第11話
…………。
…………………。
ぼんやりと、意識が戻ってくる。
身体中が痛い。重い。わずかに自分の身体に目を向ければ、痛々しい傷だらけだった。
何もしたくない。
もう、ずっと森のひんやりとした土の上に眠っていたい。
駄目だ、痛みや苦しさに負けてしまいそうだ。
現状を……とにかく、現状を把握しなければならない。
ミリアはどうなった? 俺は、どうなった?
目前に意識を向ける。
一体のグレーウルフが目に入った。
それを見て、負けたのだと確信した。
ひょっとしたら起きたら狼はいなくてミリアも無事……なんて、そんな期待はバッサリと切り捨てられる。
んだよクソ、お前の勝ちだよ。
好きにしろ。立つのも面倒くせぇんだ。
とっとと殺せよ。
「 」
意識が回復していないせいか、グレーウルフがなんと鳴いたのかわからなかった。
ただグレーウルフは俺にトドメを刺すことなく、慌ただしく森の奥へと消えて行く。
あ、なんだ?
そういえば、さっきから口に違和感がある。
俺、ずっと何を咥えてるんだ?
顎の力が限界を迎え、自然と咥えていたものが地に落ちる。
血塗れのグレーウルフだった。
【経験値を44得ました。】
【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を44得ました。】
【〖ベビードラゴン〗のLvが22から23へと上がりました。】
……あ、そろそろ進化しそう。
動かすのも億劫な首を持ち上げ左右を見てみれば、グレーウルフの残骸が二体分転がっていた。
俺が、倒したのか? コイツら、俺が倒したのか?
Lvが上がるスピードから考えても、それが正しそうだ。
さっき死にかけ、半分意識を失くして暴れ回った、と考えると辻褄が合う。
そうだ、ミリア……ミリアはどこだ?
ミリア? ミリア?
あ……。
地面の上に転がっているミリアを見つけ、駆け寄る。
生きている。まだ、生きている。
流血でHPが削られつつあるが、今はまだ生きている。
俺は彼女を背負い、ボロボロの身体を引き摺って走り始めた。
やがて森を抜け、盛り上がった土の列が視界に入ってきた。
あれは……畑? ということは、近くに人里がある?
間に合った、俺は、間に合った。
悪いが遠回りする力はなかったため、畑の上を踏んで真っ直ぐ突っ切らせてもらった。
歩く度、身体が軽くなってくるような錯覚さえ感じた。
家らしきものが見え始めてくる。
俺はよろめきながら集落を歩く。
夜であるせいか、なかなか人の姿が見当たらない。
ミリアはそう長くは持ちそうにない。
今すぐにでも治療を要する。
俺は集落の真ん中まで来たところで、大声を上げた。
「グゥオオオオオッ!」
誰か、ミリアを助けてくれ!
出て来い!
「グゥオオオオオオオオッ!」
「グゥオオオオオオオオオオッッ!」
何度も何度も叫び声を上げて必死にアピールした。
後ろからギィと、扉の開く物音が聞こえてきた。
良かった、これでミリアは助かる。
それに、俺ももう死にかけだ。
なんとかミリア経由で信頼を得て、身体を休ませてほしい。
上手く行けば今日から森の生活はやめ、村に居座れるかもしれない。
〖グリシャ言語:Lv1〗は習得しているし、ゆっくり丁寧に教えてもらえば、意思の疎通もいずれできるようになるはずだ。
人間と狩りをしたり、力だけならあるから畑仕事でも案外重宝されるかもしれない。
音がなった方へと俺は振り返る。
そこには半分だけ警戒気味に開いた扉から顔を覗かせている男がいた。
「τέρας!」
直後、肩に走る激痛。
深々と矢が刺さっていた。
俺を射た男は、弓を構えたまま俺を睨んでいた。
口許を噛み締め、足を震わせながら立っている。
そうか……そうだよな、俺はドラゴンだもんな。
そりゃ、ドラゴンが血塗れの人間連れて歩いて、夜中に村のど真ん中で吠えてたら討つしかないよな。
男は俺と目が合うと動きを止めた。
一撃で俺を倒せなかったことを悔いているのだろう。
ステータスを見るに、スキルのないミリアと大差ない。
モンスターとまともに戦えはしないと、そのことは本人もわかっているようだった。
俺はミリアをその場に降ろし、走って村を逃げ出した。
男が弓を落とし、膝を突く音が聞こえる。
きっと、これでミリアは助かる。
これでいい。これで良かったのだ。
とにかく俺は、身体を休められる場所を探そう。
【称号スキル〖救護精神〗のLvが3から4へと上がりました。】
【称号スキル〖ちっぽけな勇者:Lv1〗を得ました。】
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