第1章 出会い、はじまり。

第1話 序開

 その人は、とにかくかわいい人だった。やや不安そうな表情の童顔。しなやかな身体に、柔らかい声。みんなとは違う制服を着た彼女、羽島華奈はしまはなは突然やって来た。

 自己紹介を終え、彼女はざわめくクラスを一瞥し今まではなかった教室の端っこの席へ着く。

 かわいい転校生が来る、か。こんなイベント実際にあるんだな。ま、どうでもいいけど。


 このころの俺は、まさかここから青春が始まるなんて思ってもみなかった。



「そろそろ行くか……」

 俺は重い腰を上げてリュックを背負う。もう九月なのに、暑さは衰えを知らないみたいだ。

 俺――福島彩太ふくしまあやたは、ありふれた高校二年生だった。

 本当に、どこにでもいるありふれた高校生だ。イケメンでもなければ高身長でもない。部活で野球をやっているが、特段うまいわけでもなく特に実績もない。勉強もそこそこ。非凡な特技もないし、生まれながらの目覚しいセンスもない。

 特筆する所なんてほとんどない。The・モブ高校生だと自分でも自負している。

 自己紹介なんてこんな短文で終わってしまう俺は、気だるそうに家を出た。

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