第3話
彼女の年齢は22歳。
35歳のソウジからしたら若すぎる年齢だったが、彼女からすれば平均寿命まで残り2年。
異性と付き合うにはあまりにも歳を取り過ぎていた。
「だから、22歳になった日に誓ったんです。結婚はおろか、異性と付き合いたいなんて考えるのはもう辞めよう。もし仮に今から結婚できたとしても、夫と一緒にいれる時間は2年ほどしかない。そんな短い時間しか一緒にいれない私のために、相手の人生を一生無駄にさせるようなことはしたくないんです」
この惑星には、とあるルールがあった。
結婚した男女が別れること、つまり離婚をすることは可能だ。
しかし、一度離婚した男女は、二度と他の異性と結婚することは許されない。
つまり、この惑星では再婚をすることが出来ないのだ。
「たった2年しか一緒にいれない女のせいで、その人はもう結婚することが出来なくなるんですよ。そんなの、私には耐えられなくて。だから、ごめんなさい」
彼女はそう言って頭を下げた。
「・・・そういう事ですか。わかりました、やはり先程の言葉は撤回させてください」
そう言うと、彼も彼女に向かって頭を下げた。
「どうか頭を上げてください。でも、嬉しかったです。人生で初めて告白されたんで。まさかこの歳になって、男性から付き合ってくださいなんて言われると思ってなかったから。こんな私に、告白していただいてありがとうございました」
彼女はそう言うと、自分の席に戻ろうとした。
「あの!」
自分の席に戻ろうとする彼女に向かって、彼は言った。
「先程のことは、どうか忘れてください。だから・・・、僕と結婚してください」
彼女の話を聞いて、ソウジは彼女のことが余計に好きになっていた。
こんな素敵な女性が、まだこの惑星にいたのかと。
最初は一目惚れだったけど、今は彼女のすべてが好きだ。
僕は、彼女と一緒にいたい。
「あの・・・、私の話、聞いてました?」
「もちろん、ちゃんと聞いてました。あなたの気持ちを聞いたうえで、僕はあなたと一緒にいたい。だから、もしこんなおじさんでもよければ、僕と結婚してください」
彼があまりにも真剣な顔で言うものだから、彼女は思わず声を出して笑ってしまった。
「・・・やっぱり、ダメですよね。すいません・・・」
残念そうな顔でそういう彼に、「だから、謝らないでくださいって」と彼女は笑いながら言った。
「本当に、私なんかでいいんですか?」
そう尋ねられたソウジは、頭が取れるかと思うくらい何度も首を縦に振った。
「私も・・・、私も、あなたと一緒にいたいです」
ソウジは自分の耳を疑った。
聞き間違いか?
きっと聞き間違いだろう。
彼は自分にそう言い聞かせながら、それでも無意識のうちに、「え?」と口にしていた。
「だから、私もあなたと一緒にいたいって、そう思ってます。」
それを聞いて、彼はまたしても目から大粒の涙をこぼした。
「ほらほら、もう泣かないで。他のお客さんが見てますよ」
彼女は彼の手からハンカチを取ると、笑顔でそう言いながら彼の目元をハンカチで拭いた。
「・・・ただし、一つだけ“条件”があります」
そして彼らは、二人で一緒に“初めての恋”を始めた。
二人で一緒の場所に行った。
二人で一緒の映画を観た。
二人で一緒の物を食べた。
二人で一緒のベッドで寝た。
二人で一緒の家に住んだ。
それから彼女が亡くなるまでの一年と少しの間、二人はいろんな初めてを一緒にした。
彼女は亡くなる直前、
「もっと、あなたと一緒にいたかったな。もっと一緒にいろんなところに行きたかったし、いろんなことをしたかったな。あなたと・・・、あなたと結婚したかったな」
そう彼に言った。
二人はずっと一緒にいたけれど、結婚することはなかった。
最後まで籍を入れることはしなかったのだ。
それが、あの日彼女が彼に提示した“条件”だったからだ。
もし彼が彼女と結婚したら、彼女が亡くなったあと、彼は本当に独りぼっちになってしまう。
それだけは絶対にしたくないと、彼女は言った。
「結婚しようがしまいが、僕なんかと付き合ってくれる人なんて、君以外にもう現れることはないと思うよ」
彼はいつも笑いながらそう言ったけれど、
「歳なんて関係ない。あなたは、あなたが思っている何億倍も素敵な男性だから。きっとあなたのことを好きになる女性は、この惑星にごまんといるはずよ」
彼女はそう言って、籍を入れることだけは頑なに拒み続けた。
その度に彼は少しだけ寂しい気持ちになっていたけれど、それは彼女も同じことだった。
僕が何度も、「結婚しよう」と言うたびに、僕は彼女のことを傷つけていたのだ。
だから、どうかせめて彼女の最後の願いを叶えたい。
それが、僕ら二人がずっと一緒に願っていた事だと知ることができたから。
「事情は分かりました」
「やっぱり、亡くなった人と結婚するなんて無理な相談ですよね・・・」
たしかにこの惑星では、いや、この惑星に限った話ではないかもしれないが、生者と死者が結婚することは認められていない。
「・・・とても強引な方法ですが、ソウジさんと彼女さんが結婚できる方法が一つだけあります」
「本当ですか!?」
「はい。ですが、その方法で彼女さんと結婚できたとしても、ソウジさんはこれから先普通の生活はできなくなります。それでも、彼女さんと結婚しますか?」
ハルコが思いついた方法は、彼女が忠告した通り今後の彼の人生を確実に壊してしまうことになるだろう。
けれど、ソウジの決意は固かった。
「もし仮に僕がその方法を選んだことで路頭に迷おうが死ぬことになろうが、彼女と結婚できるなら悔いはありません」
彼のその言葉を聞いて、ハルコも覚悟を決めた。
「それではソウジさん・・・、あなたには死んでもらうことになります」
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