えた。


 まさかあいつ、リトルロックドラゴンを、わざと誘導していたのか?


 マハーウルフの足があれば、完全に振り切ることは容易だったはずだ。

 恐らく、わざと焦らしながら逃げていたのだ。そうとしか考えられない。

 リトルロックドラゴンを村まで誘導するつもりだ。


 俺ではリトルロックドラゴンを倒せない。

 リトルロックドラゴンが村に到着する前に、ドーズから卵を取り返さなくてはならない。


「ガァァァァァッ!」


 俺は無駄だとわかっていながらも、マハーウルフ三体とボスマハーウルフに向かって吠える。

 予想通り、奴らは隙を窺いながら俺に近づいてくる足を止めない。


 リトルロックドラゴンがすぐそこまで来ている以上、ここで応戦するという選択肢はなくなった。

 一撃割り込まれただけでブッ飛ばされる。


 一旦リトルロックドラゴンから離れ、追ってきたマハーウルフを殲滅し、村にいるドーズから卵を奪い返す、これしかない。

 リトルロックドラゴンの足の遅さを考えれば、充分可能なはずだ。

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