第18話
完全に予想外だったわ。
いや、だってさ、10mは軽く離れてたもん。
まさかそんな距離まで蜘蛛の糸が届くなんて誰も思わないっしょ。
モンスターの限界を舐めてたわ。
わかってさえいれば崖側で張っておき、糸の橋を〖ベビーブレス〗で燃やして潰せていたというのに、もう逃げ切れたと思ってすっかり気が緩んでいた。
この距離だともう間に合わないでやんの。
俺の馬鹿! 大馬鹿野郎!
タラン・ルージュはまたあの蜘蛛らしからぬ長い赤紫の舌を伸ばし、八本の足を蠢かしながら、地を這って俺に迫ってくる。
まだ俺を追い掛けてくんのかよ!
ちょっと頑張りすぎなんじゃね!? 俺、そこまでアイツに恨まれるようなことしたかぁっ!?
せいぜいケツに火ぶち込んだくらいじゃねぇーか! しつこいにもほどがあんだろ!
俺は崖に背を向け、再び手足、首を丸めて〖転がる〗を使って逃走する。
つっても、逃げても振り切れなきゃ意味ねぇのよな。
崖越えても追い掛けてくるとかマジでどうしようもねぇだろ。
本当に〖飛行〗を使いこなして空高く飛ぶくらいしかないんじゃなかろうか。
逃げるよりも、ぶっ倒すか俺への興味を削ぐかを考えた方が現実的なのかもしれん。
しかし他の方法を模索するにしても、そのためにはとりあえず逃げねばならない。
一気に加速して木々の合間を転がり抜け、全速力で走る。
あれ、ヤバくね?
アイツさっきよりクッソ速いんだけど、手ェ抜いてやがったのか?
俺が崖越えて飛んだのを見て、何がきっかけで逃すかわからないと考えたのかもしれない。
気を抜いたら一瞬で追いつかれる。
【通常スキル〖転がる〗のLvが3から4へと上がりました。】
なんか〖転がる〗のスキレベ上げやってるみたいだな。
いや、仕方ねぇんだけどさ、なんかこう、釈然としないというか……。
しっかしこのスピードで転がり回ってたら、いつか障害物にブチ当たっちまう。
そうなったら一巻の終わりだ。
〖転がる〗で精密な動きが要される今、かなりの集中力が要される。
木、木、岩、木、木、岩………。
右、左、右、左、右、左、右、左……。
凄まじい速さで回る視界の中、なんとか後ろに意識を向ける。
タラン・ルージュは長い舌を振り子よろしく揺らしながら、涎をあちらこちらに撒き散らし、凄まじいスピードで足をシャカシャカと動かしている。
よく着いてこれんなあの蜘蛛。
ひょっとして俺のこと好きなんじゃねぇのアイツ。
悪いけどああいう趣味はねぇぞ。ちっとキツイわ。
前に意識を戻すと、すぐ先にグレーウルフがいた。
あ、ヤベ。
この距離だと避けられねぇ。
右に身体を逸らすも、グレーウルフに思いっ切り激突。
跳ね飛ばしちまった。
グレーウルフは宙を飛び、木にブチ当たって張り付いた。
【経験値を20得ました。】
【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を20得ました。】
【〖厄病子竜〗のLvが1から3へと上がりました。】
なんとか進路を斜めに変更し、減速を最小限に抑え込む。
危ねぇ危ねぇ。
よそ見してたら思わぬ邪魔もんが飛び込んで来やがった。
どうにもモンスターが多いぞこの辺り。
ただでさえ木と岩避けるので精一杯なんだから道遮らないでくれよ。
普通ドラゴンが全速力で転がってきたら道譲るだろ。
ドラゴンは普通全速力で転がらねぇか。元々、卵時代のスキルだしな。
大型のカマキリ〖フォレス・カッター〗、ガラス玉のような無機質な目をした赤毛のゴリラ〖猩々〗。
動くキノコ〖ウォーグマッシュ〗、白黒縞々のデカい蝶〖ゼブラアゲハ〗。
ただでさえこっちは疲れてフラフラなのに、ぽんぽん飛び込んで来やがる。
赤毛ゴリラ以外レベルもさほど高くなかったようで、ブッ飛ばした後、取得経験値がバンバン表示されていく。
完全に轢き逃げだよなコレ。
【〖厄病子竜〗のLvが7から8へと上がりました。】
あれ、結構Lv上がってね?
まぁ低い内はサクサク上がるってのはわかるけどさ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:厄病子竜
状態:通常
Lv :8/40
HP :28/71
MP :12/75
攻撃力:68
防御力:57
魔法力:65
素早さ:62
ランク:D+
特性スキル:
〖竜の鱗:Lv2〗〖神の声:Lv3〗〖グリシャ言語:Lv1〗
〖飛行:Lv1〗〖竜鱗粉:Lv1〗〖闇属性:Lv--〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv3〗〖落下耐性:Lv4〗〖飢餓耐性:Lv3〗
〖毒耐性:Lv3〗〖孤独耐性:Lv4〗〖魔法耐性:Lv2〗
〖闇属性耐性:Lv2〗〖火属性耐性:Lv1〗
通常スキル:
〖転がる:Lv4〗〖ステータス閲覧:Lv3〗〖ベビーブレス:Lv2〗
〖ホイッスル:Lv1〗〖ドラゴンパンチ:Lv2〗〖病魔の息:Lv1〗
〖毒牙:Lv1〗〖痺れ毒爪:Lv1〗
称号スキル:
〖竜王の息子:Lv--〗〖歩く卵:Lv--〗〖ドジ:Lv4〗
〖ただの馬鹿:Lv1〗〖インファイター:Lv3〗〖害虫キラー:Lv2〗
〖嘘吐き:Lv1〗〖回避王:Lv1〗〖救護精神:Lv4〗
〖ちっぽけな勇者:Lv1〗〖悪の道:Lv2〗〖災害:Lv1〗
〖チキンランナー:Lv1〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ん? Lvでは大蜘蛛に大幅に負けてるけど、ステータスは結構追いつけてるんじゃねこれ。
ランク……というよりは種族の差か。
とはいえ大蜘蛛のステのが全体的にちょい上だし、加えて〖HP自動回復〗の力かHPもほとんど回復しきっている。
それらの点でいえばこっちが不利だが、スキルのアドバンテージがある。
タラン・ルージュの持っているスキルの二つ〖蜘蛛の糸〗、〖毒毒〗は俺に効かない。
糸はブレス攻撃で燃やして潰せるし、毒に対してはLv3分の耐性がある。
俺に対し、実質的に奴は近接技しか持っていない。
ここまでステータス差が狭まった今なら勝機があるんじゃね?
素早さも上がったから〖転がる〗全力で逃げ切れるかもしれんが、ただでさえ長時間回転で集中力が切れてる今、更に速度が上がったら事故る自信がある。
どっちも危険なら、スカッとする方を選ばせてもらおう。
ひーこら言いながら危険運転を続けるか、あのストーカーをブッ飛ばすか。
当然後者だ。
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