第58話
洞穴から出て、四体の猩々の前に俺と黒蜥蜴は姿を現す。
猩々共は俺を見た後、毒に苦しんでいる仲間へと目を移し、それからまた俺を睨んでくる。
俺に毒を盛られたのだと気が付いたようだった。
「アオッ!」「アアッ!」「アー!」
三体の猩々共は怒りを露わにし、長い赤毛を風に靡かせながら俺へと飛び掛かってくる。
とりあえずステータスチェックしとくかな。
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種族:猩々
状態:通常
Lv :17/30
HP :98/98
MP :45/45
攻撃力:82
防御力:51
魔法力:60
素早さ:92
ランク:D
特性スキル:
〖土属性:Lv--〗〖集団行動:Lv--〗
〖器用:Lv2〗
耐性スキル:
〖落下耐性:Lv3〗
通常スキル:
〖噛みつき:Lv2〗〖引っ掻く:Lv3〗〖投石:Lv4〗
〖猿真似:Lv2〗〖クレイウォール:Lv1〗〖猿笛:Lv3〗
〖魔力譲渡:Lv2〗
称号スキル:
〖森の曲芸師:Lv2〗〖連携技:Lv2〗
〖忠誠心:Lv4〗
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多少Lvによって上下はするものの、三体ともステータスはさして変わりない。
スキルもステもバランスは良さそうだが、パッとしたところはない。
へぇ、連携技が得意なのかってくらいだ。
前に戦ったツインヘッドが平均ステ140オーバーでスキル山積みのオールラウンダーだったからか、余計にそう思う。
別に苦戦はしなさそうだな。
「ガァッ!」
俺の鳴き声を合図に、サッと黒蜥蜴が距離を取る。
また黒蜥蜴には〖クレイガン〗での援護射撃を行ってもらうとしよう。
「アッ!」「アァ!」
引っ掻き攻撃を仕掛けてくる先頭の二体を楽々と躱し、尻尾で足許を弾いて地面に倒す。
俺の後ろで派手にすっ転ぶ二体の物音を聞きながら、俺は正面にいる三体目を見据える。
「アァッ!」
三体目は両手を組みながら宙で前転し、勢いをつけて殴り掛かってくる。
俺はその勢いを利用し、〖ドラゴンパンチ〗で腹にカウンターをぶち込む。
「オゴォッ!」
三体目は宙にすっとび、そのまま上手く木の枝を掴んで鉄棒のように回って勢いを殺してから地に着地する。
大した動きだが、〖ドラゴンパンチ〗のダメージをまともに受けたことには違いない。
実際、腹を押さえて苦しそうにしている。
ここまで黒蜥蜴の助太刀はない。
サポートを必要とする場面がまったくなかったからだろう。
いや、ここまで余裕だとは思わんかった。
なんやかんやで俺も結構Lv上がってるからな。
こっちのが速さで上回ってるから多少変な動きされても対処できるし、クレイベアみたいな打たれ強さもないから一発入れた後に反撃される恐れもないし、ツインヘッドみたいな変わった特性スキルや強力な通常スキルもなさそうだし、苦戦する要素がまず何ひとつなかった。
これ、俺一人で充分なんじゃね?
一体先に毒で潰せた、という部分も大きそうだ。
陣形も動きも連携も、なんとなくチグハグな感じがする。
恐らく四体行動前提の動きが多いんだろう。
三体が体勢を立て直しながら移動し、三方向から俺を囲む。
これも本当は四方向から囲むんだろうなぁ……いや、死角に回られるから厄介っちゃ厄介なんだけども。
危なくなったら黒蜥蜴が〖クレイガン〗で手助けしてくれるし、そもそも俺の真正面を担当してる猩々がさっきぶん殴った相手で、明らかにさっきのダメージを引き摺っている。
簡単に崩せそうだ。
猩々は黒蜥蜴に警戒を払いつつも、ジリジリと詰め寄ってくる。
黒蜥蜴はまだ動かない。
俺も、今黒蜥蜴が動く必要性は別に感じていない。
「ガァァァァアッ!」
相対している猩々に対し、俺は殺意を込めた〖咆哮〗をかます。
腹パンをくらってから実力差は充分に感じていたようで、あっさりと硬直して大きな隙を見せてくれた。
ただでさえ不完全だった陣形が瓦解する。
俺は振り返り、後ろの二体を睨む。
「アッ!」「アー!」
ヤケクソで掛かってきた二体の片割れの攻撃を両腕で受け止め、もう一体を尻尾でぶん殴る。
攻撃を防がれた猩々は俺の腕を振り切って後ろへ跳ねるが、その動きに合わせて飛び込んで一気に距離を詰め、顔面に拳を叩き込む。
すでにほとんど勝敗は決した。
猩々のHPは全員半分を余裕で切っている。
もう一発くらわせればそのまま倒せる。
三体は俺から離れ、背をくっ付けて一か所に固まる。
お、降参するか?
でも俺はもう、今日は猿鍋の口になっちまったぞ。
三体の猩々は全員指を口で咥え、息を吹き込んで口笛を鳴らす。
高低異なる三音が重なると、毒で苦しんでいた四体目も頭を持ち上げ、最後の力を振り絞るように口笛を吹いた。
四音揃ったところで一気に音が大きくなり、しかも妙に脳内に響いてきやがる。
なんだ? スキルにあった〖猿笛〗か?
状態異常系統の技か?
狙いが何にせよ、一刻も早くやめさせねばならん。
俺は素早く身体を丸め、〖転がる〗で固まっている三体に突撃する。
直線的過ぎたため、三体は疎らに飛んで回避する。〖猿笛〗を鳴りやませることが目的だったのでその点に関しては問題ない。
三音が途切れ、か細く響いていた最後の一音も後を追うように鳴り止んだ。
安心したその次の瞬間、遠くから大きな足音と咆哮が物凄い速さで近づいてくる。
まさか仲間を呼ぶための技だったのか?
足音の方を向くと、他の奴よりも二回り以上デカイ猩々が、こっちへ向かって走ってきている。
片目には傷が入っており、迫力と威厳がある。
おいおい、ボス来ちまったよ。
明らかに今相手にした四体とは格が違う。
陰で隠れていた黒蜥蜴が、一気に俺の傍へと飛び出してきた。
ボス猩々が来ると、他三体は毒に苦しんでいる一体を抱えながらその陰に隠れるように回り込む。
「…………」
ボス猩々は、ガラス玉のような無機質な目で俺を睨む。
背筋に寒気が走り、身体が無意識の内に一歩退いていた。
クソ!
勝てないと思ったらどいつもこいつも上位種呼びやがって!
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