第2話
彼の名前は床尾ソウジ、歳は38歳、広告代理店で営業をしている。
そんな彼は、半年前に最愛の人を亡くしていた。
二人が出会ったのはソウジが35歳、彼女が22歳の時だ。
一目惚れだった。
この惑星では30歳を超えても彼女すらいない男性は、よほどのことが無い限りは独身のまま一生を終えると言われていた。
まぁ、それもこの惑星の女性の平均寿命を考えれば当然の事だろう。
この惑星の平均結婚年齢は夫が18歳、妻が17歳だ。
だから、ソウジくらいの歳になっても彼女すらいない男性は、いかに残りの人生を一人で楽しめるかを考えるものが大概だった。
そんなソウジと彼女の出会いは、つまらないほど在り来りなものだった。
行きつけの居酒屋でいつも通り一人で呑んでいると、彼女が一人で入ってきた。
こんな可愛い子が妻だったらなと一人妄想を膨らましていたソウジだったが、次第に自分はこのまま独りぼっちで歳を取り、独りぼっちで死んでいくのかと考え出してしまった。
すると急に胸が苦しくなり、気付いたときには涙をボロボロとこぼしていた。
「あの、大丈夫ですか?」
そう声を掛かけられ顔を上げると、彼女がハンカチを差し出しながら心配そうに彼を見ていた。
「よければ、これ使ってください」
ハンカチを受け取った彼は涙を拭くと、彼女にお礼を言わなければと思った。
「僕と、お付き合いしてください」
誰よりも驚いたのは彼自身だった。
“ありがとうございます”と言おうとしたのに、どうしてそうなるんだ。
どんな頭をしてたら、“ありがとうございます”が“結婚してください”に変換されるんだ。
彼は慌てて、
「いえ・・・違うんです。・・・本当にすいません、気にしないでください。本当に本当にすいませんでした」
と、ただただ平謝りをするしかなかった。
すると彼女は、
「そんなに何度も謝らないでください。別に気にしてないですし、それに男性にそう言ってもらえるのは嬉しいことですから」
と笑顔でそう言った。
彼女のその優しさが、ソウジにとっては余計に辛かった。
「本当に、本当にすいませんでした。あの、本当に気にしないでください。すいません、本当にすいません」
「だから、そんなに謝らないでください。でも、申し訳ないですがお付き合いの件はお断りさせてください」
「そりゃそうですよね。あなたくらいお綺麗な方が一人なわけがない。こんなおじさんに突然付き合ってくださいなんて言われて、気持ち悪かったですよね」
彼は精一杯の作り笑をしながら言った。
「いえ、違うんです。夫も、ましてや付きあっている男性すらいないんです。でも、できないんです」
彼女は寂しそうな顔をしながら言った。
「できないって、それはどういう意味ですか?」と彼は聞こうとしたが、彼が口を開く前に彼女が言った。
「この前の誕生日に、自分に誓ったんです。これからは一人で生きていこうって」
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